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極私的日々忘備録ーみたものきいたものよんだもの

鈴木謙介「カーニヴァル化する社会」

2005-10-31 22:57:12 | Books
90年代以降の日本社会において、それまで有効だった理念や、自明のものとされていた価値観、何も考えることなく選択されてきたライフサイクルのスタイル、といったものが大きく揺れ動いていることは、特に1970年代以降に生まれ育った者であれば切実に実感せざるを得ないと思う。そういった状況をどう理解し、いかように立ち向かっていくか(処方箋を出すか)ということについて、特に同世代以降の人文科学者の動向を気にかけるようにしている。この本もそんな1冊。
目次はこんな感じ。
第1章 やりたいことしかやりたくないーー液状化する労働観
  1フリーターやニートだけが問題なのか
  2「やりたいこと」という貧困
  3ハイ・テンションな自己啓発
第2章 ずっと自分を見張っていたいーー情報化社会における監視
  1「監視国家」か「監視社会」か
  2データが監視されるということ
  3データベースとの往復運動
第3章 「圏外」を逃れてーー自己中毒としての携帯電話
  1携帯電話と再帰的近代
  2「自己への嗜癖」とデータベース
終 章 カーニヴァル化するモダニティ
  1カーニヴァル化と再帰性
  2革命か、宿命かーーカーニヴァルの時代を生きる

議論がやや拡散気味で纏まりきれていないような気もするが、視点にはやはり世代の近さを感じるし、共感できる。

Alicia Keys "Unplugged"

2005-10-25 21:58:33 | Music
ゆるぎない歌声。これぞソウルミュージック。BRENDA HOLLOWAY "EVERY LITTLE BIT HURTS"のカバーが素晴らしい。

Stevie Wonder "A Time 2 Love"

2005-10-23 19:45:40 | Music
ついに、やっと、とうとう、ようやくリリースされた10年ぶりの新作。昨夏にアナウンスがあって以来ずっと心待ちにしていたのだけど、延期に次ぐ延期で、今回も実際に店頭で見るまでは信じられなかった。
10年間待たされただけあって、80年代以降の作品の中ではもっとも充実した作品となっているのではないか。特にミディアム~スローの曲の出来がよい。ライナーノーツによれば、発表が延期された理由に尊敬するレイ・チャールズやかつての妻でありソングライティングのパートナーであったシリータ・ライトの死があったという。"Positivity"という曲の歌詞で、やはり盟友であった故ミニー・リパートンの発言が大きく引用されており、そういった背景を考えるとちょっと泣けた。

嘉手苅林昌「沖縄の魂の行方」

2005-10-23 18:55:23 | Music
沖縄音楽界の巨星、嘉手苅林昌が没して6年が経つが、ここに来て再発物ではない新作の登場。1996年、久高島での野外ライブにその後の録音数曲を加えた作品が、当時のライブ企画者によりCD化された。1曲目の出だし、晩年の声量が衰え音程の不確かな声にやや不安を覚えるが、すぐに安定してきてその歌声と演奏に引き込まれる。晩年の録音の中ではかなり好調なのではないか。特にナークニーでは彼のスタイルの真髄が現れていて素晴らしい。
また、今回初公開となる「新曲」があるのもうれしい。伝説となっているアルゼンチン放浪時、現地の沖縄移住者コミュニティの歓迎に対して贈られたオリジナル曲だ。
全く彼の音を聴いたことのない人にはまずは全盛期の音源をお勧めしたいところだが、艶のある声、情感的な三線、アドリブで変幻自在に変えて歌われる歌詞といった彼のスタイルはほぼ味わえるし、ライナーノーツの丁寧な解説や訳詞も付いてとっかかりやすくなっているので、興味をもたれた方はまずは充実した公式サイトを覗いてみて欲しい。

