「アンリ・カルティエ=ブレッソン 知られざる全貌」
1908年フランス生まれ、20世紀最高の写真家の一人、アンリ・カルティエ=ブレッソンの写真展が、8月12日までここでやっている。
モノクロの印画紙に現れた世界は、
現実の日常から絶妙の瞬間を切り取ったスナップショットである。
「決定的瞬間」なる言葉を生み出したブレッソンならではの写真の数々。
「決定的瞬間」とは、1952年出版の写真集のタイトルからきているが、
これは英訳で、フランス語タイトルは「逃げ去るイメージ」だったという。
スナップ写真を撮っていて感じることは、まさしく、
うまく撮れたときは、私にとってはそれなりの「決定的瞬間」で、
シャッターを押す一瞬のズレが、「逃げ去るイメージ」だと実感する。
これこそ写真のおもしろさのひとつだ。
ブレッソンの洗練された、完成度の高い気品ある写真が好きで、
スナップを撮りたいと写真を始めたが、人を撮るのは難しい。
ブレッソンは「人の写真を撮るのは恐ろしいことである。何かしらの形で相手を侵害することになる。だから心づかいを欠いては粗野なものになりかねない」と語っているが、
私の場合、自分の勝手な趣味で、通りすがりの見知らぬ人を撮るときに感じる躊躇、弱気は確実に写真に出る。
欠いた心づかいや、感性という名の下の、撮り手の人間性もモロに出るから、
表現するということは常に恥かしさがつきまとう。
加えて最近は肖像権問題があるから、よけいに腰が引ける。
スナップを撮ることに迷いが出て、でも、やっぱり人を撮りたいと思っていて、
そこいらへんの気分の中途半端さも、カメラは写しこむようである。