図書館に予約していた本を受け取った。
まだ新しい本を読む気力が湧かないとは思ったが、順番を待つ人もいる人気の作家さんなので、とりあえずザッと読み、早く返却しようと思い、手に取り驚いた。
ワンコだな。
「蓮花の契り」(高田郁)の背表紙には、主人公は三枚聖だとある。
背表紙より
『下落合で弔いを専門とする墓寺、青泉寺。
お縁は「三味聖」としてその湯灌場に立ち、死者の無念や心残りを取り除くように、優しい手で亡骸を洗い清める。
そんな三昧聖の湯潅を望む者は多く、夢中で働くうちに、お縁は二十二歳になっていた。
だが、文化三年から翌年にかけて、江戸の街は大きな不幸に見舞われ、それに伴い、お縁にまつわるひとびと、そしてお縁自身の運命の歯車が狂い始める。
実母お香との真の和解はあるのか、そして正念との関係に新たな展開はあるのか。
お縁にとっての真の幸せとは何か。
生きることの意味を問う物語、堂々の完結。』
「出世花」(高田郁)を知らなかった私は、その続編だという「蓮花の契り」の内容を知って予約したわけではない。
高田郁氏の「みをつくし料理帖シリーズ」や「愛 永遠にあり」を読んでいたので、何となく新刊を予約していたのだが、このタイミングで、この作品に出会えたのは、やはりワンコの仕業だとしか思えない。
映画「おくりびと」のためか納棺師という仕事が注目されるようになったが、主人公・お縁(正縁)は江戸時代の納棺師ともいえる三昧聖。
もとは武家の娘だったお縁が、父亡き後に身を寄せたのは墓寺だった。
武家の娘だったからこそ、大名家の正妻の境地を理解できるのかもしれないし、武家の娘でありながら理由あって三昧聖となったからこそ、苦界に身を沈めた女の痛みも分かったのかもしれない。
生きている間は、その立場や境遇に苦しみ、自身ではどうにもならぬ感情に翻弄された人間が、お縁に湯灌してもらうことで清められ、お浄土への旅支度が整っていく場面は、静謐で厳かで、今の私には心に沁みてくるものがあった。
又、幾通りもの道が目の前に開けていくお縁が選ぶ道とその理由に心打たれた。
『現世での契りには限りがある~略~御仏の弟子として同じ道を歩む存在でありたい』
その道とは、『大切な人の死の衝撃を和らげるのは、もう何も思い残すことはない、という新仏の安らかな死に顔に他ならない。亡き人の未練や苦しみを蓮の花に変えて浄土へ見送り、残された人の悔いや悲しみを和らげ』続けること、そう決めたお縁の目には『純白に柔らかな紅を差した美しい蓮の花』が広がり、お縁の耳には『極楽浄土に棲む迦陵頻伽という鳥のものか、涼やかで華やかな鳴き声が』届く。
静謐な余韻に包まれながら最後のページを閉じ、つづく作者のあとがきを読み、驚いた。
ワンコの仕業だな ワンコの願いだな。
あとがきより
『この世に生を受けた者は、いずれ必ず死を迎えます。自分の命がある限りは、先に死にゆく誰かを見送らねばならず、大切な人の数だけその苦しいまでの喪失感を味わうことになります。そうだとすれば、死別の悲しみや悔いからは生涯、逃れられないようにも思われます。
けれども、ゆるやかな時の経過とともに、悲しみは薄紙を剥がすように少しずつ削がれていき、やがて、懐かしさへと姿を変えてくれます。気がつけば、涙ではなく微笑みで思い出を語る日も巡ってきます。
限りある命だからこそ、先に旅立ったひとに心配をかけないよう、毎日を丁寧に生きていこう、と思える日が訪れます。
~略~
いつかその悲しみの癒える日が巡ってくることを心から祈っています。
あなたの悲しみに、この物語が届きますように。
祈りとともに 高田郁拝 』
高田郁拝の文字が、私にはワンコ拝と見えて仕方なかった。
笑うように眠ったワンコ
家族それぞれが、それぞれ時間を紡ぎ、夜を徹して夜伽でワンコと語り明かした
ワンコがたわむれた庭の草木で身を包まれ、笑顔を浮かべて旅立ったワンコ
ワンコが私たちに、「心配をかけるな、毎日を丁寧に生きてゆけ」と命じている。
ワンコの仕業(ご縁)だとしか思えないタイミングで届いた、この物語(にあるワンコの願い)、しかと受け留めたぞ ワンコ
ワンコに心配をかけぬよう、毎日を丁寧に生きていくよう頑張るよ ワンコ
追記1月29日記す
予約待ちの人がいる本なので、返却を急がねばならないが、名残惜しくもう一度読み返していると、またワンコを感じた。
ワンコは庭が好きだった。
季節ごとの花と野菜を植え替える作業の横で、若い頃は、トカゲを追い、老いては日向ぼっこをして過した、ワンコ。
これからもワンコが庭で遊べるようにと、ワンコ馴染みの庭草で囲んで見送った。
ワンコが、あの草木や花を目印にして、帰ってこれるようにと。
その想いに通じる文章を「蓮花の契り」の最後に見付けたので記しておく。
ワンコからのメッセージと受け留め
『(主人公お縁が、これから住まう庵の庭について)
絶えたはずの命、失われた命も、季節の巡りとともに新しい命となって、この庭に帰ってくる』
犬星に御挨拶をして、知恩院さんとお伊勢さんを詣でたら、ワンコ