公式サイト

小林信彦「私説東京繁昌記」

2005-10-23 18:50:10 | Books
東京に生まれ育った筆者の個人史に沿う形で、東京の山の手と下町を探訪し、その変遷を描いた作品。同行した荒木経惟の写真も多数収録。西麻布に生まれ育った友人の薦めで読んでみた。
東京の風景は関東大震災、東京大空襲、東京オリンピック前後、そしてバブル期の4回大きく変貌しているが、(個人的にはこれに90年代末から現在にかけての大規模再開発期が加わると思う)本著の初版は1984年、バブル前の刊行であり、主に東京オリンピック~高度経済成長期に起こった「町殺し」がテーマとなっている。下町ではなく青山などの山手地区に主眼が置かれているのが独特だ。作詞家松本隆の「はっぴいえんど」」時代のテーマや、バブル期に実家周囲の風景が大きく変ったという私自身の個人史とも重なるものがあり興味深く読めた。ここに描写され撮影されている1984年の光景ですら、すでに大部分が失われていること、その光景のなかに自分も居たことがあるという事実に感慨も覚えた。例えば谷中銀座の石段で遊ぶ子供のノスタルジックな写真が載っているが、考えてみればこの子供は自分とほぼ同年齢であり、また自分自身1984年にその場所を何度も行き来しているのだ。あるいは新宿駅南口にあった古い階段や、まだ驚くほど空が広い渋谷駅ハチ公口も同様だ。
文庫版では1992年と2001年、バブルを経た1992年の追加章と、2001年のあとがき・写真があり、時間の変遷が興味深い。

Neil Young "Prairie Wind"

2005-10-10 17:23:22 | Music
72年の"Harvest"、92年の "Harvest Moon"につづく3部作完結篇、とのことだが、カントリー寄りのアコースティックな曲よりも、南部っぽいホーンやギターの入る泥くさい、スワンプ的な曲が目立つ。それにしても30年間休むことなく、ほぼコンスタントに新作を発表し続けるこの人の創作意欲には頭が下がる。ときには駄作も混じるし、本作も取り立てて傑作というわけではないが、自らへのハードルを高く設定しすぎて寡作になっていくベテランアーティストも少なくない中、貴重なスタンスだと思う。

サザンオールスターズ「キラーストリート」

2005-10-10 17:22:27 | Music
7年ぶり2枚組アルバム。サザンは好きな曲は多いけど、あまりアルバム単位で聴こうとは思えないバンドなのだが、今作はKamakura以来久々に、アルバムとして聴けそうな感じだ。90年代の作品には打ち込みで緻密に作り上げたものが多く、バンドである意味が希薄となっていたように思えたが、バンド的な音づくりに戻っている部分が多々感じられる。
全30曲はいつもの王道をいくポップスやラテン歌謡などからインストの小品までバラエティに富むが、気になったのは70年代のロックやソウルの曲の影響を全面に出した楽曲。特に1枚目の曲に顕著だが、大ネタが各所で散見される。
1曲目のイントロがCSN&Yの "Ohio"調なのに始まり、Stevie Wonder "Superstition"だったり、The Four Tops "I Can't Help Myself"とかNeil young &Crazy Horse風のギターや大滝詠一経由のPhil Spector風だったりとか。歌詞にも往年のヒット曲のタイトルを織り込んでみたり。
興味深いのはライナーの異様に詳細な自曲解説で、それらのアーティスト名を列挙し、下敷きとしていることを明記していることだ。彼らのファン層の大部分にはそのような解説へのニーズはないと思うのだが、それをあえて記しているところに、桑田圭祐の洋楽への憧憬やコンプレックス、あるいは世間で受け止められているポップスターとしての自己像への抵抗を感じる。

伊勢田 哲治 「哲学思考トレーニング」

2005-10-10 17:20:46 | Books
哲学的クリティカルシンキングの手法や概念についての解説本。議論の論点を明確にしようとするときとか、議論がまったくかみ合っていないときに、そもそもの議論の前提となる部分について一致点を見出だそうとするときとかの手法として参考になるかも。正解を出そうとするのではなく、少しでもましな解答にたどり着くためのツール、という位置づけもよい。デカルトの懐疑論に納得がいかなかった者としては、その欠点を踏まえている点も助かった。といいつつ、わかりやすいようでいてよくわからなかったので再読中。

烏賀陽 弘道「Jポップとは何か―巨大化する音楽産業」

2005-10-06 23:48:54 | Books
以前取り上げた「Jポップの心象風景」の姉妹編。80年代後半から現在に至る日本の音楽産業の変遷、その中で作り出された「Jポップ」というカテゴリについての分析。Jポップに関する批評、というと誰でもひとこと論じられそうな身近な題材のため、得てして音楽の知識があまりないジャーナリストや社会学者による的外れな批評や、音楽しか知らないライターの思い込みの印象批評となりがちだが、この筆者は幸いにも両方の素養を持ち合わせているようで、緻密な取材をもとに簡潔かつ的確に、音楽の受容のされ方の変遷と音楽産業の盛衰の関係を浮かび上がらせている。90年代以降の日本のポピュラー音楽産業を考える上で基礎教養となる一冊。

Kanye west "Late Registration"

