「ボンボン」と「パッチギ!LOVE & PEACE」
有楽町シネカノンでアルゼンチン映画「ボンボン」を見た。
幸運に見放されたようなおじさんが、白い大きな犬・ボンボンをもらい受けたら、それから少しずつよいことが起こり出すという、犬の恩返しストーリー。
ブルドッグのシワをなくしたようなボンボンの顔は、思わず微笑んでしまうような愛嬌とペーソスがあって、パタゴニアの広大な自然をバックに、心安らぐいい映画だ。
シネカノンは代表である李鳳宇さんが、自分の映画鑑識眼でもって始めた配給会社。
「月はどっちに出ている」の製作・配給で成功し、韓国映画配給のパイオニアでもあり、その後に起きる韓流ブームが追い風となって、今や事業は拡大の一途。
‘93年の韓国映画「風の丘を越えて・西便制」がシネカノン最初の韓国映画配給だが、私が韓国映画を見出したのはこの映画がきっかけだった。
映画は口承芸能パンソリの唄い手である義父に指導を受けながら、旅芸人の生活を続ける義姉弟の話で、エンドロールで流れるパンソリに圧倒された。
当時はまだ今のような韓流ブームの影すらなかった。だからこの映画がシネカノンの配給と知って、マスコミでも取り上げられるようになった李鳳宇さんの控えめな物腰にも好感が持て、シネカノンに注目するようになった。
そのシネカノン主催の試写会で、「ボンボン」の後に公開されるシネカノン製作「パッチギ!LOVE & PEACE」を見た。
前作の「パッチギ!」は、60年代後半の京都を舞台に、在日朝鮮人の女の子に恋をしてしまった日本の男の子が、自分が在日の人たちのことや、なぜ「イムジン河」のレコード発売が中止になったのかなどを、何も知らなかったことに気づく。男の子の淡い恋心に、日本の高校空手部と朝鮮高校の番長一派との対立を絡めた青春熱血映画で、松山猛の原作をベースに、井筒和幸が監督した。
この映画を見終わったとき、私と友人3人は拍手してしまったぐらいだった。
ちょうど同じ時代に、在日の人たちが多い大阪や京都で青春時代を過ごした私たちには、時代の雰囲気もビビッドに伝わってきた。映画の男の子同様、私もまた何も知らなく、知ろうとしなかったことに気づかされた。
しかし、「パッチギ!LOVE & PEACE 」。
シネカノンに無料で見せてもらって言うのも何だが、
説得力に欠け、プロパガンダっぽい台詞のシーンには閉口した。
駄作なら「おもしろくなかった」で普通済ませればいいのだが、この映画に限り、見終わって何か釈然としない。
前作がよかっただけに、日本人と在日の人たちとの関係を扱っているだけに、
「こんな表現で出してくれるなよ」と、文句のひとつも言いたくなるのだ。
そのためかどうか分からないが、サイト映画レビューを見ると、すごく盛り上がっている。みんな文句バシバシ、ほとんどが☆ひとつなのに、こんなに書き込みがある映画もめずらしいのではないか。
それよりも私は、ご自身も在日の立場である李鳳宇さんが、製作、プロデュースをしたこの映画の出来についてどう思っているのだろうかと気になった。
シネカノン配給の映画ならという信頼みたいなものがあっただけに、なおさら。
これなら「ボンボン」を引き続き上映していた方がいいと思うのだが‥‥。