AOXOMOXOA

極私的日々忘備録ーみたものきいたものよんだもの

烏賀陽 弘道「Jポップの心象風景」(文春新書)

2005-08-20 22:35:03 | Books
日本だけでメガセールスを誇る「J-POP」のアーティスト達。彼らが日本人のみに支持されつづける理由を日本人の心象風景との結びつきを分析することで明らかにしようとする一冊。筆者はフリーのジャーナリスト。この手の本は根拠のない思いつきの印象批評や単なるエッセイに終わっている場合が多いが、筆者の学問的な基礎知識がしっかりしているようで、それによって読み物として面白く仕上がっているように思う。アーティストの選択や、議論の仕方にやや恣意的な面や強引さも感じられなくはないが。
桑田圭祐をお盆に、松任谷由実を正月に結びつけた冒頭の2章が面白かった。B'zがパクリパクリと言われつつ支持され売れ続けているのはなぜかという分析も、大滝詠一の論説に慣れ親しんだ人ならさほど新鮮味はないかもしれないが、まっとうな分析。岩波新書からは姉妹編としてJポップ市場を経済的な側面から分析した本も出ている様なのでそちらも読んでみたい。

Sonya Kitchell "Words Came Back To Me"

2005-08-20 22:17:21 | Music
これがデビュー作となる16才。ポスト・ノラ・ジョーンズ的な売り出し方をされているようだが、もう少しロック寄りだし、ノラ・ジョーンズにどこか感じられるカントリーの影響はあまりなさそうだ。大人びた歌声といい、渋い曲といい、とても16才とは思えない程完成されている。1曲目のような音数の少ないピアノやチェロの音を生かしたアレンジで憂いのあるメロディを歌っている曲が特によい。

David Boyles "Bedroom Demos"

2005-08-19 22:22:53 | Music
全く知らないアーティストだったが試聴でかなり気に入り購入。これもSurf Music系のアーティストと同コーナーに置かれていたが、もっと骨太だし、ファンクを基調にしたロックといった曲が多く、本人も影響を受けたと公言しているそうだけど、Red Hot Chilli PeppersやPrince、あるいはStevie Wonderに通じる黒っぽさがある。
90年代以降のR&B的なVocalにザラッとしたひずんだギター、乾いたドラムの音がいい。funkを基調にしたメリハリのあるリズムにどこか独特のグルーヴがあるように感じたが、調べてみるとすべては本人の演奏による多重録音とのことで、やっぱりという感じ。近々メジャーデビュー盤も出るとのことで楽しみだ。

Tristan Prettyman "twenty three"

2005-08-19 22:10:50 | Music
Jack Johnsonに代表される、最近とみに流行っている"Surf Music"シーンから登場した女性シンガーの1st。グルービーなアコースティックギターのリズムを強調したカッティングで進む曲などは確かにJack Johnson一派という感じだが、むしろアメリカの女性シンガーソングライターの系譜に普通にまっすぐ直結する要素が大きいようにも感じられる。個性が際立ってくるのはまだまだこれからという感じもするが、夕暮れの海岸でライブで聴きたくなるような涼しげな感じはよい。

Natalie "Natalie"

2005-08-19 22:08:50 | Music
iTMSで1曲目を試聴して気に入り、CDで購入。これがデビュー作だそう。チカーノだからR&Bとは言わないのかもしれないがまあそんな系統の音。最後の曲は出自のコミュニティを意識したのか1曲目のスペイン語バージョン。これが発声の響きがやわらかくなってよかった。BGMとして気軽にきける佳作。

大岡昇平「幼年」「少年」

2005-08-01 00:15:08 | Books
タイトルの通り大岡昇平の幼年期から少年期にかけての回想録である。特徴的なのは自らの成長を描くにあたって、彼が住んでいた渋谷の街の風景やその変遷の描写に重きをおき、その風景の中におかれた、自分を含めた同級生や家族といった人々の姿を浮かび上がらせようとしている点だ。そういう意味では、一人称であるが三人称的なまなざしがある。描かれている時期はちょうど大正年間にあたり、幼少期は現在の東横線渋谷駅脇の渋谷川沿い、小学校の途中から現在の宇田川町交番そば、そして小学校高学年以降は松濤の鍋島公園そば、と現在の渋谷のど真ん中で過ごしてきただけあって、渋谷の街の変遷がきわめてミクロにいきいきと明晰な文体で描かれており、それだけでも地域資料としてきわめて高い価値があろう。また、同時代の文学として描かれる漱石や芥川作品といった読書体験の記述は、それらの作品がリアルタイムではどう受け止められていたのかがわかり興味深い。関東大震災や大杉栄殺害事件の記述も然り。そして、宇田川や渋谷川、神泉松濤の小川といった、渋谷を流れていた清冽な水や郊外の風景の描写が幾度となく詳細に出てくるのも印象的だ。(そもそもこれ目当てで読んだのだが)
そんな「幼年」「少年」だが、現在残念なことに絶版となっている。この間も田山花袋の名エッセイ「東京の三十年」を読もうとしたら絶版だった。なんだかなあ。。。

