松永和紀blog

科学情報の提供、時々私事

口蹄疫4 種牛49頭の殺処分をどう考える?

2010-05-26 16:24:49 | Weblog
 宮崎県が、種牛49頭の殺処分をしないように国に要望した問題は、感染リスクだとか、畜産の財産だから、というようなレベルの議論をしても仕方がないような気がする。国が断固として殺処分を主張しているのは、ワクチン接種への影響を防ぐためであり、行政が公平性をいかに演出するか、という話ではないか。

 もし、5月22日の段階での東国原知事の延命要望に応え、国が「種牛49頭は特別扱いし、経過観察して処分するかどうか決めます」などと認めたら、どうなっただろうか。22日は、発生農場の半径10km以内のすべての牛、豚を対象に、殺処分を前提としたワクチン接種が始まった日。感染が認められない牛や豚も処分しなければ、ということに、やっと地元自治体や農家が同意して始まったワクチン接種だ。「種牛を特別扱い」となると、割り切れぬ思いを抱え、ワクチン接種と殺処分を拒否する農家が出てきても不思議ではない。そこまではいかなくとも、「なぜ、扱いが違うのか」という不満は、現地に蔓延したはずだ。

 種牛は「日本畜産の財産だから、処分回避を」と知事は言ったけれど、これはかなりまずい表現であったように思う。聞いた養豚農家やホルスタイン種を肉用牛として肥育している農家は、「自分たちの仕事に価値はないのか」「黒毛和種だけが特別扱いを許される財産か」と思っただろう。
 黒毛和種の種牛を守っても、将来の影響を軽減されるのは黒毛和種関係者だけだ。
 
 それに、宮崎牛が消滅したところで、黒毛和種自体はほかの県でも育成されており、宮崎県でも再生は可能だろう(時間はかかるし、同じ再生は無理だが)。宮崎牛の血筋を守るうんぬんと言うけれど、種牛の親をたどると他産地の種牛だったりする。例えば、安平の父は安福(岐阜県所有の種雄牛)、母の父も安福だ。この牛は、肉質が抜群によく精子が高価格で大量に取引され、全国各地に子孫がいる。

 宮崎県の畜産の経済的主力は黒毛和種であり、知事がこだわる気持ちは分かる。松阪牛など他ブランドへの影響も大きい。
 でも、黒毛和種の種牛を特別扱いして、ワクチン接種と殺処分がスムーズに進まず、さらに感染拡大したら、黒毛和種のブランド価値などとは比較にならないくらい深刻な大打撃を、日本の畜産に与えることになる。

 したがって、東国原知事が「49頭は陰性だ。きちんと隔離している」と主張し、科学的なリスクという点では心配ないとしても、農水省は「49頭も殺処分すべし」と突っぱねるしかなかったのだ。

 というわけで、ワクチン接種がほぼすべて終わった今、私は次の動きに注目している。もう、農家が「うちの牛、豚は処分させない」と拒否することはない。黒毛和種だけを特別扱いしても、実際上の問題はもうない。というわけで、やおら国が姿勢を軟化させる、なんてことが起きるかもしれない? 東国原知事が哀願し、赤松大臣、山田副大臣が日本の将来の畜産に思いを馳せ、政治主導の特例として認める? 

 一方で、口蹄疫が他道府県で発生する時のことを考えると、国はこれ以上前例を作りたくないだろう。各県がそれぞれ、種牛や種豚について「これは重要だから、特別扱いを」と言い出したら、殺処分による防疫措置が大混乱を来すのは目に見えている。
 さて、どうなることやら。

 念のため、処分の是非に関する私自身の思いを書くと、49頭がどのような方法で隔離されていたかということに関する情報がないので、科学的な判断は部外者には無理。ただ、黒毛和種の特別扱いには疑問がある。その陰で、養豚農家がひどい扱いをされたことを聞いているからだ。それに日頃から、黒毛和種の繁殖や飼育方法には問題が多すぎる、と思っていたので、どうしても黒毛和種産業には批判的になってしまう。
 でも、「ひどい目に遭った人がいる人がいるから、あちらもひどい目に」という論法は、感情論だということも分かっている。判断は難しいです。

