何を見ても何かを思い出す

He who laughs last laughs best

耐え難きを耐え、夏①

2021-08-20 09:51:25 | 

ワンコが天上界の住犬になって5年と7カ月
今月の本は、最初はワンコのお告げだとは気づかなかったんだよ

本屋さんで、ふと見かけた本のタイトルが、友人との会話にでてきたばかりのマンガのタイトルと同じだったので、その本を手に取ったんだよ
すると、最初に目に飛び込んできた文字が、その友人の住まいがある地名で、
次に目に飛び込んできたのが、信州・松本で、
その次に目をやった目次に、金鵄の文字があったのだから、そりゃぁもう買うしかないよね

「帰郷」(浅田次郎)

それは、「レイテ戦記」「野火」(大岡昇平)とも違うし、「火垂るの墓」(野坂昭如)とも違うんだよ
一言で、戦争ものと云うことも、反戦ものとも云うこともできないのだけれど、
戦争によって運命の深い処に大きな影響を受けた人たちの話なんだよ

戦地での強烈な場面も所々にあるのだけれど、
帰還してみれば亡き者となっていて居場所がない帰還兵の話や、
遊園地でバイトする大学生が、客の親子を見ながら、戦死した父と戦争未亡人となった母を思う話や、
戦後20年ほどたった自衛隊員と戦中の陸軍兵が時空を超えて交流する話など、
戦争に関わる六編の短編からなる話なんだよ

友人は、ジェンダーの話の関係で「帰郷」という漫画を教えてくれたので、
同じタイトルでも全くジャンルの違う話に、うぅーんと唸りながら読んだのだけど、
読み終えて、ふと気付くと、その日は15日終戦記念日

このような話なので、美しい自然描写も明るい未来に希望を感じさせてくれるような名言もないのだけれど、
帰郷を願った故郷が信州で、自衛隊と旧日本軍の時空を超えた邂逅の場が富士山の麓だったからかな?
井上靖氏の「欅の木」と、そこに収められていた歌を思い出したんだよ

命ありて帰還の途次に仰ぎたる あはれ夕暮の富士を忘れず

「欅の木」(井上靖)で描かれる、
穂高神社の欅の木

「欅の木」には、日本に帰りたい、もう一度日本の春に、せめて夢の中ででも日本の春におめにかかりたい、
その一心で海の底を歩いて帰ってきた戦友と語り合う場面があるのだけれど、
「帰郷」にも、南方で飢餓と病に倒れた兵士の痛切な言葉があるんだよ

『僕を、あなたの腹に収めて、国に連れて帰って下さい』

どれほど多くの命が、大切な人の幸せだけを願いながら、遠い地で散ってしまったのだろう

終戦記念日 黙祷の後、
コロナ禍の今、再び、耐え難きを耐え忍び難きを忍んでいるよね、と家族は言ったけれど、

同じく井上靖氏の「あすなろ物語」にあった歌を思い出すと、そんな甘っちょろいことは言ってられないね

『この夏は 血も汗もただに弁えず』

これは、主人公鮎太の旧制高等学校時代の友人が出征するにあたり残していった短冊なのだけど、
この友人も帰ってくることはできなかったんだよ

どれほど多くの命が、大切な人の幸せだけを願いながら、遠い地で散ってしまったのだろう
水脈の果て、富士の高嶺に祈る平和 - 何を見ても何かを思い出す

穂高神社の欅の木の前で佇むワンコ


最近では戦争ものというと、ナンチャッテ右と とりあえず反対の左に体よく利用されている感じがして遠ざけていたのだけれど、
こんな時代だからこそ、穂高神社の欅の木を思い出しながら本書を読むことができたこと
よかったよ
やっぱりワンコのおかげだね

後日談としてね、本書を金鵄つながりの君にプレゼントしたんだよ
最近すっかり捻じれてしまっていることが気になっていたのだけれど、
思いが通じたと思える顔を、久しぶりに見せてくれて、嬉しかったよ
これもやっぱりワンコのおかげだね

ありがとね ワンコ
来月もまた よろしくねワンコ


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