今回は、「副業」あるいは「複業」がテーマだ。就職前のみなさんには、具体的なイメージが湧かないことが多いだろうし、就職直後の数年は副業・複業の余裕がないかも知れないが、将来の選択肢として複数の仕事を持つことについては是非頭に入れておいていただきたいし、多くの人が可能ならやってみてもいいのではないかと思う。
以下の文章は、リクルート・エージェント社のサイトの「ビジネス羅針盤」という連載コラムに「副業または複業のすすめ」と題して寄稿したものだが、複数の仕事に関わることのメリット・デメリットについて考えてみて欲しい。
(http://www.r-agent.co.jp/guide/yamazaki/bn.html)
尚、授業では、「評論家」「著述家」を題材に、私が現在の仕事を副業を通じて育ててきた過程についてもお話ししてみたい。基本的に「副業としての評論家のすすめ」を述べてみたい。「評論家」は、多くの人が副業ないし本業にできる稼ぎのスタイルだと思う。
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『副業あるいは複業のすすめ』
★副業は趣味よりも面白い
本稿では、ビジネスパーソンの皆様に副業をお勧めしたい。現在ただちに始めなくとも、将来副業を持つことを意識した方がいいという意味では、読者の大半に当てはまる話だ。現在、高収入な人でも、低収入な人でも、あるいは、何らかの特別なスキルを持っていてもいなくても、副業は考えてみる価値がある。
筆者が現在「経済評論家」を名乗ってやっている原稿書きやテレビ出演、講演などは、かつて筆者にとっては副業だった。
現在、会社員としての仕事の時間や収入よりも、経済評論家方面の仕事のウェイトが高くなったので、これを副業と呼ぶのは不適当かも知れないが、始めたプロセスは完全に「副業として」であった。少し気取って言い換えると現在、複数の仕事があるという意味で「複業」の状況になった。
あなたの場合は独立する勇気がなかっただけだろう、と言われたら。「はい」とお答えしよう。いきなりの独立にはかなりのリスクがあるが、副業なら、リスクの程度をある程度自分でコントロールできる。完全独立も一つの選択肢だが、複業も悪くない。
★副業を持つことをお勧めしたい理由は大きく言って二つある。
一つは、副業は張り合いがあって面白いからだ。敢えていえば、同じ事を趣味としてやるよりも、仕事としてやる方が、張り合いがあって面白い場合が多い。全てがそうだ、と言い切る自信はないが、多くの場合にそうだろう。
たとえば、経済や政治あるいは社会問題、文化などについて考えたり発言したりすることに興味がある場合、現代であればブログなどを立ち上げて自分の意見を多くの人に発信することは難しくない。もちろん、それも悪くないのだが、出版社などの依頼者から依頼を受け、これに応えて、お金を貰う「仕事」として意見発信を行う方が、ずっと張り合いがある。
もちろん、仕事として依頼を引き受けると責任も伴う。しかし、ある程度の責任や成否が問われるような負荷がないと、物事を達成した時に張り合いを感じないのも事実だ。こちらの仕事をビジネスとして評価してくれる依頼者からの手応えがあることは好ましいし、仕事ベースのアウトプットの方が、情報の受け手の受け止め方も真剣な場合が多い。
原稿書きや講演のような、自分が知っていることを他人と共有する活動の多くは、これを仕事の状況に置くことで、充実感が増す場合が多い。また、料理でも、外国語でも、着物の着付けでも、他人にものを教えることが出来るスキルを持っている場合、趣味として同好者を募るだけでなく、お金を取って人に教えるというレベルまで持っていくと、単なる趣味とは別の張り合いが生じる。
副業を持つことをお勧めする第二の理由は、少額ではあっても会社に頼らない稼ぎの道を持つことで、経済的な安心感や自信が増すことだ。
勤め先の会社と個人の関係は、時間とともに変化する。現在、会社の業績が順調で、個人として快適に働いているとしても、会社の業況の変化、人事異動、家族や健康も含めた個人の事情の変化、心境の変化など、将来、会社と個人の相性がピッタリとは言えない場合が現れることは少なくない。こうした時に、会社以外の収入手段を持っていることは現実的なサポートになる場合があるし、それ以前に、自分の自信になる。勤めている会社以外の場所から、自分の仕事に対する対価を受け取るのは、なかなか気分のいいものだ。