<訂正 5月29日>松坂牛と入力ミスをしていたので、松阪牛に直しました。ご指摘ありがとうございました。安福の記述の誤りについては、わざとそのままにしてありますが、コメント欄をご覧下さい。こちらも、ありがとうございました

GM“事件”1 遺伝子組換え技術サイトが休止中

2010-05-17 14:11:36 | Weblog
 農水省農林水産技術会議・遺伝子組換え技術の情報サイトが現在、見直し中となっている。気付いている人は多いだろう。

 社団法人農林水産先端技術産業振興センター(略称STAFF)のウェブサイトも同様だ。

 アメリカから帰国してとにかく驚いたのが、口蹄疫の対策遅れとこれ、だった。どちらのサイトもこれまで、内容の細かな改訂、更新は頻繁に行われていた。だが、今回はいきなりの休止、情報提供ストップである。情報提供をしないというのは、国としてもっともやってはいけないことだろう。
 何が起きたのか? 整理してみる(長文、お許しを)。

 明らかになっているのは、情報提供が停まる前、日本消費者連盟が農水省に抗議文を出したという事実である。農林水産技術会議が作成し2月に茨城や群馬などの小中高校に配布した遺伝子組換え農作物に関するリーフレットについて、日消連が回収を求めて抗議文を出したと3月15日付「日本消費経済新聞」が伝えている。
 また、5月7日付朝日新聞も、「食の安全に科学の目」という記事の中で、このリーフレットについて触れている。計60万部作成し、試行的に茨城、栃木、群馬の3県の小中高校に配布したと伝え、農水省の担当者の「現状は『何となく危険そうだ』という雰囲気になっている。正しい知識を知ってほしい」というコメントを紹介。一方で、日本消費者連盟が抗議文を出したことを伝え、事務局長の「社会的にまだ賛否が定まっていない遺伝子組み換え食品を取り上げ、なおかつ異論に触れておらず、フェアではない」という談話も付け加えている。

 リーフレットの内容は、ウェブサイトに出ていた情報の中から一部を抜き出し、小中高生向けに分かりやすく書き直したものである。ウェブサイトの休止について農林水産技術会議は、「資料の一部に、客観的・公正といえないものが見られたため、現在利用している資料はすべて一旦凍結し、全面的な内容の点検及び修正を行っている」と言うばかりだ。

 日消連は遺伝子組換えに批判的で、「遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン」が事務局を日消連内に置いているのは周知の事実だ。同キャンペーンは、これまでもさまざまな抗議文や要請文などを出している。しかし、農水省やSTAFFの遺伝子組換えにかんする情報サイトが閉じられたことはなかった。
 いきなり閉じられるという異例の事態に至ったのは、日消連の抗議に加えてなにかが起きたからだ。だれかが農林水産技術会議の情報提供について、「客観的、公正と言えない」と判断したのである。
 「だれが閉じさせたのか?」と業界は喧しいが、私にはそれよりも、「客観的、公正」の基準が気になる。科学技術の情報伝達において、だれもが意見一致する「客観的、公正」などあり得ない、と私は思うからだ。

 リーフレットを基に、考えてみよう。
 リーフレットは以前は、STAFFのウェブサイトからダウンロードできたが、現在は見ることができない。簡単に紹介すると、小学校向けは「わたしたちは遺伝子が入った食べ物を食べている」から始まり、「遺伝子ってなに?」「野生のトマトが品種改良で大変身」と続き、最後のページで遺伝子組換えについて説明している。組換え技術は品種改良の一種だとして、組換え作物が国によって安全性が確認された後、輸入・販売が行われていることを説明している。
 中学生向けは、流れは同様だがもう少し詳しく、最後に食料確保の一つの方法として遺伝子組換えを位置づけている。高校生向けはさらに、世界の栽培面積や表示制度などにも触れている。

 リーフレットは、小中高校とも各4ページである。遺伝子組換えを巡るたくさんの情報からいくつかを選び出し分かりやすく書き直して、わずか4ページにするのだ。担当者は苦労したことだろう。
 これはすなわち、情報の編集作業である。情報を集めまとめ他者に伝える、という作業は必ず、情報の取捨選択を伴う。どれほど中立公正に情報を伝えようとしても、どこかで取捨選択の判断が必要で、無意識であれ意識的であれ必ずバイアスがかかる。

