大阪育ちの私が初めて東京に来たのは、大阪、京都、神戸がせいぜいの守備範囲だった青春時代。
そのとき、東京に住む遊び人のいとこが、「新宿なんか怖いよ」と言って、連れて行ってくれたのが、原宿、青山、六本木だった。
そう、東京シティ御三家。
70年代初めころのこれらの街は、今のようにごったがえしていなくて、静かで落ち着いた雰囲気だった。
そして、気配としておしゃれでスノッブな若者が集まる個性的な街という、大阪にはなかったオーラを発していた。
これは地方育ちの青春真っ只中の人間には、マジックのようだった。
別に東京に憧れていたわけでもなかったし、今のように東京案内の本やテレビが多かった時代でもなかったから、知っていたのは原宿ぐらいで、ただなんとなく遊びに来ただけだったのだが。
で、六本木でお茶したのがここ「アマンド」。
地下鉄六本木駅から地上に出てすぐの、六本木交差点角。
六本木は今のように満艦飾の街ではなかったから、ピンク塗りのアマンドはけっこう目立って、
明け方まで営業しているということに、「かっこいい」と思って、
当時よくあった暗い喫茶店でなくて、明るいパーラー風カフェが新鮮で、と。
今なら、なんや不二家のペコちゃんパーラーと似たようなもんや、と思う。
えらい分かりやすいところに連れて行ってくれてんなと。
以来始まった「東京の方がええ」病は、
夫との結婚で東京暮らしが実現するのだが、
大阪を離れるとき、両親に「ほんなら」とあっさり言って、迎えに来た夫の車が動き出した瞬間に、涙が溢れ出して止まらなかった。自分でも以外だった。
夫は少し走って車を止めた。
でも、もう走り出すしかなかった。
そのときから、「大阪の方がええ」病が始まった。
しかし、大阪での歳月より長くなった東京暮らし。
これで大阪に再び住んだら、「東京の方がええ」病が再発するのかな。
アマンドのケーキを貰ったときには、食べるのに躊躇したよ。食べたら、なくなっちゃうし、食べていいのかな?と思ったりしたよ。
今では美味しいケーキやさんが、沢山あって、どこのケーキが一番美味しいか、迷うくらい。