以前にもご紹介させていただきましたが、油圧式集材機が和歌山県で開発されました。
この開発に成功した背景には、集材機に詳しく、かつ架線集材の技術・危険性・安全性に長けた方がおられたから。
この方がいなくては、短期間の間で、これほど完成度の高い機械は出来なかった。
僕は、集材機による架線集材が大好きですが、正直、あまり詳しくありません。
ただ、個人的には林業の中でも、高度な技術を要するので、「林業施業の花形」だと思っています。
下の写真が従来の集材機で、写真左側に運転席があります。
そこに4本のレバーがあり、それを使って、集材機を操作します。
運転席から現場が一望できる位置に集材機が設置できれば、状況を見ながら操作できますが、一望できない場合は、無線の指示に従って、運転手は集材機を操作することになります。
自動車の運転で例えるなら、運転手が目隠しをして、助手席の指示で運転する・・・みたいな感じです。
架線集材の仕組みに関する説明は省きます(仕組みについては架線集材 エンドレスタイラーにて。)
集材機の操作について、雑な説明になりますが、一例としてお読みください・・・
荷掛滑車を、木材を吊り上げる場所に誘導し、到着したら、エンドレスラインとホールバックライン(引戻索)にブレーキをかけ、リフティングラインを操作します。
ホールバックラインをきちんと止めておかないと、荷掛滑車が動く恐れがあります。
荷掛滑車を下まで降ろすと、リフティングラインにブレーキをかけます。
エンドレス、ホールバックライン、リフテングラインのいずれかのブレーキをかけ忘れたり、かけ間違いをすると、荷掛滑車に近づく作業員が危険な目に合いかねません。
木材を荷掛けた作業員(荷掛手)は退避し、運転手に無線で、リフティングラインを巻くように合図します。
運転手はホールバックラインをコントロールしながら、リフティングラインを巻き、エンドレスラインはブレーキをかけたままです。
荷掛手は、リフティングラインの停止を指示し、運転手はリフティンラインにブレーキをかけます。
荷掛手は、荷掛滑車を走らせるよう指示し、運転手はエンドレスラインのブレーキを解除し、動かします。
ホールバックラインはコントロールしながら、リフティングラインはブレーキをかけたまま、木材を降ろす場所まで荷掛滑車を動かします。
と、架線集材を見たことがない方や集材機の操作を見たことがない方は、何を言っているのか、わからないと思います。
よくご存知の方が読むと、間違いがあるかもしれませんので、その時はご指摘ください。
正直、僕も書きながら、正しいのか、一抹の不安はあります。
要は、荷掛滑車(搬器)を動かすエンドレスライン、荷掛滑車を上げたり、下したりするリフティングライン、荷掛滑車を特定の場所へ移動させるホールバックラインをそれぞれのレバーを使って、作業毎にブレーキ、コントロール(微調整を含む)、稼働という、それぞれの操作を行わないといけないので、集材機の操作はとても煩雑です。
間近で見ていても、何がどうなっているか、全く分かりません。
でも、ベテランの操縦者は、その難しい操作を難なくこなしますが、その技術習得に5~7年以上かかるとか、10年以上もかかるとも言われ、人材育成にとてつもない時間を要します。
架線集材は、運転手は荷掛手の無線指示で慎重に操作し、荷掛主は自分の安全を確保しながら運転手に指示しないといけません。
それだけ、集材という作業は危険が伴います。
油圧式集材機の運転席は、
なんと、レバーが2本。
この2本で、上記で記した「訳の分からない操作」が簡単に行えるようになりました。
集材機をそれほど扱ったことがないビギナー作業員でもベテラン並みに操作できるよう、操作性が確実に向上しました。
さらに、遠隔操作も可能となり、これまで、木材を荷掛ける「荷掛手」、木材を荷降ろす「荷降手」、集材機を操作する「運転手」の最低3名の作業員が必要でした。
遠隔操作が可能になったことで、荷掛手と荷降手が遠隔操作することで、運転手が不要となり、最低2名による作業が可能となりました。
さらに、荷掛手が機械を操作することで、確実に退避してから、安全な位置で作業できるため、ここでも作業の安全性が向上しています。
これで遠隔操作します。
ゲーム機みたいで、操作も容易。
これは液晶付き。
この液晶で、ドラムの乱巻きを確認することができます。
これが、カメラ。
動いている所の動画です。
運転席に誰もいないのに、ドラムが動く。
こんな時代が来るとは・・・個人的には、とても感動してます。
僕もそれほど、この機械を熟知しているわけではないので、詳しい説明を省きますが、僕なりに「油圧式集材機」のメリットをまとめたいと思います。
1.安全性の向上
従来の集材機には安全装置がなく、操作を誤れば、そのまま事故に繋がりました。
そのため、油圧式集材機には自動ブレーキ等の安全装置が組み込まれています。
2.コスト縮減
遠隔操作が可能になったことで、必要な作業員の数が減り、コスト縮減に繋がります。
ただし、生産性等については、これからの調査に期待。
3.人材育成期間の大幅な縮減
集材機の操作技術習得に、これまで5~7年以上、10年以上も要すると言われていました。
これが・・・たぶんですが、1~2年程度まで縮減できたのではないかと思います。
まだまだ課題もあるようですが、それは改善に向けて動いているようなので、今後に期待!
林業において、コスト縮減はとても重要です。
ですが、作業安全の向上と人材育成期間の縮減も、同様に重要なことです。
近年の林業技術開発は、コスト縮減に重きをおかれているように思いますが、これからは安全と人材育成も視野に入れた評価も必要ではないでしょうか。
機械などの設備投資を、単にコスト縮減と比較するだけでなく、安全と人材育成という部分、いわゆる「プライスレス」的な部分も含めた評価も重要になってくると思います。
油圧式集材機の開発を目の当たりにして、このような一面を考えるようになりました。
「架線集材は時代遅れ。」
「これからは作業道と機械集材。」
と、言う方もおられるでしょう。
「道の付けられない場所では林業はしないこと。」
「道のない場所は経済性が低い。」
と、言う方もおられるでしょう。
でも、やはり、林業は山村地域の基幹産業です。
道が付けられなくても、良い木材が生産できる場所があるなら、林業してもいいと思います。
道が付けられない場所でも、林業をしたいという人がいる限り、「道がないから、林業ダメ」って、言わず、それをできる方法を一緒に考えていくべきだと思います。
僕が一番危惧しているのは、架線集材の技術が途絶えたら、これまで積み上げてきた先人たちの知恵・技術が無駄になります。
また、事故などで犠牲になった先人達の経験が、今日の作業の安全性が高まってきたことも事実です。
ここで、架線集材がなくなれば、犠牲になった先人たちに申し訳が立たないと思います。
油圧式集材機は、林業に限らず、土木工事でも活躍できます!
また、行政機関等が油圧式集材機を災害などの緊急時用に所有することで、道路が寸断された時の資材や機材の運搬にも使えます。
そんな時、容易に操作できる油圧式集材機があると心強いと、僕は思います。
この油圧式集材機は、林業現場に留まらず、土木工事や災害時でも活躍できる画期的な開発だと思います。
というわけで、早くこの機械が、全国に広まることを強く望みます。
以下、関連記事です。