 山ほどの情報の中から選び出し伝えるのだから、すべての人が賛同する判断基準もないし、結果もない。必ずだれかが異論を唱える。それが情報提供の宿命だ。
 リーフレットには科学的な誤りはない、と私は思う。だが、情報の取捨選択に異論は当然あるだろう。というわけで、日消連が回収を求めたのもうなずける。

 3月15日付「日本消費経済新聞」記事によれば、日消連の指摘する問題点は次の通りだ。
(1) GM技術のメリットだけを強調。組み込んだ遺伝子を起動させたり、組み込みを確認したりするためにウイルスのプロモーター遺伝子や抗生物質耐性遺伝子を組み込んでおり、そうしたものが悪影響を及ぼす可能性を教えていない
(2)除草剤の影響を受けない、害虫に強いなどのメリットを強調。除草剤や殺虫成分に抵抗性をもったスーパー雑草やスーパー害虫が生まれており、そのため農薬使用量が増え、水生生物や生物多様性に影響を与えていることを無視している
(3)安全性についても最近の動物実験で安全性に疑問を抱かせる知見が示されているのを紹介せず、「DNAはタンパク質でできているので体内で消化されるので心配ない」と解説している。

 (3)の後半は意味不明。「DNAはタンパク質でできている」などと農水省が書くはずはなく、記事が科学的知識のない記者によって書かれたことは明らかだ。取材に応じた日消連側が間違った説明をしたのかもしれない。
 それはさておき、日消連は「リーフレットに科学的な誤りがある」と指摘しているわけではない。(1)から(3)の前半まで指摘していることはすべて、情報の取捨選択に関することだ。

 ならば、その指摘は科学的に妥当か? 科学者が「その通り。仰せのように致します」というようなものか? 私にはそうは思えない。
 導入した遺伝子が悪影響を及ぼす可能性はある。しかし、現実的な条件で悪影響を及ぼさないように、厳しい安全性評価が課されたうえで作物として認可される仕組みができている。水生生物や生物多様性に影響を与えていると主張する査読付き論文もある。しかし、その結論に否定的な論文もまた、出ている。
 「最近の動物実験で安全性に疑問を抱かせる知見」に対しても、EFSA(欧州食品安全機関)や各国の評価機関などが、否定的な見解を明らかにしている。

 つまり、日消連も自分たちにとって都合の良い部分だけを抜き出すという「情報の取捨選択、編集作業」を行って、組換え反対論をぶち、リーフレットの回収を求めている。結局、リーフレットに対して「異論に触れておらずフェアではない」と批判する日消連自身も、彼らの言葉を借りるなら「フェアではない」と私には思える。

 では、フェアとは? 改めて考える。「客観的、公正」とは?
 農水省農林水産技術会議のあの情報満載のウェブサイトがすべて休止中の今、どこが問題視されているのかはさっぱり分からない。なにが、「客観的、公正」ではないのか? それはだれの判断か? だれが新しい情報提供の内容を「客観的、公正」と判断するのか?

 現状ではなにも明らかにされていない。農林水産技術会議はただ、「資料の一部に、客観的・公正といえないものが見られたため、現在利用している資料はすべて一旦凍結し、全面的な内容の点検及び修正を行っている」と繰り返すのみだ。
 これでは、一般市民はなにも分からない。検討できない。
 農林水産技術会議は、だれがどの部分を「客観的、公正でない」と判断したのか、どういう理由で農林水産技術会議も同意し、これまで妥当だと考えて行ってきた情報提供を全面的に中断したのか、明らかにする義務があるのではないか?
 そのうえで、その判断が科学的にどの程度の妥当性があるのかを考えたい。全員で「これは公正な情報提供です」と言えるものなど、できることはないだろう。しかし、国民それぞれが検討して、みんなで議論して意見の一致を目指すのが、科学技術のコミュニケーションのあるべき姿ではないだろうか。それが、本当のフェアというものではないか?