本業と副業
率直に言って、現在の企業の殆どは、社員の人生の終わりまで社員の生活の面倒を見る実力と意思があるわけではない。会社とは、案外頼りないものだ。
しかし、多くの会社で、就業規則には「副業は(原則)禁止だ」という内容の規則が載っている。これは、「会社ごとき」の横暴だと筆者は思っているが、本業(副業を始める時点では勤務先の会社の仕事)と副業の関係をどう整理したらいいのだろうか。
法律論は筆者の専門ではないが、副業それ自体は原則として会社が禁止できるものではないということについては判例が確定している。少なくとも、本業に支障を生じるような副業であるとされない限り、副業自体は自由だ。ある程度以上の大きさの企業の人事部は、この判例を知っているはずだ。
しかし、現実に、面と向かって「副業をしたいのですが、いいですか」と問い合わせると、「ウチは原則禁止だ」「一体何をやるつもりなのか、詳しく説明するとともに、許可を申請しなさい」といった、不当に偉そうな答えが返ってくるはずだ。
さて、どうすべきか。この種の問題には常に100%それでOKという回答がないことが多いが、この問題もそうだ。
結論をいうと、本業の出退勤さえきちんとしていれば、目立たないように、断り無しに副業を始めても問題のないケースが多い。どうしても難しそうな会社に勤めている場合、会社の許可が必要だったり、当面諦めておくしかない場合があるが、諦める場合でも、将来、会社の延長以外に、自分で何が出来るかを考え、準備をしておく方がいい。ただ、多くの場合は、本業との衝突がない限り、見つかっても、黙認されることが多いだろう。また、ペンネームで直接仕事と関係のない本を書いたり、ネットを使った相談や物販などの副業を行っていたり、という程度のことなら、問題にならないことも多い。
もちろん、本業に支障を来さないこと、本業の営業の秘密などを使った副業ではないことなどには注意がいる。しかし、本来、副業は個人の自由なのだということは知っておきたい。
★副業はためになる
実際に可能な副業は、人により様々だが、たくさんある。
いくつか列挙すると、先ず、趣味の延長線上にあるサービスの仕事があるだろう。スポーツにしても、将棋や囲碁、麻雀のようなゲームにしても、あるいは茶道、華道、楽器のような芸事にしても、高いレベルの能力と経験があれば、他人に教えることを仕事に出来る場合が多いし、その場所を提供したり、用具などの販売を行ったりといった副業につながる可能性が大きい。いきなり独立するのは難しくても、副業の形でなら、自分も楽しみながら安全にビジネスを立ち上げることが出来る場合が多い。
もちろん、飲食業などのアルバイト、介護などのサービスのように、主に時間と体力を使う副業もある。副収入の道としては、手っ取り早いことが多いだろう。また、自分が興味のある商品の物販や、何らかの相談に応じるコンサルティング、自分のブログなどを使ったアフィリエイトビジネスなど、近年であればインターネットを使って顧客にアクセスするビジネスで副業が立ち上がる場合も多い。他人よりも詳しくて、毎日語っても話題が尽きないくらいの興味があるテーマがあれば、何らかの副業に利用できる場合が多い。兼業禁止が厳しい会社に勤めている場合でも、別名を使ってビジネスが出来る場合が多い。
ただし、こうした場合は、将来ビジネスが軌道に乗った場合に、ブランドに連続性を持たせられるように、一定した名前を使う(原稿書きなら、同じペンネームを使う)ようにするべきだ。筆者は、数年間、多数のペンネームを使って雑誌の原稿を書いたことがあるのだが、こうした仕事は、全くとは言わないが、将来の役には立たなかった。
趣味の延長でも、自分の得意分野の仕事でも、副業としてビジネスの形で行うことで、また、自分のアウトプットに責任が生じることで、自分の知識やビジネス・センスのレベルアップにつながることが多い。一つの会社の中だけで仕事をして、もっぱらその会社を通じて人間関係を形成していると、どうしても視野が狭くなりがちだ。
「会社なんて、どこでも似たようなものだ」と言うのは、転職の経験がなく一つしか会社を知らない人か、そうでなければ、異なる組織や仕事の違いに鈍感な感性の鈍い人だろう。副業の形で、勤務先の会社以外の世間と、ビジネスとしての真剣な関わりを持つと、転職をしなくても、ビジネスパーソンとしての視野を広げるチャンスを持つことが出来る。
★もちろん、将来のために!
