「ぼくは40歳を過ぎる頃までは健康のことなんて一切考えず、野獣のような生活をしてきました。その後、視力が落ちて自分の身体と向き合わざるを得なくなり、野口整体やマクロビオティックのお世話にもなりましたが、西洋医療の薬を日常的に飲み始めたのは、60代で最初のガンが発覚してからです。きっと、ガンになったのも何か理由があるのだろうし、結果的にそれで亡くなってしまっても、それはそれで本来の人生だったんだ、と達観している部分もある。
夏目漱石が胃潰瘍で亡くなったのは、彼が49歳のときでした。それと比べたら、仮に最初にガンが見つかった2014年に62歳で死んでいたとしても、ぼくは十分に長生きしたことになる。新たなガンに罹患し、70歳を迎えた今、この先の人生であと何回、満月を見られるかわからないと思いながらも、せっかく生きながらえたのだから、敬愛するバッハやドビュッシーのように最後の瞬間まで音楽を作れたらと願っています。 そして、残された時間のなかで、『音楽は自由にする』の続きを書くように、自分の人生を改めて振り返っておこうという気持ちになりました。 幸いぼくには、最高の聞き手である鈴木正文さんがいます。鈴木さんを相手に話をしていると楽しくて、病気のことなど忘れ、あっという間に時間が経ってしまう。皆さんにも、ぼくたちのささやかな対話に耳を傾けていただけたら嬉しいです。
「ぼくは40歳を過ぎる頃までは健康のことなんて一切考えず、野獣のような生活をしてきました。その後、視力が落ちて自分の身体と向き合わざるを得なくなり、野口整体やマクロビオティックのお世話にもなりましたが、西洋医療の薬を日常的に飲み始めたのは、60代で最初のガンが発覚してからです。きっと、ガンになったのも何か理由があるのだろうし、結果的にそれで亡くなってしまっても、それはそれで本来の人生だったんだ、と達観している部分もある。
2021年1月の手術の直後に、ぼくは『これからは“ガンと生きる”ことになります。もう少しだけ音楽を作りたいと思っていますので、みなさまに見守っていただけたら幸いです』
というコメントを発表しました。“ガンと闘う”のではなく、“ガンと生きる”という表現を選んだのは、無理して闘ってもしょうがない、と、心のどこかで思っているからかもしれません」 『新潮』連載のタイトル「ぼくはあと何回、満月を見るだろう」は、彼が音楽を手がけた映画『シェルタリング・スカイ』に出てきたポール・ボウルズの言葉に影響されて、最近よく思うことなのだという。
手記の中では、術後のせん妄や、死についての考え方から、音楽論、代表曲『戦場のメリークリスマス』についての今の気持ちなど、70歳となった坂本の思考がオープンに語られている。
この雑誌 絶版だそうな 今日書店を 回ったが なかった
坂本は やはり誰もが認める 日本の 音楽家だということがよく分かった