 科学的な判断ではなく政治的な圧力がある、と警戒し始めた人が多いようだ。だが、「○○党の△△がやらせた」などと情報を広げる前に、真正面から農林水産技術会議に尋ねようではないか。農林水産技術会議の総合窓口から質問を送ろう。回答を得て議論をしよう。科学的な議論こそが、政治的な圧力に対する冷静な抑止力になる、と信じたい。

口蹄疫3 やっと政府対策チーム発足へ

2010-05-17 13:08:46 | Weblog
 政府対策チームが発足するようだ。これは、とてつもなく遅い「政治主導」か。

 しかも、産経新聞によれば、山田正彦農水副大臣や小川勝也首相補佐官らを常駐させるとか。科学的に口蹄疫を理解できていない政治家を現地に置くと、現場は大混乱に陥ると私は思うが、大丈夫だろうか。

 川南町、都農町から高鍋町に拡大し、事態はさらに深刻化している。高鍋町にある県家畜改良事業団では、種牛6頭を西都市に移した直後に感染疑いが確認され残されていた牛は殺処分決定となった。6頭は陰性を確認したうえで移動させたというが、潜伏期間中で陰性結果が出ていた可能性もある。感染していないことを祈るしかない。

 そのほかもろもろは、いろいろなニュースサイトなどで紹介されているので、見てほしい。
 実は、私が気になったのは、えびの市で食酢の空中散布をやったというニュースだ。宮崎日日新聞が伝えている。
 無人ヘリで、250倍に薄めた食酢を散布したようだ。同紙は、「心理面での効果も大きかったようだ」と伝え、新聞紙面では「できる限りの自主消毒はしているが、毎日が不安。酢を空中散布してもらい、本当にうれしかった。私は豚が好きでね。家族と一緒。ヘリコプターに思わず手を合わせ、涙が浮かんできた」という、豚30頭を飼育する女性のコメントを紹介している。
 気持ちは分かる。県内では、消毒剤の不足がいよいよ深刻になってきているとのことで、藁にもすがる気持ちなのだろう。でも、250倍に薄めた食酢の防疫における実際上の効果など期待できないのではないか。こういう非科学的な『対策』を自治体がやると、根拠のない安心感を産みかねないし、「えびの市がやったのに、なぜうちの市はやらないのか?」という不満も住民に出てくる。絶対にやってはいけないことを、自治体がやり始めているように思う。そういう判断ができないほど、宮崎県が危機に瀕している、ということなのだろう。

 県は義援金募集を始めている。

口蹄疫の殺処分が大幅遅れ 2

2010-05-13 11:59:12 | Weblog
 ありがたいですねえ。いろいろな人から、処分の推移をグラフにしたぞ、というご連絡をいただいている。

 11日に大規模養豚場の殺処分が完了し、処分完了数は約3万頭になった。しかし、対象数は7万8000頭に増え、処分は依然として大幅遅れ、といってよい状況だろう。

 コンタンさんのブログの「3.個別の数字」を見ると、一つ一つの事例で処分終了までにかなりの日数がかかっていることが、一目で見てとれる。コンタンさんも書いている通り、未だ処分されていない患畜はウイルスを吐き出し続けている。ウイルス培養器なのだ。ぞっとするような現実だ。

 さまざまな情報を総合すると、遅れの原因はやっぱりまず、埋設地の確保がスムーズに行っていないこと。
 国は「国有地を使えばと言ったのに、断られた」と弁解しているらしいが、実際には伏流水が出る土地で、埋設地としては伝えなかったようだ。
 それに、殺処分した農場から埋設地が遠ければ、運搬によるウイルス拡散のリスクが上がってしまう。農場に近くて伏流水が出ず管理ができる土地、となると、探すのは非常に難しい。それを、生産者自身が主体的にやれと言う。それでは、うまく進むはずがない。

 もう一つの大きな理由は、感染が豚で一気に拡大した5月初めごろの獣医確保が不十分だったためだという。殺処分は、牛の場合は薬殺、豚は炭酸ガスを使ったり、鎮静剤で前処置してから電気で気絶させて薬殺、という方法で行われている。注射による薬殺は、獣医が行わなければならない。だが、獣医が足りなかった。結局、感染は拡大し、薬殺しなければならない家畜は増え、依然として獣医は足りていない。


 私は昨年、月刊誌「養豚界」という雑誌で6回の連載をした。養豚に興味があるため引き受けたのだが、それにも増して、尊敬する養豚専門の獣医師たちから「書いてよ」と頼まれたことが嬉しかった。

