井の頭自然文化園に象の「はな子」がいる。
ひとりぼっちで。
自然文化園という名称だから動物園ではないが、
カモシカやキツネやタヌキといった小動物がいて、
ヤマドリやオシドリやラクチョウなどの鳥類が充実していて、
彫刻館なども併設されている自然文化園で、
なぜか3トンの巨大な象がいる。
しかも象がいるコンクリートのステージのすぐ近くでは、メリーゴーラウンドが回っていたりして、
最初見たときすごく不思議だった。
その組み合わせがのどかというか、船着場の埠頭でアジを釣っていたら、
突然クジラが現れたような感じがしなくもない。
はな子はタイ生まれ、昭和24年に2歳半で日本にやって来た。
戦後始めて日本が迎え受けた象だ。
戦時中に食料がなくなって、動物園の動物維持が困難になって‥‥と、
そんな戦後事情の中で、動物園の花形スターともいえる象は貴重な存在だったい違いない。
2年間移動動物園で都内各地を巡回後、29年からここにいるという。
巡回後というのがすごい。
象の歯は上下左右に4本しかないが(1つの重さ3キロ)、
はな子は上あご両側の歯が抜けてしまって、餌は流動食を日に100キロ。
今年60歳(平成19年現在)の還暦だから無理もないか。
はな子は今でも園内で一番の人気。見物客もいっぱいだ。
「ママより大きいのかな」と幼児。
「もう歳だからシワシワだね」と若い女性
「かわいそうだね、草原かどこかで走らせてあげたいね」とおばさん連れ。
確かに、ひとりぼっちで、狭い住居でちょっとかわいそう。
狭いステージゆえ5,6歩も歩けば行き当たる。
動き回りにくいのか、歩くのが面倒なのか、その場足踏みばかりしていることが多い。
でも、今日まで来園者を楽しませるはな子としての使命を、ここでけなげにがんばってきた。
ありがとね。