(1965/ウィリアム・ワイラー監督/テレンス・スタンプ、サマンサ・エッガー、モーリス・ダリモア、モナ・ウォッシュボーン/119分)
中学生か高校生の頃の『日曜洋画劇場』で初めて観たワイラーの「コレクター」を、数十年ぶりにレンタルDVDで観ました。1997年にモーガン・フリーマン主演の同名の映画が作られていて、これはワイラー版のリメイクかと後にレンタル・ビデオで観ましたが、女性を誘拐監禁する異常者が出てくるという題材は同じでもストーリーはかなり違っていて、ネットで調べたら原作からして別物でした。97年の「コレクター」は被害者が複数だったことと、猟奇的な謎解き、サスペンスがテーマだったことくらいしか覚えて無く、一方のワイラー版は何故か猟奇的な印象が弱くて、ちょっとネタバレになるけれど、ヒロインがお風呂に入っている時のお湯を使ったハラハラシーンのような演出の上手さが記憶に残っておりました。
ワイラー版「コレクター」を改めて観て、形態的には確かに異様な犯罪が題材だけど、いわばストーカー行為の異常版であり、恋愛感情の裏にある独占欲とか支配欲を拡大誇張した登場人物を主人公にした心理サスペンスの印象が強い作品でした。いわゆるサイコパスですが、ヒッチコックの「サイコ」が彼らを客観的に描いたのに対して、こちらは正面から異常者を描いており、論理的な思考が出来るにもかかわらず肝心な部分で人間性が欠落している様子が少しずつ出てくる所が被害者との共感をもって怖さを感じさせます。「女相続人」、「噂の二人」など人間心理のヒダを描くのが上手いワイラーならではの心理ドラマであります。
異常なストーカー的人物が主人公ということでロブ・ライナーの「ミザリー」も思い出しましたが、どこか品格が違いますな。
ハロルド・ピンターが脚本を書いてカレル・ライスが監督をした「フランス軍中尉の女(1981)」の原作者でもある、英国の小説家ジョン・ファウルズが36歳の時に書いた処女小説が原作。映画でも最初と最後に主人公のモノローグが流れていて、小説も一人称形式で書かれているようです。
主人公の孤独な元銀行員フレディを演じるのは、当時26歳のテレンス・スタンプ。実質的な主演デビュー作であるこの映画で、カンヌ映画祭の男優賞を獲ったそうです。
口下手で他人と打ち解けないフレディは、銀行でも顧客の対応をしなくてよい奥の壁際の机を与えられ、職場の仲間にも馬鹿にされながら働いていましたが、ある日サッカーくじで大当たりを獲り、銀行も辞めたのでした。サッカーくじで大金を取った事を知らせてくれたのが叔母さんでしたから、フレディの両親は既に亡くなっていたのでしょう。彼の唯一の楽しみが蝶の採集でした。
フレディに誘拐されるロンドンの画学生ミランダを演じたのは、スタンプと同い年のサマンサ・エッガー。彼女にとっても初の主演作で、同じくカンヌ映画祭の女優賞を獲ったばかりでなく、ゴールデン・グローブの女優賞(ドラマ)も獲得、更には65年のアカデミー賞では主演女優賞にノミネートされました。
ミランダを通勤の途中で見かけて以来好意を持っていたフレディは、大金を手にした後、蝶の採集の最中にたまたま郊外の売り家を見つけ直ぐに購入したのでした。隣家まで800mも離れており、半地下の倉庫にはその奥に扉のついた地下室があり、其処がミランダを閉じ込めるのに最適な場所であると思いついたからです。
フレディの望みは、当たり前のやり方では絶対に口も訊けないだろうミランダを、彼流の言い方でいえば"お客”として地下室に閉じ込め、数ヶ月をかけて自分を理解してもらい、そして愛してもらうことでした。ミランダのために用意した"ゲストルーム”には彼女の為に沢山の洋服を揃え、ピカソやセザンヌの画集も置き、画材も好きなものを買って与えるつもりでした。とっかかりは暴力的に誘拐してきたけれど、時間をかけて話をしていけば自分の愛情はミランダに届くはずと思っていたのです・・・。
初めて観た数十年前はフィクションとして楽しめた映画ですが、その後現実に似たような事件が日本でも発生しているので、果たして楽しめるかなと再見前は心配していましたが、身体的な暴力や性的陵辱を興味本位で描いた作品ではなく、リアルに描かれた被害者の心理的恐怖が鑑賞後にじわじわと沸いてくる傑作です。
全編の8割以上、9割近くがスタンプとエッガー二人だけのシーンばかりなのに、2時間を持たせるワイラーの演出力には今回も唸ってしまいました
1965年のアカデミー賞では主演女優賞以外に、監督賞、脚色賞(ジョン・コーン、スタンリー・マン共作)にもノミネートされたそうです。
※ メモ的備忘録はコチラ。
※ ネタバレ備忘録はコチラ。
中学生か高校生の頃の『日曜洋画劇場』で初めて観たワイラーの「コレクター」を、数十年ぶりにレンタルDVDで観ました。1997年にモーガン・フリーマン主演の同名の映画が作られていて、これはワイラー版のリメイクかと後にレンタル・ビデオで観ましたが、女性を誘拐監禁する異常者が出てくるという題材は同じでもストーリーはかなり違っていて、ネットで調べたら原作からして別物でした。97年の「コレクター」は被害者が複数だったことと、猟奇的な謎解き、サスペンスがテーマだったことくらいしか覚えて無く、一方のワイラー版は何故か猟奇的な印象が弱くて、ちょっとネタバレになるけれど、ヒロインがお風呂に入っている時のお湯を使ったハラハラシーンのような演出の上手さが記憶に残っておりました。
