人間年をとると体質が変わる。それまで何ともなかったことが突然えらいことになったりする。
7、8年前のことになるが、香港から帰りの飛行機に乗ったあたりで、妙に唇がごわごわしてきた。変だなぁ、と思いながら、まぁすぐに治るだろうと高をくくって一晩寝た。
翌朝になると、これが段々痒くなってきた。痒みは更に増し、ぼりぼりかいているうちに口の周りに赤いぶつぶつができてきて、唇もたらこのように膨らんできた。しかもそれが頬やあごの辺りにも飛び火してきて、耳たぶまで痒くなってくる。
鏡で見ると悲惨な顔になってしまっていて、そして何よりも、痒くてたまらん、のである。しかももっとまずいことにおしっこをする末端器官までが痒く、腫れ上がってきた。最悪である。
老姑婆に言わせると、
「象さんのみたい」
なのだそうだが、象のそれを見たことがあるのか、と私は強く反論した。
いったい何が起こったのか、私はパニックになり、とうとう皮膚科に駆け込んだ。
お医者さんは患部をしばらく眺めた上で言った。
「何か普段と変わったもの食べました?」
「いえ、特には・・・」
考えてみても特別変わったものは食べていない。香港には行ったが、そこで食べたものはここ10年以上毎年食べているものばかりだし・・・。
「香港に行ってたんですが、特には変わったものは食べなかったんですけどねえ」
「香港ねえ・・・。マンゴーか何か食べました?」
「はあ?え、ええ、マンゴー食べました、たくさん」
「こりゃ、マンゴー皮膚炎ですなあ」
「????」
何?それ、てなもんである。
「で、でも先生、マンゴーは好きでずっと食べてましたけど、何ともなかったですよ」
私は果物大好き人間で、マンゴーも好物だった。日本ではなかなか食べられないが、香港ではさほどの値段でもないので、よく友人宅などで食べていた。今回も帰国前夜のバイキング料理(香港ではビュッフェというが)にあったので、根が意地汚い私はここぞとばかりむさぼり食ったのであった。
「いやあ、年をとると何かの拍子で体質が変わることがよくあるんですよ。だから最近中年になってからアトピー性皮膚炎にかかる人が結構増えてましてね」
マンゴーなど熱帯の果物はもともとあくが強いので、日本人には合わない人が割りといるそうだ。私の場合、中年になってから何かのきっかけで体質が変わり、マンゴーにアレルギーを起こすようになったのだろう、ということであった。
とほほ、である。とろりとした熟したマンゴーの黄色い果肉が目に浮かび、甘い味が口の中に広がる・・・。あれが食べられなくなってしまうのか。
どうしても食べたければ、小さく切ってフォークか何かで刺し、皮膚に触れないようにして直接口に入れるように、と先生は言った。とにかくマンゴーの汁が皮膚につくとそこがかぶれる。それだけでなく、やっかいなことにマンゴーを触った指で自分の身体を触ってもそこがまたかぶれてしまうのだ。
どおりで耳たぶや、おしっこの末端器官までもがかぶれたわけである。何となくちょっと耳を触ったりすることもあれば、トイレに行けば当然末端器官を手で操ることにもなる、それで「象さんのもの」みたいになってしまったわけだ。
まったく人間年をとるものではない。とんだ災難だった。
7、8年前のことになるが、香港から帰りの飛行機に乗ったあたりで、妙に唇がごわごわしてきた。変だなぁ、と思いながら、まぁすぐに治るだろうと高をくくって一晩寝た。
翌朝になると、これが段々痒くなってきた。痒みは更に増し、ぼりぼりかいているうちに口の周りに赤いぶつぶつができてきて、唇もたらこのように膨らんできた。しかもそれが頬やあごの辺りにも飛び火してきて、耳たぶまで痒くなってくる。
鏡で見ると悲惨な顔になってしまっていて、そして何よりも、痒くてたまらん、のである。しかももっとまずいことにおしっこをする末端器官までが痒く、腫れ上がってきた。最悪である。
老姑婆に言わせると、
「象さんのみたい」
なのだそうだが、象のそれを見たことがあるのか、と私は強く反論した。
いったい何が起こったのか、私はパニックになり、とうとう皮膚科に駆け込んだ。
お医者さんは患部をしばらく眺めた上で言った。
「何か普段と変わったもの食べました?」
「いえ、特には・・・」
考えてみても特別変わったものは食べていない。香港には行ったが、そこで食べたものはここ10年以上毎年食べているものばかりだし・・・。
「香港に行ってたんですが、特には変わったものは食べなかったんですけどねえ」
「香港ねえ・・・。マンゴーか何か食べました?」
「はあ?え、ええ、マンゴー食べました、たくさん」
「こりゃ、マンゴー皮膚炎ですなあ」
「????」
何?それ、てなもんである。
「で、でも先生、マンゴーは好きでずっと食べてましたけど、何ともなかったですよ」
私は果物大好き人間で、マンゴーも好物だった。日本ではなかなか食べられないが、香港ではさほどの値段でもないので、よく友人宅などで食べていた。今回も帰国前夜のバイキング料理(香港ではビュッフェというが)にあったので、根が意地汚い私はここぞとばかりむさぼり食ったのであった。
「いやあ、年をとると何かの拍子で体質が変わることがよくあるんですよ。だから最近中年になってからアトピー性皮膚炎にかかる人が結構増えてましてね」
マンゴーなど熱帯の果物はもともとあくが強いので、日本人には合わない人が割りといるそうだ。私の場合、中年になってから何かのきっかけで体質が変わり、マンゴーにアレルギーを起こすようになったのだろう、ということであった。
とほほ、である。とろりとした熟したマンゴーの黄色い果肉が目に浮かび、甘い味が口の中に広がる・・・。あれが食べられなくなってしまうのか。
どうしても食べたければ、小さく切ってフォークか何かで刺し、皮膚に触れないようにして直接口に入れるように、と先生は言った。とにかくマンゴーの汁が皮膚につくとそこがかぶれる。それだけでなく、やっかいなことにマンゴーを触った指で自分の身体を触ってもそこがまたかぶれてしまうのだ。
どおりで耳たぶや、おしっこの末端器官までもがかぶれたわけである。何となくちょっと耳を触ったりすることもあれば、トイレに行けば当然末端器官を手で操ることにもなる、それで「象さんのもの」みたいになってしまったわけだ。
まったく人間年をとるものではない。とんだ災難だった。