山崎元の「会社と社会の歩き方」

獨協大学経済学部特任教授の山崎元です。このブログは私が担当する「会社と社会の歩き方」の資料と補足を提供します。

【5月20日】子ども手当を狙う金融商品

2010-05-19 05:33:10 | 講義資料
 以下の文章は、5月19日に「ダイヤモンド・オンライン」にUPされたもので、子ども手当を狙う金融商品について書いたものです。
 学生のみなさんの中で、子ども手当を受け取る人は殆どいないと思いますが、じぶんならどうするだろうか、と考えてみて下さい。

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●子ども手当を狙う金融商品

 今年の6月頃から子供一人当たり1万3千円支給される「子ども手当」。原則論としては「好きなように使えばいい!」。
 何らかの借金がある人は、たぶんその返済に充てるのが最も効率がいいだろうが、それを除くと、子供の習い事に使おうが、食費に使おうが、それでストレス解消が出来るなら母親のパチンコ代に使おうが、何ら問題はない。どれがいいと、優劣をはっきりと、まして他人が決められる問題ではない。
 給付金型の福祉のいいところは、その使途に制限を付けずに、一定の経済力を(公共事業などよりも)遙かにローコストで公平に配ることができる点だが、ここが予算支出に自分達の利権を絡めたい官僚集団に嫌われる点でもある。
 また、一方で市場原理の優位を説きながらも、子ども手当に関しては教育クーポンで配れ(母親がパチンコに使わないように?)などという、一貫性のない狭量を示す人もいるようだが、先ずは「余計なお世話だ!」と申し上げておこう。
 さて、「余計なお世話だ」と言われたぐらいでは引き下がらない人達がいる。金融マンである。顧客にとっての「毎月1万3千円の新たなお金」は、彼らにとって大きなビジネスチャンスだ。彼ら(彼女ら)は、にっこり微笑んで、「申し訳ございません。手前どもは、お客様のために商品を提供させて頂いています」とでも述べて、商品のセールスに入るに違いない。
 子ども手当が入って来たとしても、もともとの貯蓄や投資の生活に、本来大きな変化はないはずだ。将来に備えて投資をしている人であれば、積み立てででも、あるいは金額がまとまったところで投資するとしても、投資や貯蓄の額を増やせばいい。子ども手当で入ってくるからと言って、子供に使わなければならないとか、まして、特別に有利な運用方法があるわけではない。

<「やっぱり」学資保険?>

 子ども手当を目当てにした金融商品は、何が来るか。やっぱり、学資保険か、と思えば、その通りだった。金融業界の雑誌「週刊 金融財政事情」(5月17日号)の記事によると、一部の生命保険会社が子ども手当の月額1万3千円レベルに保険料を合わせた学資保険を売り込んでいて、契約件数を伸ばしているらしい。
 商品のイメージとしては、月額1万2千数百円を18年間払い込むと、満期に3百万円受け取ることが出来、期間中に親(正確には契約者)が亡くなった場合には、以降の保険料が免除される、という感じのものだ。
 近年の学資保険には、払い込んだ保険料が満期の受け取りを上回る(返戻率100%割れ)商品もあったが、最近の売れ筋商品は、たとえば合計2百6十数万円を払い込んで、満期(開始18年後)に300万円になるといった、返戻率が100%を超えるもののようだ。
 実際に、貯蓄だと考えると、例えば、120%台(0歳で一括払い、18年満期)の返戻率は、「何ら魅力的ではない!」が、顧客は18年という期間の運用をなかなかイメージできないので、「百二十何パーセント」という響きは、そう悪くないものに聞こえるらしい。
 金融商品として評価すると、預金でも投資信託でも、これだけの期間資金を固定できるならもっと利回りのいい物が複数ある。途中で金利が上昇すれば預け替えが出来る場合もあるし、何よりも、子供が本当にお金が必要な時には蓄えを使うことが出来る。
 たとえば、子供に音楽家やスポーツの才能があった場合、レッスン料は18歳よりも前に投入する方が収益率が高そうだ。楽器の購入などもそうだろう。もちろん、学業や病気の治療などにお金が必要な場合もあるだろう。
 子ども手当向けの商品で典型的なのは18歳(順調なら大学入学時点)で300万円という設計のものだが、このくらいのお金がまとまったお金として意味を持つ家計なら、子供関連以外の支出でも、まとまったお金を必要とするケースは少なくないだろう。
 子供の教育費だけを別にして貯めたり運用したりすることは、金融的な意思決定としては効率的でない。
 先の「週刊 金融財政事情」の記事によると、学資保険を金融機関が販売した場合、初年度は保険料の5%で1万円程度、その後5年間は手数料が支払われるが、1年目よりは少ない、といったレベルの手数料収入になるようだ。もちろん、この他に、保険会社が儲けている。お金の自由度が失われることの他に、こうした金融業者の手数料を考えると、学資保険が効率のいい運用になるはずがない。
 付け加えると、学資保険の危険はもう一歩先にある。保険会社や販売金融機関にとって、学資保険はそう儲かる商品ではない。学資保険は、明るい話題で営業トークが出来る顧客に提案しやすい商品であり、これを糸口にして、別のもっと利幅の大きな保険等の商品を売ろうとするところに、先の狙いがある。金融ビジネスは、あくまでも貪欲だ。
 個人の側では、端的に言って、貯蓄・投資は、リスクを考えた上でも最も効率が良いと考える運用(二、三の商品への分散投資になる公算が大きいが)に固めるのが明らかにいいし、その上で、決して借金をしないで済むように資金繰りが出来るようなキャッシュ・マネジメント(普通預金残高のコントロール程度のことだが)が出来ればいい。

