
CO2=地球温暖化というほぼ定着したと思われた常識に従って、エコだ、エコだと脱化石燃料に励んできたこの10年は一体なんだったのだろう。 昨年秋に、IPCCの地球温暖化データに改竄があったという報道はわずかに聞いていたが、まさか、こんな意図的な歪曲、杜撰なデータ処理があったのかと、この本(「二酸化炭素温暖化説の崩壊」広瀬隆著(集英社新書))を読んで呆然とさせられた。
有名なHockey stick曲線と呼ばれた18世紀から20世紀末までの地球の温度上昇を示したグラフは、1990年代の気温の嵩上げや、60~70年代の寒冷期の温度の修正がなされていた。 さらに、今よりも気温が高かったはずの中世の温暖期や、ロンドンのテムズ川が凍った近世の小氷河期の気温が適切に反映されていなかった。 ホッケースティックのグラフは、2001年の第3次報告書に現れて温暖化説の決定的資料として世界中に流布したが、気温データの収集の不適切さ(都市部ではアスファルト路面や空調の喚起口近くなどで採温が行われたり)、シベリアの樹木の年輪やフィンランドの湖沼の堆積物による推定も、データの処理が適切でなかったものなどが次々に明るみに出ており、2007年の第4次報告書以降ではホッケースティックグラフは削除。その後も修正が相次いでいるという。 自分たちはそんなことも知らなかったのか、というショックがまず大きい。
もうひとつは、たとえ過去20年間に地球の気温が上昇しているとしても(実は21世紀になってからは下降している)、それはCO2の増加によるものではなく、太陽の活動や地球の自転・公転周期など、他の要因によるものが主要であり、大気の0.03%を占めるだけのCO2が0.04%に増えても、喧伝されているような温暖化は起こらないというIPCCグループとは別の科学者達の声である。今の温暖化は決して異常なレベルではなく、たとえば最後の氷河期が終わった後の、いわゆる縄文海進期は今より温暖で、日本の海水面は3~5mほども高く、東京湾は埼玉のほうまで入り込んでいたことは、貝塚の遺跡などからも周知の事実でもある。
これまでもCO2温暖化説に完全に納得していたわけではないが、化石燃料を効率的に使うことはエネルギー保全上大切だし、一方、無駄な熱の発生を抑えることは、都市のヒートアイランド化と気候変動を抑制するために大事だと思って、エコを意識してきたつもりであったが、それにしてもこのCO2温暖化説が捏造とまではいわずとも、根拠に乏しいことが白日のものにさらされているのだ。
欧米ではウオーターゲート事件をもじって、昨秋のメール暴露以来、”Climategate”と呼ばれ、ノーベル平和賞受賞のアル・ゴア元副大統領が米議会に喚問されて、自身がパートナーを務めるCO2排出権取引を推進するファンドとの関係を追及され、書店での著書のサイン会にClimategate派のギャングがビデオカメラ持参で乱入するような状況になっているとは、今回You Tubeを見るまで露と知らなかった。 CO2による地球温暖化説が音を立てて崩れようとしている、というのが科学者や欧米のメディアでの報道を受けての世界の情勢であるとすれば、日本のメディア、政治家は一体何をしているのか。 知ってか知らずか、CO2の25%削減だ、脱化石燃料、オール電化へ産業政策を誘導し、20年前に停止した高速増殖炉「もんじゅ」を再稼動させようとしている日本という国は大丈夫だろうか。
以前、9・11テロを捏造だとする説があり、WTCビルの倒壊の仕方やペンタゴンに突っ込んだとされる旅客機に関する不可解を問題にする本やウェブの投稿が溢れたことがあるが、今回のClimategateは、IPCCの報告のとりまとめをしていたイギリスのCRU(climate research unit)のコンピューターからハッキングされたメールやデータが公開され動かぬ証拠となっているだけに、IPCCの根幹を揺るがす一大スキャンダルになっているのも頷ける。地球温暖化というアジェンダを、政治家が新たな税金の創設と代替エネルギー開発主導という権力のために利用し、投資家がCO2排出権というビジネスで一儲けに励むという構図が透けて見える。 温暖化説を素直に信じて新しい税金を取られ、カーボン製品を利用した快適な生活を我慢をさせられる市民はたまらない。
著者の本は、かつて「燃料電池が世界を変える」を読んで、コージェネの熱効率の高さや、未来のエネルギーは原発-大送電方式ではなく、天然ガスや燃料電池による局地的な発電をつないだエネルギーウェブだという論旨に説得力を感じたことがあった。今回の本はデータの多くを、他の学者や研究家の資料から借りてきている嫌いはあるが、新書という形でこの本が日本語で出なければ、多くの人がCO2温暖化説を信じたままであろうから、エコ合唱のかびすましい日本は、頭を冷やす意味でも全国民の必読書といってもよいかもしれない。特に、第二章において、CO2ではなくヒートアイランド現象が、多くの都市の気温上昇の原因であるという指摘、そして原発の廃熱処理に必要な膨大な冷却水(海水)が、近郊の海の生態系に壊滅的な影響を与えているという事実は、これまで放射性廃棄物の問題しか頭になかった読者には新鮮であろう。
IPCCやCO2温暖化説に与してきた各国の気象学者や政府機関は、データ処理の不備は認めるものの報告の正しさそのものは揺るがないとしているが、Climategateによって表に出た事実が知られた今、もやはCO2=温暖化を鵜呑みにすることはできない。 ただ、それがエネルギー大量消費を是認するような世論に逆戻りすることは避けなければならないが。
「正しく知る地球温暖化」(2008)
「北極圏のサイエンス」(2006)
いずれも誠文堂新光社刊。 氷河の後退は19世紀から起こっていることや、北極圏の気温の変化が、CO2とは関係ない要因(メキシコ暖流の流入など)で起こっていることが、様々に例証されています。
さらに、日本の太陽研究学者である柴田一成氏の
「太陽の科学」(2010 NHKブックス)
これは人間にとって身近だあり、生命の源である太陽系の恒星「太陽」について最新の研究を教えてくれる意味で、大いに勉強になります。11年周期の黒点の活動の活発化が全く見られない現在、むしろ寒冷化のほうが心配という話も。
ふと思うと、最近のテレビでも、エコ、エコとは言うものの、CO2の話題はめっきり減った気がしますね。