 その獣医師たちが今、宮崎に入って活動している。もうすぐ10日になるという。まったくのボランティアだそうだ。業界のリーダー格である素晴らしい人たちが、懸命に動いている。あんなに養豚のことを考え、業界の改善に力を尽くしている人たちが今、豚を処分するために宮崎にいる。
 忙しい合間を縫って、一人が電話を下さった。話を聞きながら、私は流れてくる涙を止めることができなかった。

 宮崎で多くの人たちが、口蹄疫拡大を防ぐために力を尽くしている。そのことを、一般市民、消費者、ほかの地域の生産者、官僚などになんとしても伝えなければいけない。それが私の仕事だ。
 

口蹄疫の殺処分が大幅遅れ 1

2010-05-12 09:47:59 | Weblog
 先月からアメリカに行っていて、やっと9日に帰国した。そして、大変なことがたくさん起きていることに愕然としている。
 
 まず、口蹄疫。
 口蹄疫の処分対象数は5月10日現在、7万6999頭に上っている。ところが、殺処分が進んでいない。終了したのは1万頭あまり。これは大変な事態だ。

 口蹄疫は発生から殺処分までの時間が感染拡大を防ぐ上で重要だ。牛や豚は、感染すると体内でウイルスが増殖し、大量に排出する。特に豚は、高濃度のウイルスをエアロゾルの状態で気道から排出する。風による伝播もありうるという。したがって、感染が分かったら、とにかく早く殺処分してウイルスの増殖、伝播を止めなければならない。24時間から48時間以内に殺処分を完了させるのが国際的な常識だそうだ。

 ところが、日本では感染が分かって4~5日たってもまだ処分が終わらず、わずか1万頭しかまだ処分できていない。
 これは極めて深刻な事態だ。この調子では、感染拡大を止められないかもしれない。
 農水省も宮崎県も、これまでにどれくらい処分できたか、数字をまとめて発表していない。個々の事例を公表しているだけだ。
 一部の心ある人たちが、宮崎県のウェブサイトで明らかになっている個々の事例の数を積算して、トータルの処分対象数と、処分完了数をはじき出し、獣医など関係者に毎日、送っている。私は、そのことを教えてもらい、処分が大幅に遅れていることにやっと気付いた。
 
 宮崎県は、日々の対応で精一杯だろうが、農水省は数字をまとめて公表するくらいはできるはずだ。だが、していない。農水省は、遅れを明らかにしたくないのでは、と勘ぐりたくなってしまう。

 遅れにはいくつかの要因があるが、最大の理由はどうも、処分した牛や豚の埋設場所を生産者が探さなければいけない事になっているためらしい。

 飼っていた牛や豚をすべて処分しなければならず衝撃を受けているところでさらに、埋設場所探し、周辺住民への説明、了解を得るまで、生産者が動かなければならないようなのだ。
 
 もちろん、県職員なども助けているに違いないが、これでは殺処分が遅々として進まないのも当たり前だ。
 なぜ、国が率先して場所探し、住民への説明等行わないのか。こういう時こそ、政治家が“政治主導”でさっさと対応し、農水省に「やれ」と命じるべきものではないか。

食の安全と環境「気分のエコ」にはだまされない

2010-04-22 20:35:01 | Weblog
 新しい本が出た。日本評論社のシリーズ「地球と人間の環境を考える」の第11巻で、『食の安全と環境「気分のエコ」にはだまされない』だ。

 農薬や化学肥料、地産地消や有機農業、遺伝子組換えなど多岐にわたる話を書いているが、次の2つの疑問が、大きな柱になっている。

(1)環境を守る食料生産というと常に、農薬を減らせ、化学肥料を減らせ、となるが、それは本当か? 現在の農薬や化学肥料の真実は?

(2)「食の安全・安心」と「環境を守る」は両立するように語られるが、それはウソではないか? 過剰な安全・安心こそが、環境負荷を大きくし、エネルギー消費を増大させ、「持続可能な食料生産」の大きな妨げとなっているのではないか?
 
