以下の文章は、作家の村上龍さんが編集長を務めるメルマガ「JMM」の今週月曜日に配信されたものに私が寄稿した回答です。村上龍さんの問いは「日本では廃業率が開業率を上回っているが、開業率を高めるにはどうしたらいいか?」という内容でした。
他の人の回答は、JMMのサイト(http://ryumurakami.jmm.co.jp/)で読むことができます。このサイトでは、「JMM」の配信を申し込むこともできます。「JMM」は経済・医療などの問題を扱った無料のメルマガ(内容はとても真面目!)であり、読み応えがあるので、配信の登録をされることをお勧めします。
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起業が少ない理由は、経済合理的に考えて、リスクも考えたときに起業で期待され
る利益が魅力的でないか、あるいは起業することの機会費用が大きいかでしょう。
自分で事業を興すことそのものは、もともと、そう割のいい経済行為ではありませ
ん。失敗の可能性は大きい。そうでなくても、働きに対して収入が十分とは言えない
場合が多いでしょう。後者に関しては、例えば、会社を辞めて起業したけれども、会
社員時代よりも遙かに忙しくなっているが、しかし、収入は会社員とそう変わらない、
という社長さんが多いでしょうし、それでも、起業としては上手く行っている方で
しょう。大いに儲かっている起業者はごく少数です。
しかし、確率と損得を考えて起業は合理的ではないけれども、それでも事業にチャ
レンジする人が後を絶たないことに半ば呆れかつ感心して、この事業への意欲を「ア
ニマル・スピリット」と呼んだのはケインズですが、幸い、アニマル・スピリットを
持つ人は今日でも多数居るようです。ただ、日本にあって、このアニマル・スピリッ
トが低下している可能性はあります。
ある調査によると、日本人は年間のセックスの数が世界的に見て少ないようですが、
こうしたこととも通底し、「アニマル・スピリット」を低下させている何らかの要因
があるのかも知れません。客観的なデータを欠いた印象論ですが、起業して成功して
いる社長さんの多くは、男性であれば、アニマル・スピリットを「獣的意欲!」とで
も訳したくなるような相当の「女好き」であることが一般的です。性欲と起業欲・事
業欲には、何らかの関係があるような気がします(「子孫の繁栄」と「資本の増
殖」)。この問題は、場合によっては最重要なポイントでしょうが、人間の考察に及
ぶので、これ以上踏み込みません(編集長にお任せします)。以下、日本にも一定の
アニマル・スピリットが存在すると仮定して、これが発揮されるための方法を考えま
す。
人が起業するかしないかを考える場合、起業した場合に予想される状況と、起業し
なかった場合に予想される状況を比較することが合理的です。多くの人は勤労者なの
で、起業する状態と、会社や官庁に勤め続ける状態を比較することになります。
正社員として会社に勤め続ける状態と会社を辞めた状態を比較すると、前者では解
雇されにくく平均的には年齢と共に年収が上昇する状況が想定できるのに対して、一
度会社を辞めると、そもそも同様の職を獲得することが難しく、再び雇用されること
が可能だとしても、収入が大きく下がる場合が多いという現実があります。つまり、
有利な現状を手放すことの機会費用が大変大きいということです。
開業率を上げる、即ち起業を増やすには、一つには、雇用の流動化を促進すべきで
しょう。正社員の解雇を容易にする、長い勤続年数が有利な制度(年功賃金や、超勤
族が有利な退職金制度や年金制度)を廃止する、といったことが考えられます。経済
の効率を改善する為にも、いわゆる正規と非正規の差を無くす意味でも、これは合理
的な変化だと思われます。ただし、既得権層(正社員、そして官僚)の反発は大きい
でしょう。
もう一つの方法は、起業のリスクを小さくすることでしょう。こちらに対する反発
は、より小さいのではないかと思われます。
有力だと思う施策は、「兼業禁止」を明確に禁止することです。会社や官庁の仕事
に支障がない限り副業を制限しない、さらに、会社なり官庁なりの労働を「完全フル
タイム」以外の形態でも認めるようにすると、会社員や公務員の起業はぐっと楽にな
ります。
今日、物理的な作業だけでなく、知的な貢献を要求される仕事が増えていますが、
こうした仕事にあっては、たとえば週に5日の出勤を3日にしても(極端な場合、出
勤しなくても)、その人の貢献は、そう大きく減らないでしょう。こうした状況をフ
ルに活かすと、会社側は社員の貢献を今までよりも安価に買うことが出来るでしょう
し、社員の側は、時間と自由を手に入れつつ、小さなリスクで起業することができま
す。
自分が養わなければならない家族がいる、会社を辞めて失敗すると世間的な評価も
大きく下がる、しかし、起業して成功できることに絶対の自信を持てるようなビジネ
ス・プランも自分の能力への自信もない、という「普通の勤労者」(私もそうです)
が、起業に踏み出すには、副業型の起業を可能にし、奨励することが有効ではないで