筆者が副業を育てることに力を入れ始めたのは、40歳台前半の頃からだった。率直に言って、その頃は、収入の高い会社への転職を目指す方が、より多く稼ぐことが出来たように思う。
しかし、一つには自分の意見を発信するような機会を増やしたかったからだが、もう一つには、会社の定年に関係なく将来も自分のペースで続けることが出来る仕事の基盤を作りたかったからだ。
勤めている会社の定年が何歳であるにせよ、その後にも働くことが出来る期間は長いし、何らかの形で働いている方が張り合いがある場合が多い。
もちろん、定年の前にも様々な経済的なリスクはある。手間が掛かるのは事実だし、いつも上手く行くとは限らないが、副業はビジネスパーソンにとって有力な手段だ。何が出来るか、考えてみることは無駄ではないし、小さなリスクで試してみることができるのが副業のいいところだ。
以上
以下の文章は、リクルート・エージェント社のサイトの「ビジネス羅針盤」という連載コラムに「副業または複業のすすめ」と題して寄稿したものだが、複数の仕事に関わることのメリット・デメリットについて考えてみて欲しい。
(http://www.r-agent.co.jp/guide/yamazaki/bn.html)
尚、授業では、「評論家」「著述家」を題材に、私が現在の仕事を副業を通じて育ててきた過程についてもお話ししてみたい。基本的に「副業としての評論家のすすめ」を述べてみたい。「評論家」は、多くの人が副業ないし本業にできる稼ぎのスタイルだと思う。
●
『副業あるいは複業のすすめ』
★副業は趣味よりも面白い
本稿では、ビジネスパーソンの皆様に副業をお勧めしたい。現在ただちに始めなくとも、将来副業を持つことを意識した方がいいという意味では、読者の大半に当てはまる話だ。現在、高収入な人でも、低収入な人でも、あるいは、何らかの特別なスキルを持っていてもいなくても、副業は考えてみる価値がある。
筆者が現在「経済評論家」を名乗ってやっている原稿書きやテレビ出演、講演などは、かつて筆者にとっては副業だった。
現在、会社員としての仕事の時間や収入よりも、経済評論家方面の仕事のウェイトが高くなったので、これを副業と呼ぶのは不適当かも知れないが、始めたプロセスは完全に「副業として」であった。少し気取って言い換えると現在、複数の仕事があるという意味で「複業」の状況になった。
あなたの場合は独立する勇気がなかっただけだろう、と言われたら。「はい」とお答えしよう。いきなりの独立にはかなりのリスクがあるが、副業なら、リスクの程度をある程度自分でコントロールできる。完全独立も一つの選択肢だが、複業も悪くない。
★副業を持つことをお勧めしたい理由は大きく言って二つある。
一つは、副業は張り合いがあって面白いからだ。敢えていえば、同じ事を趣味としてやるよりも、仕事としてやる方が、張り合いがあって面白い場合が多い。全てがそうだ、と言い切る自信はないが、多くの場合にそうだろう。
たとえば、経済や政治あるいは社会問題、文化などについて考えたり発言したりすることに興味がある場合、現代であればブログなどを立ち上げて自分の意見を多くの人に発信することは難しくない。もちろん、それも悪くないのだが、出版社などの依頼者から依頼を受け、これに応えて、お金を貰う「仕事」として意見発信を行う方が、ずっと張り合いがある。
もちろん、仕事として依頼を引き受けると責任も伴う。しかし、ある程度の責任や成否が問われるような負荷がないと、物事を達成した時に張り合いを感じないのも事実だ。こちらの仕事をビジネスとして評価してくれる依頼者からの手応えがあることは好ましいし、仕事ベースのアウトプットの方が、情報の受け手の受け止め方も真剣な場合が多い。
原稿書きや講演のような、自分が知っていることを他人と共有する活動の多くは、これを仕事の状況に置くことで、充実感が増す場合が多い。また、料理でも、外国語でも、着物の着付けでも、他人にものを教えることが出来るスキルを持っている場合、趣味として同好者を募るだけでなく、お金を取って人に教えるというレベルまで持っていくと、単なる趣味とは別の張り合いが生じる。
副業を持つことをお勧めする第二の理由は、少額ではあっても会社に頼らない稼ぎの道を持つことで、経済的な安心感や自信が増すことだ。
勤め先の会社と個人の関係は、時間とともに変化する。現在、会社の業績が順調で、個人として快適に働いているとしても、会社の業況の変化、人事異動、家族や健康も含めた個人の事情の変化、心境の変化など、将来、会社と個人の相性がピッタリとは言えない場合が現れることは少なくない。こうした時に、会社以外の収入手段を持っていることは現実的なサポートになる場合があるし、それ以前に、自分の自信になる。勤めている会社以外の場所から、自分の仕事に対する対価を受け取るのは、なかなか気分のいいものだ。
本業と副業
率直に言って、現在の企業の殆どは、社員の人生の終わりまで社員の生活の面倒を見る実力と意思があるわけではない。会社とは、案外頼りないものだ。