2005-10-06 23:24:11 | Music
アリシア・キースの"You Don't Know My Name"プロデューサーということで興味を持ち購入。全体的にバラエティにとんだ曲調で飽きさせない。内省的なピアノとラップの響きが美しい2曲目からカーティス・メイフィールドの"Move On Up"の大胆なサンプリング(というよりほとんどカバーバージョンだ)によるアッパーな3曲目の流れがよかった。

山下達郎「SONORITE」

2005-10-02 22:15:04 | Music
7年ぶりの新作。音像が大幅に変化している。音数が少なく、エコーやリバーブもあまりかかっていないためかなり地味な印象。楽曲もスロー~ミディアムテンポで内省的な曲調が多い。前作がかなり開放的な音像で、世間的に求められている山下達郎の音、といった感じなのに対し、今回はそういうものを期待する向きからは否定的に捉えられているようだ。自分も最初に通して聴いた際は完全な新曲も少ないしやや期待はずれに感じた。しかし、何度か聴いているうちにこれはこれで気に入ってきた。86年の「POCKET MUSIC」に近い印象を受けたが、あとからインタビューなどを目にすると、そのときと同じく録音方法を変えたため、かなり試行錯誤のある過渡的な作品となったとのこと。

"Festival Express"

2005-09-14 22:03:02 | Movie
1970年夏に行われたカナダ各地を貸切列車でまわるライブ・ツアーを追った未公開ドキュメンタリー映画のDVD。The BandやGrateful Dead、Buddy Guyといった当時のミュージシャンたちの貴重なライブ映像や列車内でのセッションが見ものだが、何よりも凄かったのはやはりJanis Joplinだ。生命を削って吐き出すように歌う姿は圧巻で、そして少し痛ましい。この数ヶ月後に死んでしまう予感が漂っているように感じられる。そしてそれはロックが最も輝いていた時代の最後の姿でもあるだろう。

Carole King "The Living Room Tour"

2005-09-14 22:01:11 | Music
1971年の大名盤"Tapestry"をはじめ60年代~70年代に数々の名曲を残したSinger=SongWriterの最新ライブ盤。往年の歌手による懐メロライブなのかなとやや危惧していたのだけど、これは素晴らしい仕上がりだ。ピアノの弾き語りにギターが絡むシンプルな演奏に、変らない歌声。アルバムタイトルのとおりのリラックスした雰囲気で、前向きな感じに満ち溢れているのが素敵だ。

佐藤卓己「八月十五日の神話ー終戦記念日のメディア学」

2005-09-02 21:25:35 | Books
今日9月2日は、60年前日本が降伏文書に調印した日だ。近代の戦争における世界標準的な概念に基づけばこの9月2日(もしくはポツダム宣言を受諾した8月14日)を終戦日ととらえるのが普通なのに、なぜ天皇によるラジオ放送が行われた8月15日が終戦記念日とされるのか。
本書ではこのずれを冷静なまでに客観的な立場から、新聞や教科書、ラジオ、テレビといったメディアを中心に緻密に調査分析し、保守派、進歩派の利害関係の一致、マスコミ・メディアの都合、周辺諸国の思惑といったものが絡み合って成立していることを明らかにしている。

いわゆる「玉音写真」が新聞社のヤラセであったとか、終戦記念日が月遅れ盆に重なっているのは偶然なのか、とか、高校野球での8月15日の黙祷は戦前より継続したものだった、とか、朝日新聞をはじめとするメディアの節操のなさとか、8月15日を断続と捉えることの虚構性とか、中学と高校の、あるいは日本史と世界史の教科書での終戦に対する記述の差、とか、興味深く、目からウロコ的な事実が次々に明るみにされている。非常にスリリングな分析は新書レベルを超えている。

思い切り客観的に書かれているだけに共感や反感といった感情移入ですいすいと読み進められる本ではないがこれはどのような立場をとる人でも非常に面白く読めると思う。

Macy Gray "The Trouble With Being Myself"

2005-08-22 18:50:25 | Music
2003年リリースの本作、前々から気になっていたのだが図書館にあったので借りてみた。楽曲はどれも力強いR&Bで、かなりハスキーな歌声が印象的。決して懐古調ではないのだけど、最近のR&Bは70年代ニュー・ソウルからの流れが感じられることが多い気がするが、この作品はどこか60年代サザンソウルやスワンプロックの香り(管絃のアレンジ)や、70年代初頭のサイケデリック・ロックの影響を受けたファンクのような雰囲気(ギターやシンセの入れ方)もあるのが面白い。と思ったらBeckが参加しているそうで、なるほど。今まで聞かなかったのが勿体無かった。ボーナストラックでQueenのwe will rock youが入っているのはなぜ?