プラムフィールズ27番地。

本・映画・美術・仙台89ers・フィギュアスケートについての四方山話。

◇ アラン・ド・ボトン「旅する哲学 大人のための旅行術」

2022年03月11日 | ◇読んだ本の感想。
ジャケ買いならぬタイトル買い。まあ買わずに図書館で借りてるわけですが。

こういうタイトルの本は、うっすい新書で、こけおどしで哲学なんて
言ってるんだろうと思っていた。(←うがちすぎである)
そしたら著者は哲学者らしい。おやおや。
新書でもなく、まあそこそこ厚い本。

読んでみたら哲学者が書いたにしてはコムズカシイ内容でもなく。
文章にセンスというかキレがもうちょっとあったら最高だったけど、
内容自体はとても頷ける内容で。なかなか面白く読んだ。



頭の中で想像する旅は、出発点とホテルの間には何もないが、
実際には「荷物を吐き出す回転式コンベアの擦り切れたゴムのマット。
吸い殻があふれる灰皿の上で踊る蠅二匹。到着ロビーのなかで回っている
巨大な扇風機」などが存在する。良くも悪くも。

――そうねえ。これが、どっちかというとマイナス印象で書いてあるんだけど、
これが旅なんだよねえ。そして想像する旅では出会わないこういうディテイルが
旅の本当の印象を決めたりする。

一生覚えている光景は、
写真を撮るような風光明媚な景色じゃなくて、こんな風にふと見た光景。
ヒースロー空港のカーペットのグレイとピンクの水玉模様とか。


こういう風な「真実」を書いてくれている。
上記の内容がとりわけ心を捉えたわけではないが、
(むしろインパクトが弱い方だが)具体例を出した方が説得力があるだろうと……
が、例に挙げるには弱かったかもね。

せっかく引用するんならベストなものを探すべきだな。
手間を惜しんでしまった。反省。


じゃあ罪滅ぼしにもう一つ具体例を。
著者は、たとえばマドリッドでの観光について、
王宮とゲルニカを一緒くたに見てしまうのは無理がある、という。
興味の方向としてはまるで違うものなのに、地理的に近いというだけで
それらを続けて見なければならないと。
王宮に興味のある人なら、次に見るのはゲルニカではなく、
プラハやサンクトペテルブルグに行って別な王宮スタイルを見た方がいいと。

地理に縛られる不自由さ、を言ってるんだが、
……これはこれで「真実」だが、仕方ないよねえ。どこでもドアはないもの。
マドリッドのすぐ次に(たとえば翌週に)プラハへ行けるのなら万々歳だけど、
それが出来るのは、富裕層の中でも社会的立場からも解放された富裕層くらい。

あ、著者は見るべきと主張しているわけではなく、
見た方がいいのになあ……という諦めを含んだスタンス。
それが出来ないことは重々承知している。
これもちょっとキレが悪かったか。

もっと他にぐっと来る部分はあるのだが、……そこを挙げると自分が照れくさいので。


この本の楽しいところを的確に挙げられなかった気はするが、
旅好きなら読んで楽しい本であると思う。
とりわけ一人旅好きの人なら、思い当たるところは多々あるであろう。



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