しかし、多くの会社で、就業規則には「副業は(原則)禁止だ」という内容の規則が載っている。これは、「会社ごとき」の横暴だと筆者は思っているが、本業(副業を始める時点では勤務先の会社の仕事)と副業の関係をどう整理したらいいのだろうか。
法律論は筆者の専門ではないが、副業それ自体は原則として会社が禁止できるものではないということについては判例が確定している。少なくとも、本業に支障を生じるような副業であるとされない限り、副業自体は自由だ。ある程度以上の大きさの企業の人事部は、この判例を知っているはずだ。
しかし、現実に、面と向かって「副業をしたいのですが、いいですか」と問い合わせると、「ウチは原則禁止だ」「一体何をやるつもりなのか、詳しく説明するとともに、許可を申請しなさい」といった、不当に偉そうな答えが返ってくるはずだ。
さて、どうすべきか。この種の問題には常に100%それでOKという回答がないことが多いが、この問題もそうだ。
結論をいうと、本業の出退勤さえきちんとしていれば、目立たないように、断り無しに副業を始めても問題のないケースが多い。どうしても難しそうな会社に勤めている場合、会社の許可が必要だったり、当面諦めておくしかない場合があるが、諦める場合でも、将来、会社の延長以外に、自分で何が出来るかを考え、準備をしておく方がいい。ただ、多くの場合は、本業との衝突がない限り、見つかっても、黙認されることが多いだろう。また、ペンネームで直接仕事と関係のない本を書いたり、ネットを使った相談や物販などの副業を行っていたり、という程度のことなら、問題にならないことも多い。
もちろん、本業に支障を来さないこと、本業の営業の秘密などを使った副業ではないことなどには注意がいる。しかし、本来、副業は個人の自由なのだということは知っておきたい。
★副業はためになる
実際に可能な副業は、人により様々だが、たくさんある。
いくつか列挙すると、先ず、趣味の延長線上にあるサービスの仕事があるだろう。スポーツにしても、将棋や囲碁、麻雀のようなゲームにしても、あるいは茶道、華道、楽器のような芸事にしても、高いレベルの能力と経験があれば、他人に教えることを仕事に出来る場合が多いし、その場所を提供したり、用具などの販売を行ったりといった副業につながる可能性が大きい。いきなり独立するのは難しくても、副業の形でなら、自分も楽しみながら安全にビジネスを立ち上げることが出来る場合が多い。
もちろん、飲食業などのアルバイト、介護などのサービスのように、主に時間と体力を使う副業もある。副収入の道としては、手っ取り早いことが多いだろう。また、自分が興味のある商品の物販や、何らかの相談に応じるコンサルティング、自分のブログなどを使ったアフィリエイトビジネスなど、近年であればインターネットを使って顧客にアクセスするビジネスで副業が立ち上がる場合も多い。他人よりも詳しくて、毎日語っても話題が尽きないくらいの興味があるテーマがあれば、何らかの副業に利用できる場合が多い。兼業禁止が厳しい会社に勤めている場合でも、別名を使ってビジネスが出来る場合が多い。
ただし、こうした場合は、将来ビジネスが軌道に乗った場合に、ブランドに連続性を持たせられるように、一定した名前を使う(原稿書きなら、同じペンネームを使う)ようにするべきだ。筆者は、数年間、多数のペンネームを使って雑誌の原稿を書いたことがあるのだが、こうした仕事は、全くとは言わないが、将来の役には立たなかった。
趣味の延長でも、自分の得意分野の仕事でも、副業としてビジネスの形で行うことで、また、自分のアウトプットに責任が生じることで、自分の知識やビジネス・センスのレベルアップにつながることが多い。一つの会社の中だけで仕事をして、もっぱらその会社を通じて人間関係を形成していると、どうしても視野が狭くなりがちだ。
「会社なんて、どこでも似たようなものだ」と言うのは、転職の経験がなく一つしか会社を知らない人か、そうでなければ、異なる組織や仕事の違いに鈍感な感性の鈍い人だろう。副業の形で、勤務先の会社以外の世間と、ビジネスとしての真剣な関わりを持つと、転職をしなくても、ビジネスパーソンとしての視野を広げるチャンスを持つことが出来る。
★もちろん、将来のために!
筆者が副業を育てることに力を入れ始めたのは、40歳台前半の頃からだった。率直に言って、その頃は、収入の高い会社への転職を目指す方が、より多く稼ぐことが出来たように思う。
しかし、一つには自分の意見を発信するような機会を増やしたかったからだが、もう一つには、会社の定年に関係なく将来も自分のペースで続けることが出来る仕事の基盤を作りたかったからだ。
勤めている会社の定年が何歳であるにせよ、その後にも働くことが出来る期間は長いし、何らかの形で働いている方が張り合いがある場合が多い。
もちろん、定年の前にも様々な経済的なリスクはある。手間が掛かるのは事実だし、いつも上手く行くとは限らないが、副業はビジネスパーソンにとって有力な手段だ。何が出来るか、考えてみることは無駄ではないし、小さなリスクで試してみることができるのが副業のいいところだ。
以上