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◇ 柴田元幸「書き出し 世界文学全集」

2022年07月30日 | ◇読んだ本の感想。
おれをイシュメールと呼んでくれ。

……といいたくなるよね、低音で。
「白鯨」ですな。

タイトル通り、世界の有名作品の書き出しを並べた本。
各作品だいたい3ページ、長くても4ページくらいかな。
読んでからけっこう驚いたのだが、全部柴田元幸がこの企画のために
(英訳から)訳したそうだよ。

3ページとはいっても、80作品くらいを取り上げてるから量としては相当ですよ。
しかも1作品の同分量じゃなくて80作品ですからね。
さすがに1作品にそこまでじっくりと取り組んだ上での話じゃなかろうが、
どんな話かを知らないと訳せませんよね。
過去に読んでいて、読み返す程度にしてもかなりの仕事量。すごい。

近年、10秒で読む世界文学とか、……いや、さすがに10秒はないか、
そういう類が多いじゃないですか。
しかしその類はどうかなと思っていて。結局あらすじでしょ?
あらすじではわからなかろう。
(が、そこまで目くじらを立てることでもないんだよね。
それこそ1作でも何か読んでみる端緒になればさ。)

でもこの本はあらすじじゃないところがミソですねー。こう来たか。
本人が翻訳家であればこその技で、しかも物好きじゃなければ成立しない。
柴田元幸くらいの知名度があってこそ書けるテーマだし。

だが、……文学啓蒙という意味では思ったほど効果的ではなかったなーというのが
正直なところ。
書き出し3ページでそこまでインパクトのある作品はなかった。
逆に本当の書き出し、それこそ「イシュメールと呼んでくれ」の方が
面白みという意味ではあったかもなあ。

多分、柴田元幸のエッセイをもっと読みたかったんだよね。
一篇につき、柴田が100文字か200文字でちょっとコメントを添えるくらい。
訳しているんだからそこに柴田がいるはずだが、エッセイ面白いので
エッセイを読みたい。
むしろ書き出し一行、そこからエッセイ、というありがちな形式の方が良かったかも。

この本は装丁が良かった。誰だったかなー、装丁。
ただ本文ページ、端の余白部分にセピアで書き出し一行を印刷しているんだけど、
試みとして面白かったが、読んでる分には少し邪魔だった。凝りすぎ。

文句は多々付けたが、試みとしては面白かったし、デザインも凝っていた。
わたしは残念ながら読んでみようという作品は出なかったけど、
読んだ人のなかでは「これを読んでみよう」と思う人も出るだろう。
今回は伝統的な「世界文学」を集めたそうだけど、
おひざ元のアメリカ文学でこれをやってくれてもいい。

あ、そういえば、「源氏物語」の英訳からの重訳3種が面白かった。
アーサー・ウェイリーとサイデンステッカーと最近の何だかって人の3種。
新鮮でしたね。






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