ビスケットのあれこれ

ビジュアル言語ビスケット(Viscuit)に関するあれこれを書いてゆきます.

「教えない」というスタイル

2010-05-29 19:09:32 | 1
研究所のオープンハウスでビスケットの近況を報告するために,京阪奈まで行ってきました.

この1年くらいのさまざまな子ども向けのワークショップの実践が非常に説得力がでたなぁ,という印象です.

4月くらいから,「教えない」というのをテーマにワークショップをやってきました.それまでは,ビスケットの機能を手順どおりすべて教えていました.どの順番にで教えると,スムーズに頭の中に入ってゆくのか.そのあたりをいろいろと工夫してました.

「教えない」というスタイルは,基本的なヒントだけを与えて,その先を自分たちで考えさせるというものです.すぐれた推理小説のなかに,探偵と読者とがまったく同じ証拠からスタートして,読者にはわかりにくい犯人を探偵が鮮やかに当てる,というスタイルのものがあります.読者には知られていない証拠を探偵だけがこっそりつかうのは違反です.読者は懸命に推理して,探偵と同じ土俵で競います.
「教えない」はそれに近いかもしれません.こちらが与える知識,規則はまったく同じだけど,答えをすぐに教えるのではなくて,自分たちで考えて正解にたどり着いてもらう.

このやり方には,ひとつの思いがあります.

世の中の教育の大半が,誰かが考えた知識を得るというものです.なかなか自分で考えて結論にたどりつけるという経験は,そんなにできることではありません.たとえば,朝顔の水のやりかたはどうするのがよいのか,これを調べようと思ったら,いろんなやり方で朝顔を育てて,成長をみなければなりません.結論が出るには何年もかかるでしょう.上手な先生なら,うまく授業の合間に組み込めるかもしれませんが,犠牲になるのは,ちゃんと育たなかった朝顔など,時間だけじゃないですね.効率を考えて,経験はそこそこにして本に書いてある知識を自分の経験として当てはめる,ということで人類が発展してきたと言ってもいいでしょう.

ビスケットは,非常に安全に短時間でいろんな実験ができる環境です.ちょっと試すと,すぐに結果を得ることができます.これほど実験として恵まれた環境は,実は珍しいのかもしれません.

ですから,そんな貴重な恵まれた実験環境で,答えを簡単に教えてしまう,というのはもったいない.知ってしまったら,もう,知らなかったところには戻ることができないので,知らないときに,いろんな実験をして,その世界を探求する.実はなかなか贅沢な時間なのです.