昭和55年度から学習指導要領が改正され、ゆとりを前面に出した考え方で教科指導を行
わない「ゆとりの時間」が始まった。当然その分だけ従来からの学習内容や授業時数の削減
が行われた。
さらに平成4年の9月から第2土曜日が休業日に変更、平成7年4月からはこれに加えて
第4土曜日も休業日となり、平成14年度からは完全学校週5日制となった。当然のことで
あるが、削減された時間に本来のゆとり教育が行われているはずであるが、その弊害がいま
の社会に影響し始めている。端的に現れているのは、新入社員の取り組み姿勢に見られる。
戦後の復興期からバブル期に入るまでは、日本中が本当の意味でまじめに頑張って日本と
いう国を発展させ世界の国々に追いつき、そして次の世界を引っ張って行くところまでたど
り着いた。あまりにも一直線に走り続けてきた結果、ふとこのままで良いのだろうかという
奥が深い疑問に対して答えがないまま、心情的な感覚でほっと一息つくためのゆとりが必要
だとの大きな流れに流されるように、ゆとり=休み的な考えで世の中が進んできてしまった。
本来のゆとりとは、自分を見つめ分析しある程度の方向性をだせる人間がゆとりという環
境の中で、何かを成し遂げるものだと理解しているが、どうも世の中はこのような考え方で
はないようだ。
自分で考えたことを自分の都合で進め、自分勝手に対応することがゆとりと考えているよ
うに思われる。人間は一人では生きられないことを知らずして、ゆとりに走るのは大きな誤
りである。自分とは、他人があって初めて自分の存在があるということを、確実に認識した
後に行動すべきである。
残念なことに、この考え方が抜けているのが今時の新入社員である。すべての新入社員が
当てはまるのではないが、昔に比べると明らかにゆとり教育の弊害による人間性欠陥のある
社員が多くなっている。
とにかく自分を主張するのが得意であり、変に自信をもっているから扱いが大変である。
私が新入社員のときは、何をするのも自信がなくて悩みながら先輩の行動を観察し、仕事の
流れをつかみ覚えたが、今はこの方法は通用しない。
マニュアルのようなものを作成し、かつ徹底的に指導して初めて業務を覚える行動に入る。
このプロセス抜きで仕事を指示すると、このようなことは習っていないから出来ないと言い
出す。要は何から何まで一旦はお膳立てをしなければ動かないのが現実である。さらに優し
く言っても結果的にプライドが傷つけられたと感じると、もう大変で会社を休んでしまう輩
もなかにはいるとのことで、扱いが非常に難しい。
これらの根本的な原因は、いままでのゆとり教育の実践と厳しさのない教育指導にあった
と言える。もっと人間として考え行わなければならないことを真剣に考える時間がないまま、
ゆとり教育という美名の中でちやほやされて育った団塊の世代が、これからわんさと社会で
働くようになってくる。従来以上に企業での育成は大変になると覚悟しなければならない。
最も困るのは、自分と他人の関係を理解していないことだ。人間は他人があってはじめて
共存できることを親も学校でも親身に教えないことが大きな原因である。自分を守ることだ
けに力点を置き、他人は独立した存在で関係ないと考える。困ったものである。
したがって「忘己利他」の考えが重要であり、この考えのもとに自分があるとの気づきを
教えることがゆとり教育を是正する第一歩であると考える。