知名定男「うたまーい」

2005-07-19 23:18:03 | Music
ネーネーズや一時期の琉球フェスティバルのプロデュースでも知られ、今や沖縄民謡界の重鎮的存在となった知名定男の、スタジオ録音としては14年ぶり、ライブ盤を含めても9年ぶりの新作。沖縄本島の民謡を中心に、自作の代表曲「うんじゅが情きど頼まりる」や、父の故・知名定繁作詞、故・照屋林助作曲の名曲「ジントーヨワルツ」も収録。低いキーの落ち着いた声と、技巧的な装飾音を効果的に加える三線のスタイルは唯一無二のオリジナリティを誇るが、本作品でもそんな彼独自のスタイルが堪能できる。洋楽器を積極的に導入してきた彼が今回は一切使っていないのは自信の表れか。そして円熟しているが、かえって今までよりも若々しい歌声が意外だ。「ナビィの恋」以来、彼の師匠である登川誠仁がもてはやされているが、スローテンポな曲での歌声や三線の「情け」については彼の方が明らかに上回っている。本格的な沖縄(本島)民謡を聴いてみたいという方にはまずお勧めしたい一枚。

Van Morrison "Magic Time"

2005-07-18 21:08:29 | Music
イギリスのベテランシンガーの新作。特に新機軸がある訳ではなくいつものとおり、リズム&ブルースをベースにジャズやブルース、そして自身のルーツであるアイリッシュの要素を混ぜたゆったりした曲が続くが、どれも安定した透明感のある作風に力強い歌唱で、安心して聴ける1枚。

中沢新一「アースダイバー」

2005-07-18 21:03:41 | Books
もうひとつのBlog「東京の水2005Revisited」の更新で手一杯でこちらはすっかり間があいてしまった。その「東京の水」と似たような事を中沢新一がやってるよ、という友人からのメールで紹介されたのが本著。結構売れているようである。

東京の地形を洪積層で形成された台地と沖積層で形成された谷筋でとらえて色分けし、旧石器遺跡、縄文遺跡、弥生遺跡と寺社や墓地をプロットした地図をもとに、東京の風景を縄文時代に直結した視点から、湿った土地と乾いた土地、聖と俗、生と死といった対比を鮮やかに浮かび上がらせつつ読み解いていく。
縄文時代の海進期、海の水位は今より高く沖積層の谷筋がちょうとフィヨルド地形のように数々の入り江となっており、縄文人たちは入り江に突き出た岬=洪積層の台地を聖地として神社をつくっていたという。そしてこの岬の聖地の多くが現在も街中の寺社や墓地として同じ場所に残っているという指摘は魅力的だ。

「東京の水」では、東京の風景について、鉄道路線や道路による空間把握から、川の流路と地形、そして水による空間把握への再構成を図ろうという意図を込めているわけだが、本著でも、結果的に沖積層の土地=川を辿ることとなっており、また、東京の空間把握の再構成という視点は確かに共通している。

それにしてもイメージの連鎖やアナロジーによる議論の鮮やかで自在な展開は流石だ。そして本著のもとになったのが「週刊現代」への連載記事というのには驚いた。

高橋哲哉「靖国問題

2005-07-18 20:56:26 | Books
閣僚の公式参拝やA級戦犯の合祀問題、国立追悼施設の問題、近隣諸国との関係など、様々な問題それぞれに賛否両論が渦巻いていて、ややこしく複雑な靖国神社絡みの問題を、感情的な側面、宗教的な側面、政治的な側面、文化的な側面から丁寧に思考を展開していっている。
筆者の立場はやや理想論に過ぎる部分もあるし、立脚点となっている反戦平和的な思想についての掘り下げが本著では無いため、後半の議論において素朴な平和論に見えてしまう側面がなきにしもあらずであったけれど、情報の整理とそれらに対する論理的に掘り下げた思索は、筆者の立場への賛否を問わず議論の基礎となり得るものであると思う。特に遺族感情に対する思索は哲学者ならではの丁寧な分析だし、文化的側面に対する「日本固有の伝統」の虚構性の指摘についても然りだ。「右翼」だ「左翼」だといった思考停止のレッテル貼りによる感情的な賛成論・反対論では何も生まれない。
本書での筆者の主張を丸呑みにする必要はそれこそ全くないが、靖国問題を論理的に考えるためのてがかりとして一読の価値はあると思う。

