震災から考える事(5)
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震災のような大きな災害は、日常では見えにくくなっている文化資源と社会との関係性を浮き彫りにする事がある。先の土地との関係性は、あたかも遺跡が復興の妨げになっているかのような解釈を生じさせてしまうが、そうではない。よくよく考えてみれば生きるための手段やら科学技術の進歩やらに大きな変革があっても、住環境としてヒトが好んで住む生活空間はそう変わらないものであるという点がはっきりとわかる。たかだが千年程度のヒトの営みよりも、むしろ気候の大きな変動という地球のダイナミズムにはまるっきり及ばないのだ。
そうであるならば、ヒトが何故そこに住むのか、住まなければならないのかを、恐らくその事をすら忘れてしまっている人々自身に納得させる手段として文化資源を使っていくという手がある。
阪神淡路大震災後に、復旧した古い建築を有効に活用していく手段が講じられた。それが兵庫県のヘリテージマネージメントという考え方である。歴史的建造物を保存・活用するためには維持管理が必要だが、その為には一定の知識と技術が必要となる。阪神淡路大震災以後急務となったのはそうした専門家の不足で、なかなか修復が及ばない事から解体せざるを得なくなった建造物も存在した。市井にそうした専門家・専門的知識を持った人々がいれば、状況も少しは好転してくる。そこで建築士を主たる対象として、歴史的建造物の保存管理に関する知識と技術を修得してもらうという制度(ヘリテージマネージャー制度)をつくっている。
この制度の推進は、建造物の管理・維持のみならず、より建物を使っていこうという活用の機運が生じる事を狙ったものであり、実際にこの制度を実施してからの10年で、兵庫県の登録有形文化財数は全国最多となった。
登録文化財は指定文化財に比べて基準・制限が緩やかな制度で、外観がおおもとの状況を保っているならば内装を現代風に改装する事も可、というものである。従ってレトロな外壁に現代風のオシャレなカフェやオフィスをアレンジするのもOKで、しかも文化財であるから、国や地方自治体の補助を受ける事も出来る。元々ファッションやデザインに優れたセンスを持っている神戸という都市を有する兵庫県では、このヘリテージマネージメントを推進して、こうした文化資源を可能な限り現代に活かしていくという選択をより鮮明にしている。耐震強度偽装問題以降、建築物、特に古い建物の耐震性がクローズアップされ、それを理由に解体されてしまう歴史的な遺産が後を絶たない。だが、どうもそれは一部の建築関係者さえにも登録文化財の柔軟さが理解されずに、指定文化財のガチガチな保護のイメージが敬遠されてしまっているからではないだろうか。
阪神淡路大震災から17年経った今日、神戸の街を歩いてみてよくわかるのは、古い建物を壊して全く新しい街並みを形成した三宮駅周辺と、古い建物をなんとか保存して登録有形文化財を増やし、現在に活用している元町駅周辺とで大きな違いがある事ではないだろうか。前者は商業地として栄えているが、まるで東京の品川あたりにでもいる雰囲気になっているのに対して、後者は戦前からの神戸の雰囲気が今だのこされているのだ。