歌猫Blog跡地

漫画「鋼の錬金術師」と荒川弘について語るブログ。更新終了しました。

失われた命を取り戻すことはできない(雑誌ネタバレ含む)

2005年02月18日 | ◆真面目な考察・・・?
「鋼の錬金術師」
死んだ人間をよみがえらせることは出来ない。

最初から、一貫したテーマ。
失われた命を取り戻すことはできない。


賢者の石の材料は、人間の命だ。

グレイシアは言う。
「賢者の石とやらが無理なら、他に方法があるかもしれないじゃない」
無垢なる第三者の口を借りて、真実を語らせることは少なくない。
じゃあ、エドとアルは、賢者の石とは関係ない、別の道を見つけるのだろうか?

違う。
と、思う。
人体錬成と賢者の石と人の命。
これらは、この物語りの、幹だ。
ハガレンは、驚くほど、物語りにブレが無い。どんなエピソードもアイテムも、全ては最終回への伏線だ。
だから、今更、路線変更はありえない。

賢者の石は、おぞましいものであると、既に読者である私たちも知っている。
それでも、エドとアルの行く手には、やはり賢者の石が、ある。

どんなエピソードも最終回への道標の一つだ。
主人公が強く成長するのは、強くなければ太刀打ちできない困難が、行く手に待ち受けているからだ。

母が死ぬ。そこが始まり。
父が人を創る。
多分、そこに終着点がある。

人の命から賢者の石が生まれ賢者の石からホムンクルスが生まれホムンクルスは何を生み出す?

等価交換の原則。
ただし、「何かを得るためには何かを失わなければならない」というキャッチフレーズは、アニメのものだ。原作ではこのテキストは出てこない。アニメでは人生とか社会とかそういう物にまでこの原則を広げて描いていたけれど、原作における等価交換の原則は、もっと即物的だ。単なる錬金術の法則だ。
何かを犠牲にしない限り何かを得ることはできない、わけでは、無い。人生において。


作者は命がどれほど大切なものか、酪農という現実において知っている。
そして少年漫画という作品においてそれを、すごく、大切にしている。

作者は、エドとアルには――子供には、人を殺させない。
「母さんのような者」(者、だ。物、ではない)に一瞬宿った魂は、アルのものだ。だから、エドとアルは、「母さんのような者」でさえ、殺してはいない。
魂のみのアルは人間だ。つまり、魂の無いあれは、人間ではなかったのだから。


失われた命を取り戻すことはできない。

それはつまり、どれほど命が大切なものであるか、だ。



誰も失わない方法で、身体を取り戻す。
でも、彼らは最初から「命を奪ってでも元に戻る」などとは考えていなかった。


エドとアルの行く手に賢者の石は、ある。
けれど、それを使わなければ彼らが元にもどれないわけではないはずだ。


失われた命を取り戻すことはできない。
その真理を希望としたところにこそ、この物語りの真髄はある。と、思う。



(訂正:原作でも第1話の冒頭に「人は何かの犠牲無しに何も得ることは出来ないのだから」とありました。ので、この記事は一部、間違っています。すみません)

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2 コメント

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Unknown (れたす)
2005-02-26 13:27:36
うーん、難しいですね。考えるほどに、なにがなんだかわからなくなってしまう。



>ただし、「何かを得るためには何かを失わなければならない」というキャッチフレーズは、アニメのものだ。原作ではこのテキストは出てこない。アニメでは人生とか社会とかそういう物にまでこの原則を広げて描いていたけれど、原作における等価交換の原則は、もっと即物的だ。単なる錬金術の法則だ。

この部分、なるほどー、と思いました。アニメ終盤で、「いくら努力したって報われない人もいる。等価交換の原則は通用しない。」(ニュアンス違うかな?)といわれて、いまさらそんな・・・な気持ちに。等価交換ってそんなに汎用性があったのかと。



とにかく兄弟は自分たちの身体を元に戻すただそれだけのために、賢者の石を求め旅している。しかし失われた命の重さを身をもって体験してしまったからには、人の命を犠牲にしてしまう賢者の石を作ることなんて出来ない。この矛盾をどうするのか、これからの展開に期待。
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難しい (管理人)
2005-02-27 07:06:09
れたす様こんにちは。コメントありがとうございます。

そう。難しいんですよ。

その難しいところが、すげーな、と、思うんです。

命は大切だ、って、言うのは簡単。たかがマンガの世界だし。現実でだって、言うのは簡単。

だけど、何ていうか、それをね、腹の底にどすんと持っているのはね、持ちつづけてるのは、難しい。

鋼は、ばかすか死んでる。単行本カバー裏背表紙にギャグで描いちゃうくらい、次々に殺してる。けど。

マンガならではのドキドキ感とかストーリーの面白さとかの下に、命は大切だなんて偉そうなことマンガでなんか言えやしないけどでも本当はそうなんだよ、って作者のメッセージが感じられて。

何ていうか、上手くいえないけど、そういう所が私は大好きなんだ!
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