<それでも「子ども手当」を運用したい人のために>

 「子ども手当」を狙った金融商戦では、学資保険の他にも、銀行が、子ども手当の指定振り込み口座を獲得できた場合にギフト券をプレゼントするようなキャンペーンを提案しているし、生命保険会社でも、定期保険や終身保険など既存の商品で、月額1万3千円程度の保険料支払いになるプランを提示するパンフレットを作ったりしているようだ。
 何度も繰り返して恐縮だが、「子ども手当」という名目で入金したからといって、お金はお金だ。特別な扱いをする必要はない。
 しかし、それでも何か特別な運用をしたいという読者のために、筆者(注;ネット証券に勤めているので要注意!)も、一つプランを提示しよう。
 前提として、読者にとって、子ども手当の収入は計算外のものであり、これが無くても生活に支障はないとしよう。概ねそういうことなら、このお金はリスクを取ることが出来る運用資金だ。
 一方、リスクを取る場合、たとえば、金の積み立てとか、特定の株式への積み立て投資ではなく、幅広い分散投資が出来ると安心だ。1万3千円で出来る分散投資はあるか。加えて、学資保険のように、買ったそばから手数料が掛かる(顧客からは見えないが)ような商品は嫌だろう。
 筆者が用意した答えは以下のようなものだ。株価指数に連動する運用を行う投資信託、いわゆるインデックス・ファンドで、「TOPIX」(東証株価指数)に連動するものを6000円、日本以外の先進国の株式に連動する株価指数である「MSCI-KOKUSAI」に連動するものを5000円、新興国株式に連動する指数である「MSCIエマージング」を2000円、毎月購入する。
 購入時に手数料が掛からない「ノー・ロード」と呼ばれるタイプのものを買う。信託報酬も海外に投資する物でも年率0.7%程度で収まる(まだ高いが、他の投信よりは遙かにましだ)。本当は商品名や会社名を挙げたいところだが、宣伝になるので止めておこう。大手信託銀行系の投信会社(複数)でこうした条件に当てはまる投資信託を設定・運用している。
 購入窓口は、これも会社名を挙げたいところだが(筆者の立場では特に)、ぐっと堪えて、ネット証券が便利だと申し上げておく。複数のネット証券で、1000円単位からの積み立て投資を行っている。
 結果に責任は持てないが、筆者は、学資保険よりも随分いい運用になるのではないかと期待している。もちろん、途中で解約して、必要な用途にお金を使うことも出来る。頭の中で将来を想像していただくと、学資保険のような商品にお金を閉じこめるよりも、分散投資されたリスクを取りながら、お金をいつでも自由に引き出せる運用の方が具合がいいことが分かるのではないか。
 もちろん、筆者も金融マンの端くれである。話を信用していいとは限らないし、何か別の商売の狙いがあるかも知れない。投資の判断は、読者ご自身の責任で油断無く行って下さい。
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