はぐくみ幸房@山いこら♪

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t/R率

2019年11月12日 | 森林・樹木の基礎知識のお話

 林業では馴染みない(と思うんですが・・・)「t/R率」。

 これは、樹幹内部の腐朽による空洞の割合を判定し、落枝や倒木が発生するリスクを判断するための指標になります。

 街路樹診断などで使われる指標になるんですが、林業では、ほとんど使われていないのではないかなと思います。

 千葉県で発生したサンブスギと溝腐れ病の問題の事を考えると、森林管理を行う上で、必要な指標、知っておいた方がいい知識ではないかな?、と思います。 

 

 「t/R率」は、樹幹の直径(R)と健全部の直径により算出し、0.3以下になると倒木が発生する可能性が高いとされています。

 なお、tとRの直径に樹皮は含みません。(下記イラストの黒い部分は腐朽または空洞です。)

 樹幹内部の腐朽による空洞率が断面の50%を超えると。落枝や倒木する確率が高くなるとされており、t/R率の0.3は、面積換算すると断面積の50%以上にあたります。

 

 樹幹内部の腐朽による空洞の割合は、外見からでは判断できないなので、樹木診断では、レジストグラフという診断器具やガンマ線を利用した診断器具(レントゲンみたいに樹幹内部をスキャンする器具。)、成長錘など使って、判断しています。

 

 林業の場合、樹幹に傷ついた木は、除伐や間伐によって、早い段階で除去されていますが、一方で、高性能林業機械が導入され、作業道+列状間伐という方法が広まり、残存木に傷がつき、そのままにされている現場も少なくありません。

 そうした立木が、将来的にキズが原因で樹幹内部が腐り、結果、倒木や樹幹折損に至る可能性も0ではありません。

 

 今回、このブログでは、「t/R率という指標を理解することで、残存木にキズを付けてしまうことが、材価だけでなく森林管理という点で将来的なリスクを負うかもしれない」という事を知っていただければと思います。

 

 という訳で、キズが出来たことによって、樹幹内部の腐朽がどのように進行するのか、イラストで、簡単に説明したいと思います。

 樹木は、樹皮が剥けるくらいの外傷を受け、材部がむき出しになると、その部分を覆い始めます。

 イラストは、それを前提に、木口・樹幹内部の断面をイメージ図化したもので、薄いピンクが心材、薄い黄色が辺材、茶色いラインが樹皮、黒が外傷または腐朽部分です。

 

①外傷を受け、樹皮が剥がれる(黒色の箇所)

②樹皮が剥がれた部分(黒色の箇所)を覆い被さる様に樹木が生長する。

③何年か経過すると、外傷を受けた部分(黒色の箇所)が、新しい樹皮によって、完全に覆われる。

④さらに、時間が経過すると、腐朽部分が樹幹内部に取り込まれる。

 実際の樹幹表面は、こんな感じです。

 もし、樹幹の表面に凹んでいる部分が確認できたら、昔に何かしらの傷を受けた可能性が高いです。

 上の写真の木を伐った断面の木口です。

 上の写真にある黒い部分が、昔に傷を受け、そこに腐朽菌が入り、樹幹内部が腐っています。

 樹木を腐らせる腐朽菌は、心材を腐らせる「心材腐朽菌」と辺材を腐らせる「辺材腐朽菌」があります。

 この写真は、心材腐朽菌なので、辺材まで影響を及ぼしませんが、樹木の生長と時間とともに、辺材は、やがて心材に変わります。

 今、辺材の部分も、いずれ心材になってしまうので、このまま成長していくと、辺材部分が心材になったとき、そこまで腐朽菌が広がることも考えられます。

 

⑤イラストの続きです。

 外傷を受けた部分に腐朽菌が付着していれば、そこから徐々に腐朽菌が広がります。

 実際、どんな風に広がっているのか分かりませんが、イラストは、あくまでイメージですので。

 

⑥時間の経過とともに、腐朽菌が内部に広がります。

 これも、あくまでイメージ図です。

⑦最悪、心材全体に広がるかもしれません。

 実際、ここまで腐朽菌が広がった樹木を観たことがないので、このイメージ図は、かなり大げさですね。すみませんm(_ _)m。

 

 この写真は、樹幹内部の腐朽による空洞が、明らかに見えているものです。

 樹齢が100年を超えているので、成長のスピードが緩やかなため、完全に腐朽部分を覆い被せていないと思います。

 

 中には、キノコが発生しているものも・・・。

 サルノコシカケみたいに、年々生長するキノコが発生していると、樹幹内部は、かなり深刻な状態だと思います。

 

 台風によって枝が折損したり、伐倒時に枝を折損したりすると、それが大きなキズとなり、腐朽菌が樹幹内部に侵入するおそれもあります。

 

 ほかにも、ツキノワグマやニホンジカなどによる剥皮被害も。

 下の写真に写っている茶色い部分は、傷付いた部分を樹皮で覆っている途中で、樹種はスギです。

 これだけ剥皮されると、通常は枯れるんですが、この現場は、谷・湿気気味の林内・日光が当たりにくいという整った?条件だったので、枯れずに生き残り、必死に修復しているんだと思います。

 

 街路樹のイチョウ。

 このような樹幹の形状は、大きなキズがあり、確実に樹幹内部の腐朽が進んでいると思います。

 そして、根元まで腐朽が進んでいると思います。

 

 このような被害は明らかなので、危機感を感じると思います。

 

 樹幹内部の腐朽は、完全に巻き込まれてしまう場合とそうでない場合があります。

 後者は、見たまんまですが、巻き込まれているものは、傷を修復した痕跡を早々に気づかないと分かりにくくなります。


 樹幹内部の腐朽による空洞率から倒木や折損リスクを判断する「t/R率」。

 林業では馴染みないものだし、使われることも、ほとんどないと思いますが、t/R率が0.3以下になると倒木や折損するリスクが高まります

 しかし、t/R率というものを、理解または知っておくことで、残存木にキズを付けてしまうことが、材価だけでなく森林管理という点で、将来的なリスクを負うかもしれないと思っていただくことが出来れば、より良い森林管理の提案や実践を進める、1つの根拠になるのではないのかなと思います。


 森林づくりと樹木医。林業と樹木医。

 縁がなさそうに思いますが、森林づくりも林業も、育てているものは樹木なので、こうした指標を知っておくことも大事なのでは?、と個人的に考えています。

コメント
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