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金融政策とファイナンス理論~NPVと金利の関係~

2009-07-11 06:14:41 | アプライド・ファイナンス
NPV決定に大きく影響する割引率に着眼し、政府が企業の事業投資を促すメカニズムについて考えましょう。NPVとは投資案件の現在価値からその案件実施に必要な初期投資額を差し引いたもので、その案件に投資した場合いくらの付加価値を生み出すかを示す指標です。

さて、投資案件の現在価値は、その投資案件が生み出すCFをそのCFのリスクの大きさに見合った割引率で現在価値に割り戻して計算します。したがって、投資案件のリスクが大きければ割引率も大きくなります。

この割引率(Ra)は、CAPM(資本資産決定モデル)によれば、事業リスクの大きさをβa(資産ベータ)とした場合

Ra = rF + βa x (rM - rF)

で示されます。事業のリスク(βa)は事業の種類によって決定され、短期的にはさほど変動しません。(rM - rF)は中長期的なマーケットリスクプレミアムで、各年度の株式市場全体のリターンから、rF(その年度の安全資産 ~通例10年ものの長期国債~の利回り)を差し引いたものです。そしてその中長期的な過去実績の平均値が使われます。

このことは、事業の割引率は「長期国債の利回り」と「事業リスクの大きさ」そして「事業リスク1単位当りのリスクプレミアム(事業リスクを1単位とることによって得られる追加リターンの大きさ)」によって規定されることを意味しています。

NPVに戻りましょう。
NPV = PV(投資のキャッシュフロー) - 初期投資額

で算出できます。例えば、初期投資額が107億円の案件があり、この投資案件は毎年 15億円のキャッシュフローを10年間投資家に還元できるとする。また、rF=2%、βa=1.0、rM-rF=5%であったとすると、この投資案件に見合った割引率(Ra)は

2%+1.0×5% = 7%

と算定されます。

この投資案件のNPV=Σ(CFn/(1+Ra)^n)-初期投資額

=15 /7%×(1-1/(1+7%)^10)-107

=-1.6億円

とマイナスとなることから、この投資は採算にあわず実行されません。

ここで国債の利回りが2%から1.5%に低下したと仮定してみましょう。新しい割引率は0.5%低下し6.5%となる。この新しい割引率で、前掲の投資案件を評価すると、

NPV=15/6.5%×(1-1/(1+6.5%)^10)-107

=+0.8億円

とプラスに転ずることから、この投資案件は実施されることになります。

この投資案件のNPVと割引率の関係が図に示されています。


rFを引き下げることによって投資案件のNPVが増加しプラスになった場合、その投資は実行されます。rFは長期国債の利回りであり、経済や景気の変動によって変動します。

rFが低下するとNPVが増加し、これまで採算の合わなかった投資案件も実行されることになるため、現物資産への投資を通じて経済はプラスの刺激を受け、景気がよくなります。

日本銀行が市中に資金を供給し、短期金利の誘導目標としている無担保コールレートを引き下げたり、長期金利の指標としている長期国債の買いオペレーションを通じて国債の利回りを引き下げたりすることは、これらの金融活動を通じて経済全体の金利水準を引き下げ、これによって投資を奨励しようとしているのです。これが金融政策の基本的な考え方です。


さて、日本銀行は景気浮揚のため2001年以来、超低金利政策を採り、短期金利をゼロとしてきました。長期国債も0.5%程度と極めて低い水準で推移しました。しかしながら日本の景気は低迷を続けました。短期金利はゼロ、長期金利も0.5%程度と極めて低い水準にありながら何故日本の景気は低迷を続けたのでしょう。

それにはまず、景気低迷が起こる理由から考えます。将来の経済成長に対する企業の期待(期待成長率)が低下すると、収益機会の減少が見込まれることから、企業の設備投資意欲は減退します。

これによって実態経済も弱まり、景気が悪くなり、これが更に将来の経済成長に対する期待を弱めるという悪循環(これをデフレ・スパイラルと言う)が発生します。

この悪循環を金融面で断ち切ろうとするのが金融政策です。議論を簡単にするためNPVを算出する際の割引率をゼロとします。r=0であればNPVは極めて大きいプラスの数字となり、投資は活発化するはずです。

しかし、日本経済は低迷を続けた。この謎を解く鍵はインフレ率にあります。日本銀行がゼロ金利政策を採っていた2001年以前から日本経済は低迷し、デフレに陥いりました。つまりインフレ率はマイナスで推移したのです。

「実質金利=名目金利-インフレ率」で示される。名目金利がゼロであってもインフレ率がマイナスであれば実質金利はプラスとなり、なかなか投資NPVの引き上げには貢献しません。

これはデフレ下における金融政策の限界を示しています。この状況を解消するには(1)名目金利をマイナスにする、もしくは(2) インフレ率をプラスにする、の二つの方策があります。

名目金利をマイナスにすることは不可能に思われるかもしれないが、1976年ごろスイスでは通貨投機防止を目的として、銀行に一定額以上の預金をすると預金者は銀行から金利を請求された時期があります。これはマイナスの金利水準を意味している。しかしながら、国家として名目金利をマイナスに維持することは政策面からは困難を伴うことが多いです。

もう一つの方策は一定のインフレ率を維持することです。これは「インフレ・ターゲッティング」と呼ばれているものであり、政府もしくは中央銀行が一定のインフレ率を公表し維持することを政策目標として掲げ、それが実現するよう貨幣供給を増加基調に維持することです。

1988年のニュージーランドによる導入を契機に世界の数カ国で実施されています。英国でも1992年9月の欧州通貨危機を契機としてインフレ・ターゲット政策を導入し、一定のインフレ率目標(2003 年以降は2±1%)を掲げ、持続的な景気拡大を維持しようとしています。

ただ、インフレは往々にして加速しやすく、これを一定の範囲内に維持するには中央銀行の固い決意とインフレ調整のノウハウが必要とされます。したがって、国民そして企業が政府や中央銀行の固い決意とインフレ調整能力に対して厚い信用を置いていないと実行は難しいです。

ただいくら実質利子率が低下していたとしても、その低いハードルすら越えられないようなシケた投資機会しか存在していなければ投資は活発化しません。そのためには新たな投資機会から人々を遠ざけているような規制が撤廃されることが重要です。

もしくは規制緩和により社会インフラが効率化され、低コストで事業が実行可能になれば、リターンが低めの投資であっても、実質利子率のハードルを越えることは十分にありえます。そのためにも無駄な規制は撤廃され、国家にぶら下がり組みの方々には退場していただき、社会全体が効率化される必要があります。

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