プラムフィールズ27番地。

本・映画・美術・仙台89ers・フィギュアスケートについての四方山話。

◇ 宮田珠己「旅はときどき奇妙な匂いがする」

2022年11月17日 | ◇読んだ本の感想。
脱力系エッセイストとしてわたしがイチオシする宮田珠己だが、
文章の雰囲気通りに、のほほんと生きているだけではなかった。

当時、……いつの時点の当時かは不明だが、珍病に苦しんでいたらしい。
珍病と茶化したが、理由がわからず突然足が痛くなるというのは辛かろうなあ。
実際の痛みに加えて、「なぜ」という答えの出ない問いを
永遠に繰り返さなければならないのは辛い。

この人は旅行を愛しているが、それを仕事にしてしまう辛さもあったらしい。
そのため今回はまったくテーマのない旅、旅行作家になる前の
純粋に旅を楽しめた時代の旅への回帰を目指して旅に出た。

が、結局のところ、それをも原稿にしなきゃいけないんだから、
どんなにお気楽な旅をしようとしてもそれは無理なんだろうなあ。
仕事にしてなくてもそうだよ。若い頃に感じたキラキラした気持ちを
同じように持ち続けられるかっていえばそれは無理。

人間は慣れる動物だから。子どもの頃、世の中にこんなに美味しいものがあるのか!
と感動した食べものに、今も同じように感動出来るかというと無理。
しかもこの人の状況では、旅行の治癒効果に「すがる思いで」期待するだろうから、
そんなに気楽に旅行できないよね。

というわけで、いつもののほほん風味とはけっこう離れた、
こういう言い方をすると営業妨害になるかもしれないが、沈鬱なものを含んだ作品。
一応エッセイではあるけれども、部分的に夢、あるいはシュールな
ショートストーリーもある。

いつもと違う宮田珠己。正直言って宮田に求めるものとは違うけれども、
こういう部分もあるということでご納得いただきたい。
……ご納得とは、誰が誰に向けての発言なのかよくわからないが。
まあわたしは宮田が贔屓なので。


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