何を見ても何かを思い出す

He who laughs last laughs best

CHANGEをチェンジし CHANCEをつかめ

2016-10-16 19:55:00 | 
Ask not what your country can do for you; ask what you can do for your country.(セオドア・C・ソレンセン)

ケネディ大統領就任演説の、この有名な言葉がスピーチライターによるものだと知った時は、軽くショックを受けたものだが、それが、私がスピーチライターという職業を知った切っ掛けだったため、スピーチライターとは大統領(クラス)の演説の草稿を練る人だと思っていた。
だが、最近読んだ本によると、ちょっとした披露宴のスピーチの世話までするようで、なんとも微妙な気がしている。
「本日は、お日柄もよく」(原田マハ)

本のカバー前袖には、『二ノ宮こと葉は、製菓会社の総務部に勤める普通のOL。他人の結婚式に出るたびに、『人並みな幸せが、この先自分に訪れることがあるのだろうか』と、気が滅入る27歳だ。けれど、今日は気が滅入るどころの話じゃない。なんと、密かに片思いしていた幼なじみ・今川厚志の結婚披露宴だった。ところが、そこですばらしいスピーチに出会い、思わず感動、涙する。伝説のスピーチライター・久遠久美の祝辞だった。衝撃を受けたこと葉は、久美に弟子入りすることになるが・・・・・。』 とある。(『 』「本日は、お日柄もよく」より引用)

式典や結婚式などで、意味のないスピーチを長々聞かされるのは拷問でしかないので、言葉のプロが考えた原稿を、プロ仕込みの話術でスピーチしてくれる方が有難いに違いないが、どれもこれも感動的で素晴らしいスピーチというのも却って個性が無いように感じるのは、私が天の邪鬼だからだろうか。

それは兎も角、片思いの幼馴染の披露宴で、あまりに酷いスピーチとあまりに素晴らしいスピーチに出くわした為、スピーチを学ぼうと思い立った本書の主人公・こと葉は、二人の素晴らしい師(もしくはライバル)に恵まれる。
一人は、伝説のスピーチライターと呼び声高い久遠久美で、もう一人は、大手広告代理店の若きエース・和田日間足(通称・ワダカマ)だ。
この二人は当代きってのスピーチライターとコピーライターであるため、手掛ける仕事も大きい。
ワダカマが、政策の是非はさておきライオンヘアに「郵政民営化」を叫ばせ与党を圧勝に導いたヤリ手ならば、久遠久美は、政策はともかく「政権交代」の一言を浸透させることで政権交代を実現させてしまう凄腕だ。
そして、この言葉のプロ二人が注目しているのが、民主党代表を競うヒラリー・クリントンと対照的なバラク・オバマの言葉だ。

一頃、世界中老いも若きも「yes,we can」を知らない者はいなかった。オバマの言葉は独り歩きし、大統領としては未だ何もしていない段階でノーベル平和賞まで受賞することになるのだが、この受賞はひとえに「オバマの言葉」に与えられたといって過言でないと感じていた。
そして、何がオバマの言葉にこれほどの力を与えているのかと訝しくも思っていたのだが、本書にはその答えのヒントが提示されている。
本書によると、ヒラリーが演説で「I(私)」と言い続けたのに対し、オバマがいつも「We(私達)」と語りかけたという。それが、聴衆に「weには自分も含まれている」と感じさせる効果を持ち、「change」の一言が変化と進歩を望む人々を鼓舞したのだという。
2008年11月、『スピーチで世界を変える』 『言葉を操る』を信条とする久遠とワダカマの予想通り、オバマは有色人種として初めてのアメリカ大統領に選出されるのだが、本書は、その2008年11月から一年半にわたり書かれている。
つまり本書は、「郵政民営化〇か×か」の興奮冷めやらぬ時期から、オバマの言葉を経て、新聞一面に「政権交代」という文字が踊らぬ日がない時期までを書いた物語である。

だが、国民は今、知ってしまった。
ワンフレーズポリティクスに翻弄される宴の、後を。

本書が、「言葉には力がある、その言葉の力を巧みに操れば、言葉で世界を変えることができる」という事だけをただ力説する物語ならば、諸々の結果が見えてしまった2016年現在、少々陳腐な小説に思えたかもしれない。
だが、そこは流石、原田マハ氏というべきか、言葉を紡ぐために一番重要なのは、「静」と「聞くこと」だと書いてる。

伝説のスピーチライター久遠は、スピーチにおける「静」の重要性を繰り返し説くし、ワダカマは『(コピーライター養成所に入るより)言葉を全身で受け止めてみろ』という父の言葉を守りリスニングボランティアとして活動し、それを通じて『聞くことは、話すことよりもずっとエネルギーがいる。だけどその分、話すための勇気を得られる』という考えに至っている。

勿論、しゃべってナンボの政治家がダンマリを決め込むわけにはいかないし、披露宴に呼ばれて『えー、本日は、お日柄もよく、若い二人の門出を祝すにふさわしい、素晴らしい日となりました』・・・オワリというわけにもいかない。
だが、言葉に命を吹き込むには、話し手にまず相手の言葉を全身で受け留める姿勢が必要であり、聞き手が受け留めるための静けさが必要だと本書は教えてくれていると思う。
あの喧騒から数年を経ても、本書が読まれ続けているのは、それが書かれているからだと思っている。

ところで、私に聞くことの重要性と優しさを教えてくれたのは、ワンコだ。
家族が喜んでいる時は、皆のまんなかで大はしゃぎし、一人でそっと嘆いている者がいるときは、黙ってそばに寄り添ってくれたワンコ。
私の愚痴を黙って聞きながら、涙が頬を伝わないようにと、なめてくれた、ワンコ。
私の愚痴で消化不良を起こしたのか、涙がしょっぱすぐたのか、その後ワンコの方が体調を崩してしまったのを見た時、ワンコがどれほど全身で私の言葉を受け留めてくれていたのかを知り、二度と愚痴を聞かせまいと誓ったのだが、ワンコ実家母さんも、「人間には口があるから、犬には到底かなわない」と、おっしゃっていた。

もちろん今も私は、ワンコの足元にも及んでいない。
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