しょうか。社会的に、副業を支援しブームにするといいのかも知れません。
尚、現職及び前職の会社の理解もあって、私は、現在この方法を試していますが、
起業、あるいはフリーとしての成否は今後の問題ながら、今のところ、この方法は上
手く機能しています。
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起業が少ない理由は、経済合理的に考えて、リスクも考えたときに起業で期待され
る利益が魅力的でないか、あるいは起業することの機会費用が大きいかでしょう。
自分で事業を興すことそのものは、もともと、そう割のいい経済行為ではありませ
ん。失敗の可能性は大きい。そうでなくても、働きに対して収入が十分とは言えない
場合が多いでしょう。後者に関しては、例えば、会社を辞めて起業したけれども、会
社員時代よりも遙かに忙しくなっているが、しかし、収入は会社員とそう変わらない、
という社長さんが多いでしょうし、それでも、起業としては上手く行っている方で
しょう。大いに儲かっている起業者はごく少数です。
しかし、確率と損得を考えて起業は合理的ではないけれども、それでも事業にチャ
レンジする人が後を絶たないことに半ば呆れかつ感心して、この事業への意欲を「ア
ニマル・スピリット」と呼んだのはケインズですが、幸い、アニマル・スピリットを
持つ人は今日でも多数居るようです。ただ、日本にあって、このアニマル・スピリッ
トが低下している可能性はあります。
ある調査によると、日本人は年間のセックスの数が世界的に見て少ないようですが、
こうしたこととも通底し、「アニマル・スピリット」を低下させている何らかの要因
があるのかも知れません。客観的なデータを欠いた印象論ですが、起業して成功して
いる社長さんの多くは、男性であれば、アニマル・スピリットを「獣的意欲!」とで
も訳したくなるような相当の「女好き」であることが一般的です。性欲と起業欲・事
業欲には、何らかの関係があるような気がします(「子孫の繁栄」と「資本の増
殖」)。この問題は、場合によっては最重要なポイントでしょうが、人間の考察に及
ぶので、これ以上踏み込みません(編集長にお任せします)。以下、日本にも一定の
アニマル・スピリットが存在すると仮定して、これが発揮されるための方法を考えま
す。
人が起業するかしないかを考える場合、起業した場合に予想される状況と、起業し
なかった場合に予想される状況を比較することが合理的です。多くの人は勤労者なの
で、起業する状態と、会社や官庁に勤め続ける状態を比較することになります。
正社員として会社に勤め続ける状態と会社を辞めた状態を比較すると、前者では解
雇されにくく平均的には年齢と共に年収が上昇する状況が想定できるのに対して、一
度会社を辞めると、そもそも同様の職を獲得することが難しく、再び雇用されること
が可能だとしても、収入が大きく下がる場合が多いという現実があります。つまり、
有利な現状を手放すことの機会費用が大変大きいということです。
開業率を上げる、即ち起業を増やすには、一つには、雇用の流動化を促進すべきで
しょう。正社員の解雇を容易にする、長い勤続年数が有利な制度(年功賃金や、超勤
族が有利な退職金制度や年金制度)を廃止する、といったことが考えられます。経済
の効率を改善する為にも、いわゆる正規と非正規の差を無くす意味でも、これは合理
的な変化だと思われます。ただし、既得権層(正社員、そして官僚)の反発は大きい
でしょう。
もう一つの方法は、起業のリスクを小さくすることでしょう。こちらに対する反発
は、より小さいのではないかと思われます。
有力だと思う施策は、「兼業禁止」を明確に禁止することです。会社や官庁の仕事
に支障がない限り副業を制限しない、さらに、会社なり官庁なりの労働を「完全フル
タイム」以外の形態でも認めるようにすると、会社員や公務員の起業はぐっと楽にな
ります。
今日、物理的な作業だけでなく、知的な貢献を要求される仕事が増えていますが、
こうした仕事にあっては、たとえば週に5日の出勤を3日にしても(極端な場合、出
勤しなくても)、その人の貢献は、そう大きく減らないでしょう。こうした状況をフ
ルに活かすと、会社側は社員の貢献を今までよりも安価に買うことが出来るでしょう
し、社員の側は、時間と自由を手に入れつつ、小さなリスクで起業することができま
す。
自分が養わなければならない家族がいる、会社を辞めて失敗すると世間的な評価も
大きく下がる、しかし、起業して成功できることに絶対の自信を持てるようなビジネ
ス・プランも自分の能力への自信もない、という「普通の勤労者」(私もそうです)
が、起業に踏み出すには、副業型の起業を可能にし、奨励することが有効ではないで
しょうか。社会的に、副業を支援しブームにするといいのかも知れません。
尚、現職及び前職の会社の理解もあって、私は、現在この方法を試していますが、
起業、あるいはフリーとしての成否は今後の問題ながら、今のところ、この方法は上
手く機能しています。
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