吉見俊哉・若林幹夫他編「東京スタディーズ」

2005-06-17 00:42:04 | Books
社会学やカルチュアル・スタディーズの手法に基づく「東京」についての論文やコラムで構成された一冊。情報誌「シティロード」「ぴあ」「東京ウォーカー」の盛衰の流れから都市に対する情報による把握/認識スタイルの変遷を追った文、新宿駅前に集まるスケートボーダーの追跡調査を行っている文、郊外のホームレスの意外な出自を明らかにした論文、お台場の「熱気のなさ/力無さ」から、近年の再開発にみられる、都市空間に背を向けた施設の隆盛を論じた文、米軍基地がもたらした地域文化を論じた一文といったものが印象に残った。この本だか同時に読んでいた別の本だったか忘れたが、原宿のキディランドはもともと代々木のワシントンハイツに住んでいた米軍相手の店だったんだそうで。六本木の繁華街も米軍占領下のもと発展したわけだし、考えられている以上に占領時代の影響というのは現在まで及んでいる。

bonobos "electlyric"

2005-06-16 23:18:48 | Music
大阪のダブ・ポップバンドの新作アルバム。フィッシュマンズのフォロワーともとれる音像であるが、良くも悪くもフィッシュマンズの音に潜んでいた狂気の気配はなく、柔らかで暖かい感じ。アリワのUKラバーズものからの影響が顕著な清涼感あふれる「Lovers Rock」と、シングルにもなったメロディ/アレンジともによく練り抜かれ晩夏な雰囲気漂う「あの言葉、あの光」が出色かと思う。

佐藤 幹夫「自閉症裁判―レッサーパンダ帽男の「罪と罰」」

2005-06-05 17:36:35 | Books
4年前の浅草、レッサーパンダ帽を被った男が通りすがりの女子大生を刺殺した事件はその特異なディティールから記憶に残っていた。この事件の裁判を追ったルポルタージュ。実はこの事件の犯人は高等養護学校の卒業生であり、自閉症であったが、そのことはマスメディアにはほとんど取り上げられることはなかった。

ちょっと感想をうまくまとめられないので、とりあえず本を読むきっかけとなった書評へリンク。

asahi.com書評

なお、ここに書かれているほど被告側寄りではなかった。むしろ、被害者側への丁寧な取材や感情への配慮に筆者の誠意や視点の確かさが感じられた

東京ローカルホンク「東京ローカルホンク」

2005-05-29 00:41:47 | Music
1999年の「うずまき」名義でのアルバム「ヒコーキのうた」がとにかく素晴らしくって、それ以来ずっと新作を待っていた。久保田真琴のプロデュースで製作中、というアナウンスが出たのが2001年、それから4年も経ってようやく出た新作。
基本は骨太のフォークロックで、ロックっぽい和声のハーモニーが多用されているのは前作と同じだが、久保田真琴が絡んでいるせいか細かな音作りでダブっぽかったりヴォコーダーをさりげなく使ってみたりとプログレッシブな要素があり、またそれぞれの音の輪郭がはっきりしたミキシングとなっている。そういった面で、曲調が似ているというわけではないが、音楽の構造として、The Band後期の名作「南十字星」に通じるものがあるように思えた。

公式サイト

南條竹則「魔法探偵」

2005-05-25 00:13:19 | Books
詩人の「吾輩」が生活のために始めた猫探しの探偵業。不思議な巡り合わせで幽霊の秘書や引きこもりの居候を抱え、奇妙なお客を相手にするようになり。。。。翻訳家にしてファンタジーノベル大賞受賞作家の長編小説。人間の幽霊だけでなく、土地の記憶を呼び起こすことで、失われた建物や場所の幽霊を幻出させるという趣向がいい。舞台が三ノ輪というのも奇妙奇天烈な登場人物達に妙なリアリティを与えるという意味でいい選択だ。最終章で幻出させるのが大阪万博なのだが、近年のノスタルジアはなぜこうも大阪万博に向かうのか。作者は1958年生で、同じく大阪万博を重要なモチーフとして描いている漫画「20世紀少年」の浦沢直樹とほぼ同世代だ(1960年生)。60年代高度経済成長期の到達点の象徴であったとか、輝く未来が夢として描かれた最後の場であったとか、いろいろと振り返り的な位置づけはなされているが、50年代後半生まれの世代の個人史に落とした影響ってどうなのでしょう。