ワイラー版「コレクター」を改めて観て、形態的には確かに異様な犯罪が題材だけど、いわばストーカー行為の異常版であり、恋愛感情の裏にある独占欲とか支配欲を拡大誇張した登場人物を主人公にした心理サスペンスの印象が強い作品でした。いわゆるサイコパスですが、ヒッチコックの「サイコ」が彼らを客観的に描いたのに対して、こちらは正面から異常者を描いており、論理的な思考が出来るにもかかわらず肝心な部分で人間性が欠落している様子が少しずつ出てくる所が被害者との共感をもって怖さを感じさせます。「女相続人」、「噂の二人」など人間心理のヒダを描くのが上手いワイラーならではの心理ドラマであります。
異常なストーカー的人物が主人公ということでロブ・ライナーの「ミザリー」も思い出しましたが、どこか品格が違いますな。
ハロルド・ピンターが脚本を書いてカレル・ライスが監督をした「フランス軍中尉の女(1981)」の原作者でもある、英国の小説家ジョン・ファウルズが36歳の時に書いた処女小説が原作。映画でも最初と最後に主人公のモノローグが流れていて、小説も一人称形式で書かれているようです。
主人公の孤独な元銀行員フレディを演じるのは、当時26歳のテレンス・スタンプ。実質的な主演デビュー作であるこの映画で、カンヌ映画祭の男優賞を獲ったそうです。
口下手で他人と打ち解けないフレディは、銀行でも顧客の対応をしなくてよい奥の壁際の机を与えられ、職場の仲間にも馬鹿にされながら働いていましたが、ある日サッカーくじで大当たりを獲り、銀行も辞めたのでした。サッカーくじで大金を取った事を知らせてくれたのが叔母さんでしたから、フレディの両親は既に亡くなっていたのでしょう。彼の唯一の楽しみが蝶の採集でした。
フレディに誘拐されるロンドンの画学生ミランダを演じたのは、スタンプと同い年のサマンサ・エッガー。彼女にとっても初の主演作で、同じくカンヌ映画祭の女優賞を獲ったばかりでなく、ゴールデン・グローブの女優賞(ドラマ)も獲得、更には65年のアカデミー賞では主演女優賞にノミネートされました。
ミランダを通勤の途中で見かけて以来好意を持っていたフレディは、大金を手にした後、蝶の採集の最中にたまたま郊外の売り家を見つけ直ぐに購入したのでした。隣家まで800mも離れており、半地下の倉庫にはその奥に扉のついた地下室があり、其処がミランダを閉じ込めるのに最適な場所であると思いついたからです。
フレディの望みは、当たり前のやり方では絶対に口も訊けないだろうミランダを、彼流の言い方でいえば"お客”として地下室に閉じ込め、数ヶ月をかけて自分を理解してもらい、そして愛してもらうことでした。ミランダのために用意した"ゲストルーム”には彼女の為に沢山の洋服を揃え、ピカソやセザンヌの画集も置き、画材も好きなものを買って与えるつもりでした。とっかかりは暴力的に誘拐してきたけれど、時間をかけて話をしていけば自分の愛情はミランダに届くはずと思っていたのです・・・。
初めて観た数十年前はフィクションとして楽しめた映画ですが、その後現実に似たような事件が日本でも発生しているので、果たして楽しめるかなと再見前は心配していましたが、身体的な暴力や性的陵辱を興味本位で描いた作品ではなく、リアルに描かれた被害者の心理的恐怖が鑑賞後にじわじわと沸いてくる傑作です。
全編の8割以上、9割近くがスタンプとエッガー二人だけのシーンばかりなのに、2時間を持たせるワイラーの演出力には今回も唸ってしまいました
1965年のアカデミー賞では主演女優賞以外に、監督賞、脚色賞(ジョン・コーン、スタンリー・マン共作)にもノミネートされたそうです。
※ メモ的備忘録はコチラ。
※ ネタバレ備忘録はコチラ。
・お薦め度【★★★★★=大いに観るべし!】
ショッキングなシーンで興味を引こうとする今日の作品とは違いますよね。
インテリ過ぎだったから上手くいかなかったので、今度はもう少し程度を下げようって、言い方でしたっけ。好きだった彼女に振られた友人が、その子の事とを悪く言ってたのを思い出しましたネ。
なるほど、「サイコ」が観照的だったのに対し、本作は人物の心理に入っていきますね。
ワイラーほどの実力者ですからヒッチコックを模倣する必要もないでしょうが、二人の人物の対照を表現する為に「疑惑の影」を参考にしたところもあるような気がしています。
何と言っても「コレクター」は映画的です。観客が純粋に画面の中の出来事にのめり込める。
昨今のサスペンスは・・・最近大分落ち着きましたが・・・画面の外で観客と勝負するなんて阿呆らしい流行もありました。
何度も観ていくと、やはり製作者側はこういう犯罪の卑劣さを描くのもテーマの一つとして持っていたと感じざるを得ません。
娯楽性と社会性を併せ持つ映画。
ワイラーらしい仕事ですね。