香港の麺といえば日本のラーメンよりかなり細い黄色い麺(みん)と、もうひとつ河粉(ほーふぁん)と呼ばれる米から作った麺がある。こちらは白くてやや平べったい。
わたしが香港でいつも食べるのはこの白い河粉の方で、注文するのは決まって「魚蛋河粉」(ゆーだんほーふぁん)だ。魚蛋とは魚のすり身の団子のことで、それがトッピングされている。
初めて食べたのはこれまたJ・オニールと廟街あたりをうろついていた時のことである。
腹が減ったから何か食べようとすぐ傍の食堂に入った。テーブルについて壁のお品書きを見渡したが、さっぱり意味がわからない。いくらイギリスの植民地で英語が公用語だとはいっても、下町の庶民は英語など話せないのは日本と同じだ。注文取りのおばさんもメモを片手に苦笑いを浮かべた。
その時、J・オニールが隣のテーブルを見て言った。
「フォーじゃないか」
そっちを見ると、青年がどんぶりで白いうどんのようなものを食べていた。
J・オニールは一人で頷いて、「フォーだ。ベトナムで食べたことがあるんだ」
ふむ、それならそれを食べてみようということになり、おばさんにあれをふたつおくれ、と身振り手振りで注文した。
運ばれてきたどんぶりには白い面がいっぱいに入っていて、その上にぷりぷりとした魚のすり身団子が4、5個乗せられていた。食べてみると、うどんほどのこしはないが、つるつるした喉越しもまずまずだった。だしが物足りなかったのでテーブルの上にあったラー油を落としてみると、味がしまってうまみが増した。
J・オニールも器用に箸を使い、どんぶりにおおいかぶさるように麺を口に運んでいた。ベトナムのそのフォーとかいうのと同じか、と感想を聞くと、ちょっと首をかしげて、「少し違うかなぁ。こっちの方がやわらかい気がする」
食べ終えて、おばさんに壁のお品書きを指差して、これはどれなのかと身振りで訊ねると、おばさんは「魚蛋河粉」をボールペンで叩きながら、「ゆーだんほーふぁん」と大きな声でゆっくり読んで、がははっと笑った。
わたしが香港でいつも食べるのはこの白い河粉の方で、注文するのは決まって「魚蛋河粉」(ゆーだんほーふぁん)だ。魚蛋とは魚のすり身の団子のことで、それがトッピングされている。
初めて食べたのはこれまたJ・オニールと廟街あたりをうろついていた時のことである。
腹が減ったから何か食べようとすぐ傍の食堂に入った。テーブルについて壁のお品書きを見渡したが、さっぱり意味がわからない。いくらイギリスの植民地で英語が公用語だとはいっても、下町の庶民は英語など話せないのは日本と同じだ。注文取りのおばさんもメモを片手に苦笑いを浮かべた。
その時、J・オニールが隣のテーブルを見て言った。
「フォーじゃないか」
そっちを見ると、青年がどんぶりで白いうどんのようなものを食べていた。
J・オニールは一人で頷いて、「フォーだ。ベトナムで食べたことがあるんだ」
ふむ、それならそれを食べてみようということになり、おばさんにあれをふたつおくれ、と身振り手振りで注文した。
運ばれてきたどんぶりには白い面がいっぱいに入っていて、その上にぷりぷりとした魚のすり身団子が4、5個乗せられていた。食べてみると、うどんほどのこしはないが、つるつるした喉越しもまずまずだった。だしが物足りなかったのでテーブルの上にあったラー油を落としてみると、味がしまってうまみが増した。
J・オニールも器用に箸を使い、どんぶりにおおいかぶさるように麺を口に運んでいた。ベトナムのそのフォーとかいうのと同じか、と感想を聞くと、ちょっと首をかしげて、「少し違うかなぁ。こっちの方がやわらかい気がする」
食べ終えて、おばさんに壁のお品書きを指差して、これはどれなのかと身振りで訊ねると、おばさんは「魚蛋河粉」をボールペンで叩きながら、「ゆーだんほーふぁん」と大きな声でゆっくり読んで、がははっと笑った。