Sカップ開催
そう通知が来た。またも仕事を早く終わらせようと急ぐ。
だが今月末、やりきらなくてはいけない作業でデカイ山があった。
少し遅れて集合場所に向かう。
SS木さんがボウリング場の入り口すぐの目立つ場所で待っていた。
どうも様子がおかしい。
SS木「今日は中止…というか延期だね延期。」
僕「と、いいますと?」
どうも集合して1時間ほどで大会が行われるため、ほぼ全てのレーンを使われるらしい。
その他のレーンは常連客が先に来て陣取っていた。空きそうにない。
僕とSS木さんとUNDOくん、そして新人2人が来ていた。
5人は途方にくれていたが、予約だけしようと名前を書いていたところ、
確実性が無いとUNDOくんからダメだしを受けてSS木さんは予約用紙を捨てた。
ボウリング場の隣にはゲームコーナーがあり、パンチングマシンで少し憂さをちょっとだけ晴らした後、
UNDOくんがクレーンゲームが面白いんですと、やりだした。
僕はUFOキャッチャーで人形を取ろうと500円ほどお金を投じるも成果ゼロ。
その間にUNDOくんはクレーンゲームの中でお菓子がタワーのようになっているのに頑張ってやっていた。
底に大量にあって流れている小さなお菓子のプールからクレーンを使って拾い
タワーのように積んであるお菓子を倒すというのがゲームのやり方みたい。
僕も1000円ばかり入れてみる。
難しい。UNDOくんはやりなれているらしく絶妙のタイミングで大き目のお菓子をクレーンですくい上げて
スライドする板の上に置く。
だが、置くところまでは行くのだが、小さく細かいお菓子に浮かされてスライドの板から幾度もこぼれ落ち、
それを拾いあがる。
さながらお金を出して行う三途の川の岸にあるという賽の河原で石を積み上げては落とされるという言い伝えを
やっているような気がした。
ほんのちょっと、ほんのちょっとだけタワーは動くのだが、いかんせん積みあがられたお菓子の重さは簡単には
落とせない。
二人で5000円ほど費やして根を上げた。係りのおねぇさんがやってきて
「もうやめちゃうんですか?」とけしかけながら ほんの少し動いたお菓子タワーを元に戻していく。
ああ…。
5000円を出して動かした数ミリの移動がいともたやすくリセットされたことに見たことは無いが、
きっと地獄の亡者もこんな声を出しているのではという絶望の声を漏らした。
周りを見るとSS木さんが別のクレーンゲームをやっている。
トミカである。
I上さんはチョロQ派らしい。ま、それはどうでもいい。
2000円ほどやっていたみたいで、
「ああ もうお金が無くなったぁ!」と、僕らが近づいたところで限界サインを出していた。
UNDOくんが急にテンションを高めた。
「こっちの山の方が倒れそうですよ!SS木さんっ!!」
「よし!」
UNDOくんはお金を両替しに行った。また戦いは終わらないのである。
それから3000円ほど費やしてUNDOくんは言った。
「もうここにきてから5000円も使っているんですが…。ああー。こういう風になるんで金がなくなっちゃうんですよね。
恐ろしいんですよ。このクレーンゲームは!あとちょっと、あとちょっとってやっていって、金が少なくなってもう止めようって思うんですが…。」
SS木「あ!ちょっと動いたっ!」
UNDO「ほんとだ! あ、あ、あと少しですよ!」
SS木「よし、じゃあ代わるよ。」
と、両替に行く。500円を投入すると一回サービスになるため言ってみれば500円単位で金がなくなるのだ。
僕「もう…限界かなぁ。」
UNDO「何言ってんすか!! あとちょっとっすよ!!…でも金がなぁ。もう1万円くずすしかないんですけど…これ…くずしちゃうと…。」
僕「じゃ、じゃあここは私が…。」
と、両替しに行く。
僕も挑戦する。少し上手くなったのか、タイミングよく大きめの押し倒し用の具材を拾えるようになった。
スライドする板の上に置く。
だが、置くところまでは行くのだが、小さく細かいエンビの車に浮かされてスライドの板から幾度もこぼれ落ち、
下の流れるプールに戻ってしまう。
さながらお金を出して行う三途の川の岸にあるという賽の河原で石を積み上げては落とされるという言い伝えを
やっているような気がした。
ほんのちょっと、ほんのちょっとだけタワーは動くのだが、いかんせん積みあがられたトミカの重さは簡単には
落とせない。
三人で9000円ほど費やして根を上げた。
「あとちょっとなのに…」と、苛立ちを紛らわせようとしたのかケースをぽんと叩いた拍子にタワーの上にある
さらに一回り大きめなトミカが落ちた。そしてそれに巻き込まれたトミカが僕らの取り出し口の方に落ちてきた。
ああーっと!!
9000円を出して動かした数ミリの移動ではあげない、きっと地獄の亡者が犯した罪を許され
極楽へ導いてやると言われたらこんな声を出すのではという歓喜の声を上げた。
UNDO「ゆらしたら落ちるかも!」
僕「いや、そ、それはダメでしょう?」
SS木「よし、ゆらそう。」
僕「いや、ダメだって店員さん近くにいますよ?今のは偶然にしても。。。」
3人で俄然テンションが再上昇し、3人ともお金を崩したUNDOくんは一万円札も崩したようだ。
だが、何度崩してもトミカタワーは崩れなかった。。。
僕「あと、100円!」
泣きの一回も徒労に終わる。
SS木「……。こんだけやって偶然落ちたこの1台か。」
日立建機のブルドーザーだった。
UNDO「ずいぶん高くついちゃいましたね。帰りましょうか。」
SS木 「UNDO、メシ喰うの?」
UNDO「いや、家で食べます。」
UNDO「そうか。じゃあ…。」
店員 「あのー。」
一同 「はい?」
店員 「もう帰られます?」
一同 「(はあ、あんだけ追い詰めてまた元に戻されるのか。お菓子のように)はあ。」
店員 「………どちらの山がいいですか?右?左?」
一同 「え、えええ?」
店員 「こっちですか?」
UNDO「どうします?」
SS木 「え、ええとぉ」
UNDO「SS木さんの好きなほうで。」
SS木 「あ、じゃあ… こっちで。」
店員 「はい。じゃあこっちね。」
10台ほど、山を崩して渡してくれた。
僕 「いいんですか?こんなに。」
店員 「はい。だってすごくお金入れてくれたから。」
一同 「…。ありがとうございます。」
…そうだった。少なくとも3人で10000円以上は入れたのだ。
UNDOくんも僕もお菓子の方も含めたら一人5000円は出していたと思う。
分かった…。
技術ではなく、
お金と泣きが極意なのだ と。
もう暫くはやらなくていいかなぁと思った。