 今、環境を守ると称して行われていることは、表面上は効果があっても多くの場合、トレードオフにより別の環境影響が生じている。安全・安心策は、別のリスクを発生させている。そして、安全・安心策が、環境負荷増大をもたらしている。多くの人はそのことに気付かず、「気分のエコ」「気分の安全」が蔓延している。

 食料生産はそれ自体が、環境破壊、環境負荷。気分に惑わされず、科学的な根拠に基づくほどほどの安全と環境負荷減少への努力のバランスを図りたい。そのことを、さまざまな角度から検証する内容にしたつもりだ。

 多くの方にお世話になり、原稿に対する意見をいただいた。御礼申し上げたい。

 ちまたに溢れる「食の安全」本や、環境本とは、かなり大きく違うと思う。ぜひ、書店でお手に取っていただきたい。

目次
序章 地産地消は環境にやさしくない?
1章 農薬は悪なのか?
2章 化学肥料の大きな影響
3章 肉の消費と食品廃棄が招く日本の汚染
4章 食料生産とエネルギー消費
5章 有機農業では解決しない
6章 「食の安全・安心」か「もったいない」か
7章 遺伝子組換えを拒否できるか
8章 消費者が変えるべきこと
あとがき


日本評論社ページ

農業温暖化ネットでコラム連載

2010-04-13 13:14:06 | Weblog
 お久しぶりです。ブログ、再開いたします。

 さて。
 農業温暖化ネットで、コラムを書き始めています。題して『松永和紀の「目」』。温暖化に関するサイトですが、比較的自由にいろいろなことが書けそう。農業関係者が読者なので、ほかのところでは書けない農業技術紹介などもしていきたいと思っています。
 どうぞごひいきに。

山田農林水産副大臣のメッセージ

2009-11-14 00:37:35 | Weblog
 13日に届いた農水省のメールマガジン第368号に、山田副大臣のメッセージがあった。驚愕したので、全文引用してしまおう。
 
…………………………………………………………………………
懐かしい日本の農漁村集落の風景を再び甦らせたい


のどかな朝があった。
母は米のとぎ汁を納屋の牛に飲ませる。少年の私は裏の畑の菜、ヒヨコ
草を集めてきて細かく刻んで鶏の餌をやる。産み落とされた卵を探す。
そのうちに朝餉の味噌汁の匂いがしてくる。
大きな甕から醤油の上澄み液を掬って母に渡す。すべて手作りだった。
いつしか懐かしい日本の農村の風景はなくなった。

米国の農家も変わった。遺伝子組み換えのキングコーンをアンモニアの
液肥を大量に振りまきながら大型のトラクターで耕作を続けている。
できたトウモロコシは不味くて、農家でも自分の作ったものを口にする
ことは無いと言う。

農業はおかしくなった。
今や、日本の農業は65歳以上の高齢者で61%も担っているというい
びつな形になった。
自給率は下がる一方で、世界の人口は急増、10億人の人が飢餓に苦し
み1日に2万5千人の人が飢えで亡くなっている。
すでに世界の食糧危機は現実のものになっている。

中国、インド、ブラジルの台頭で、日本はテレビや自動車を売って、安
い食糧は買えばいい貿易立国の時代は終わった。

日本も政権が交代した。
これから、内需を中心とした農漁林業にも配慮したバランスの取れた国
家を目指さなければならない。
若い人が新しく農漁林業に参入して食べていける世の中を。
そのための戸別所得補償制度に全力を尽くしたい。
懐かしい日本の農漁山村の集落風景を再び甦らせたい。
…………………………………………………………………………

 うーん、なにを言いたいのか、よく分からない。書いてあることが、見事に脈絡がない。
 それに、もしかしてこの人はスイートコーンとデントコーンの区別がついていないのかもしれない。

 このところ、「飼料米を作れば、アメリカのトウモロコシは必要ない、と本気で信じているらしい」とか、「食品のリスク管理について説明しようとすると、『国産は安全・安心なのに、なぜこんなことが必要か?』と言う」とか、いろいろと気になる情報が漏れてきていた。農水省の官僚が困り果てている、という話も聞いた。官僚だって、農水省の恥にはしたくないから説明をしたいのだけれど、聞こうとしないというのだ。