必ず、我が家に帰ってくるのだよ ワンコ
まだ新しい本を読む気力が湧かないとは思ったが、順番を待つ人もいる人気の作家さんなので、とりあえずザッと読み、早く返却しようと思い、手に取り驚いた。
ワンコだな。
「蓮花の契り」(高田郁)の背表紙には、主人公は三枚聖だとある。
背表紙より
『下落合で弔いを専門とする墓寺、青泉寺。
お縁は「三味聖」としてその湯灌場に立ち、死者の無念や心残りを取り除くように、優しい手で亡骸を洗い清める。
そんな三昧聖の湯潅を望む者は多く、夢中で働くうちに、お縁は二十二歳になっていた。
だが、文化三年から翌年にかけて、江戸の街は大きな不幸に見舞われ、それに伴い、お縁にまつわるひとびと、そしてお縁自身の運命の歯車が狂い始める。
実母お香との真の和解はあるのか、そして正念との関係に新たな展開はあるのか。
お縁にとっての真の幸せとは何か。
生きることの意味を問う物語、堂々の完結。』
「出世花」(高田郁)を知らなかった私は、その続編だという「蓮花の契り」の内容を知って予約したわけではない。
高田郁氏の「みをつくし料理帖シリーズ」や「愛 永遠にあり」を読んでいたので、何となく新刊を予約していたのだが、このタイミングで、この作品に出会えたのは、やはりワンコの仕業だとしか思えない。
映画「おくりびと」のためか納棺師という仕事が注目されるようになったが、主人公・お縁(正縁)は江戸時代の納棺師ともいえる三昧聖。
もとは武家の娘だったお縁が、父亡き後に身を寄せたのは墓寺だった。
武家の娘だったからこそ、大名家の正妻の境地を理解できるのかもしれないし、武家の娘でありながら理由あって三昧聖となったからこそ、苦界に身を沈めた女の痛みも分かったのかもしれない。
生きている間は、その立場や境遇に苦しみ、自身ではどうにもならぬ感情に翻弄された人間が、お縁に湯灌してもらうことで清められ、お浄土への旅支度が整っていく場面は、静謐で厳かで、今の私には心に沁みてくるものがあった。
又、幾通りもの道が目の前に開けていくお縁が選ぶ道とその理由に心打たれた。
『現世での契りには限りがある~略~御仏の弟子として同じ道を歩む存在でありたい』
その道とは、『大切な人の死の衝撃を和らげるのは、もう何も思い残すことはない、という新仏の安らかな死に顔に他ならない。亡き人の未練や苦しみを蓮の花に変えて浄土へ見送り、残された人の悔いや悲しみを和らげ』続けること、そう決めたお縁の目には『純白に柔らかな紅を差した美しい蓮の花』が広がり、お縁の耳には『極楽浄土に棲む迦陵頻伽という鳥のものか、涼やかで華やかな鳴き声が』届く。
静謐な余韻に包まれながら最後のページを閉じ、つづく作者のあとがきを読み、驚いた。
ワンコの仕業だな ワンコの願いだな。
あとがきより
『この世に生を受けた者は、いずれ必ず死を迎えます。自分の命がある限りは、先に死にゆく誰かを見送らねばならず、大切な人の数だけその苦しいまでの喪失感を味わうことになります。そうだとすれば、死別の悲しみや悔いからは生涯、逃れられないようにも思われます。
けれども、ゆるやかな時の経過とともに、悲しみは薄紙を剥がすように少しずつ削がれていき、やがて、懐かしさへと姿を変えてくれます。気がつけば、涙ではなく微笑みで思い出を語る日も巡ってきます。
限りある命だからこそ、先に旅立ったひとに心配をかけないよう、毎日を丁寧に生きていこう、と思える日が訪れます。
~略~
いつかその悲しみの癒える日が巡ってくることを心から祈っています。
あなたの悲しみに、この物語が届きますように。
祈りとともに 高田郁拝 』
高田郁拝の文字が、私にはワンコ拝と見えて仕方なかった。
笑うように眠ったワンコ
家族それぞれが、それぞれ時間を紡ぎ、夜を徹して夜伽でワンコと語り明かした
ワンコがたわむれた庭の草木で身を包まれ、笑顔を浮かべて旅立ったワンコ
ワンコが私たちに、「心配をかけるな、毎日を丁寧に生きてゆけ」と命じている。
ワンコの仕業(ご縁)だとしか思えないタイミングで届いた、この物語(にあるワンコの願い)、しかと受け留めたぞ ワンコ
ワンコに心配をかけぬよう、毎日を丁寧に生きていくよう頑張るよ ワンコ
追記1月29日記す
予約待ちの人がいる本なので、返却を急がねばならないが、名残惜しくもう一度読み返していると、またワンコを感じた。
ワンコは庭が好きだった。
季節ごとの花と野菜を植え替える作業の横で、若い頃は、トカゲを追い、老いては日向ぼっこをして過した、ワンコ。
これからもワンコが庭で遊べるようにと、ワンコ馴染みの庭草で囲んで見送った。
ワンコが、あの草木や花を目印にして、帰ってこれるようにと。
その想いに通じる文章を「蓮花の契り」の最後に見付けたので記しておく。
ワンコからのメッセージと受け留め
『(主人公お縁が、これから住まう庵の庭について)
絶えたはずの命、失われた命も、季節の巡りとともに新しい命となって、この庭に帰ってくる』
犬星に御挨拶をして、知恩院さんとお伊勢さんを詣でたら、ワンコ
必ず、我が家に帰ってくるのだよ ワンコ