 私は半信半疑だったのだけれど、やっぱり本当なのかもしれない。

 まず、日本に農地がどれくらいあるのか、トウモロコシやダイズ、ナタネなどをどれだけ輸入していて、その穀物を栽培するのにどのくらいの農地面積が必要なのか、計算した方がいい。
 山田副大臣が、日本人に「肉と油は食うな。これからは、米とイモの生活だ!」とちゃんと言うならそれも結構だが、そんな内容はメッセージには入っていない。これからこの人は、どうするつもりなのだろうか。

「中立公平な立場から科学的に評価を」と、消費者関連団体が意見書

2009-10-18 16:41:50 | Weblog
 エコナ問題で、(社)日本消費生活アドバイザー・コンサルタント協会(通称NACS)が15日、意見書を福島瑞穂・内閣府特命担当大臣や松本恒雄・消費者委員会委員長、小泉直子・食品安全委員会委員長、長妻昭・厚生労働大臣に提出した。

 消費者団体の一部が、消費者委員会などで非科学的な主張を行っていること、消費者委員会の議論の方向性に大きな問題があることを、本ブログでも伝えてきた。日経BPによれば、13日にあった消費者委員会の第3回会合では、委員から「政治的に利用されているという気もする」「こういう態度はおかしいのでは」などと異論が出たようだ。
日経BP記事1記事2
 
 NACSは「消費者団体はおろか消費者委員会までもが科学的とは到底いえない議論に終始している現状で、”消費者”を標榜するグループにもそうではない考えを持ったものがいることを示したい」と、意見書の文案を練り、出したという。


 意見書の主な内容は次の通り(全文は、ここで読める)。
1.科学的知見による安全性評価に基づく判断がされることを望む
2.安全性について懸念が生じた場合、リスクの程度や他のリスクとのバランスについての検討や議論が十分なされないままに、販売停止や回収すべきとの主張が広まることに、大きな不安を感じる。食品にリスクがあることは周知の事実であり、このリスクを科学的知見に基づいて評価し、健康に影響がない程度にリスク管理がなされることが重要
3.事業者に対して、科学的根拠に基づいたわかりやすい情報と、消費者がどのような行動をとったらよいのかが明確になるような情報の提供を望む

 最後に、NACSの姿勢として、こう書かれている。

 私たちNACSでは、安全性について不確定な状況が発生した場合には、一方的に行政や事業者への批判に終始することなく、当該商品をどうすべきか、消費者への情報提供はどうあるべきか、関係者はどのような対応をすることが望ましいのかなど、持続可能な社会構築のための客観的かつ冷静な議論と協働による解決を提案したいと考えています。
 また、食生活については、正しい知識を身につけること、バランスの良い食生活を送ること、適度な運動をすることを基本とすることの重要性を関係者とともに考えていきたいと思っています。

 NACSも大きな組織だから、会員の意見をまとめるのは大変だっただろう。しかし、消費者委員会の動きを受けて迅速に対応した。立派だと思う。
 「消費者意識」が必ずしも正しいわけではない。というよりも、科学的には間違っていることが多々ある。しかし、企業は客を否定できない。行政も消費者迎合、政治家に至っては、消費者に受けることしか考えていないのでは、と思える。不幸な状態だし、将来の国の行く末を思うと怖くなる。

 今、消費者の要望に「おかしい」と指摘できるのはなによりもまず、消費者自身である。だが、歴史ある消費者団体はこれまで常に企業や行政批判を繰り返し、それが“仕事”だと思っている。現代社会においてはそれだけではすまないことに、早く気がついてもらいたいのだが、無理なのだろうか。

消費者委員会と「あるある」問題

2009-10-16 12:01:46 | Weblog
 健康食品管理士認定協会理事長の長村洋一先生が、決心して協会のウェブサイトで告発された。
 私は、事実のみを簡潔に書こうと思う。そのうえで、長村先生の告発文をお読みいただきたい。

 消費者委員会は6日に開かれた第2回委員会で、「新開発食品調査部会」を設置することを決め、部会長に田島眞・実践女子大学生活科学部教授を充てることを決めた。この部会は、設置・運営規定の第3条によれば、「健康増進法の規定に基づき、販売に供する食品につき、内閣総理大臣が、特別の用途に適する旨の表示をしようとする者に当該表示の許可を行うとき、及び当該許可に係る食品について、新たな科学的知見が生じたときその他必要があると認めるときに、内閣総理大臣の求めを受けて調査審議する」となっている。

 もし、花王がエコナの特定保健用食品の失効届を出していなければ、この調査部会の最初の審議対象は、エコナになったはずだ。
 それを踏まえて、田島教授について書く。

 田島教授は、2007年に起きた「発掘! あるある大事典II」の捏造問題の時に、ちらっと名前が出てきた。捏造が問題になった納豆の回には関係していない。そうではなく、長村洋一・藤田保健衛生大学名誉教授(現鈴鹿医療科学大学大学院・教授)が告発したレタスの回に関係していた。

 このレタスの特集は、「発掘! あるある大事典II」の前身番組「発掘! あるある大事典」で1998年に放映された。「レタスをたくさん食べるとよく眠れる」という企画で、マウスにレタスを食べさせる実験を行い、マウスが寝た様子が流された。
 長村教授は番組から依頼を受け、マウスにレタスジュースを飲ませる実験をしたが、マウスは眠らなかった。しかし、番組はその実験の様子を流し、眠っているように見えるマウスの映像も流して、「眠ってしまった」と説明した。長村教授に依頼した実験であることに、番組はまったく触れなかった。そして、別の大学教授が「レタスにはラクッコピコリンという有効成分が含まれていて、即効性があります」とコメントした。この人物こそが、田島教授だ。

 長村教授は、レタスで眠らなかった実験結果であったにもかかわらず、その映像の一部を使い「眠った」と報じたのは問題があると考えて、納豆の回の捏造が明らかになった後に告発した。関西テレビが設置した調査委員会は問題事例とはしなかったが、英国の学術誌「Nature」が取り上げた。
(Nature 445, 804-805,22 February 2007)

 日本語の翻訳で脚色したと思われるのは困るので、Natureの記事の一部をそのまま引用する。

So Nagamura was surprised when he saw the programme show one of his mice, declaring: “It’s fallen asleep!” Makoto Tajima, a nutrition researcher at Jissen Women’s University in Tokyo, then appeared explaining that lactucopicrin, a chemical found in wild lettuce, and in trace amounts in cultivated lettuce, can induce sleep. “The programme left the impression that eating three leaves of lettuce can knock you out,” says Nagamura.
Tajima says he’s never carried out any experiments with lettuce, but that he gave accurate information from the scientific literature. He says he felt “a little uncomfortable” explaining another scientist’s results, but wasn’t too con- cerned: “We’re used like TV personalities, I say what the programme wants me to.” Tajima adds that he has appeared on more than 500 television programmes to explain nutrition. “If I didn’t do it, they’d get someone worse.”

 Natureは、日本語のダイジェスト版も出している。2007年4月号に、この記事を翻訳したものが掲載されていて、上記の文章の最後の部分は以下のように翻訳されている。

「我々はテレビタレントとして使われているのだ。だから指示通りにコメントする」と田島教授は話す。これまで500 以上のテレビ番組に出演して栄養素について解説したという教授は、「もし私が出なければ、もっとひどい研究者を取材するだろう」と話す。

 今、この田島教授が消費者委員会の「新開発食品調査部会」の部会長である。
 もう一つ、付け加えなければならないことがある。「発掘! あるある大事典」と「発掘! あるある大事典II」は、花王が単独スポンサーだった。
 

 以上が、明らかな事実だ。
 田島教授は、「あるある」に何回くらい出たのだろうか? ネットで検索するといろいろと出てくるのだが、回数まではつかめない。
 花王が単独スポンサーだった番組に出演し、Natureの記者に“We’re used like TV personalities, I say what the programme wants me to.”と語ったとされる人が、花王の問題商品を審査する? そんな事態は、花王の自主的な失効届によって、避けられた。だが、花王が再度、エコナを申請した暁には、新開発食品調査部会が審査する。

 どう受け止めるべきなのか? 
 私は、こう思うのだ。田島教授は消費者委員として、部会長として国民に説明する義務がある。どんな経緯であのような番組に関わり、Natureのインタビューにどのように話したのか、なにを考えて消費者委員を引き受け、部会長になったのか。
 「あるある」に出ていたからだめだ、などと言うつもりはない。Natureの記者がへんな奴で、発言を曲解された可能性だってある。だから、説明してほしい。
 ことの是非は、それから考えたい。