お母さんと読む英語の絵本

読み聞かせにぴったりな英語絵本から、米国の子どもたちの世界をご紹介
子どもをバイリンガルに…とお考えのお母さんに

わたしの「くるみ割り人形」

2010-12-20 | from Silicon Valley

一昨年、大規模な模様替えで一段と豪華になったサンフランシスコ・バレエ団の「くるみ割り人形」。12月9日に始まった公演は、27日が今シーズンのフィナーレです。

居間にツリーを飾ったら、家族みんながそれぞれこっそり用意しあったプレゼントを順にひとつずつラッピングしてはツリーの下に並べていきます。私のプレゼントには何が入っているのかな?とワクワクするのは子どもも大人も一緒。色とりどりの包装紙やリボンにつられて、折々そっとツリーのそばに寄ってみては自分宛のプレゼントを眺めたり、手で持って重さをはかってみたり、耳のそばでそっと振ってみたり……。そうして、だんだんクリスマスが近づいてきます。我が家でもプレゼントの見張り役は「くるみ割り人形」です。途中で加わったネズミのぬいぐるみともども、もう20年以上の付き合いになりました。

「くるみ割り人形」と言えば、12月にはアメリカ中でプロ・アマ入り混じって、さまざまな舞台が繰り広げられます。可愛いところでは幼稚園や学校のクリスマス会の公演がありますし、町のバレエ学校では12月の出し物はこれで決まり。もちろん、もっと本格的なプロのバレリーナによる公演も恒例。ですから、12月に入るとなんとなく家族が顔を見合わせて「今年はどこで観る?」という気分に。知り合いの子が学校で踊るよと聞けば、プレゼントの花束やチョコレートの箱を持って家族でわいわいと見に行き、そういう機会がない年にはサンフランシスコかサンノゼにプロの公演を観にいきます。

「くるみ割り人形」にちなんだ我が家の思い出は1991年にさかのぼります。

やはり不況が深刻だったこの年、レイオフはホワイトカラーの管理職にまでおよんで、街のスーパーマーケットの駐車場ではアルマーニのスーツを着た紳士が「マダム、荷物をお運びしますので、チップを」と話しかけ、皆を驚かせました。いつも街角に立つ大きなクリスマスツリーもとりやめになり、ダウンタウンのライトアップも例年より暗くて、行きかう人も皆うつむきかげんでした。

この年、私は、ダンスを習い始めたばかりの娘のためにニューヨーク・バレーシアターのサンフランシスコ公演のチケットを買いました。忘れもしません、クリスマスイブの公演の一番高い席を3人分大奮発したのです。ところが、前日になってかんじんの娘がインフルエンザで高熱を発し、どう頑張ってもとうてい行かれなくなってしまいました。やれやれ、今更キャセルもできないし……。

すると、熱にうるんだ目で娘が「お友達にあげてもいい?」もちろん! 今日の明日でも行ってくださる方があるなら喜んで! そんなわけで、チケットはプリスクール同級生のご家族に差し上げました。

クリスマスの翌々日にお母様からお礼状が届きました。

「素敵なプレゼントをありがとうございました。家族3人でほんとうに楽しんで観てきました。どんなに嬉しかったか、おわかりいただけないと思います。実はサンクスギビングの前に夫がレイオフされてしまいました。そのため夏に手に入れたばかりの家を手放さなければならないことになったのです。不況でなかなか買い手がつかなかった家がようやく売れたので、明日、実家のあるコロラドに引っ越します。『今年のクリスマスは子どもにプレゼントも買ってやれないね』と夫と話していたところへ、こんな素晴らしいサプライズギフトをいただいて感激しました。バレーを観た帰り道、見おさめになるサンフランシスコの街のクリスマスのイルミネーションを眺めながら3人でドライブしてきました。ありがとう!そして、さようなら。お元気で!」

アメリカに転居したてのナイーブな日本人駐在員の家族がはじめて知った厳しい現実。アメリカではサンクスギビングやクリスマスのホリデーシーズンは、実は年末決算の時季で、そして、そのゆえに解雇や大量のレイオフのシーズンでもあるのです。

解雇通知はピンク色をしているので通称"Pink Slip"と呼ばれています。特別な事情がない限り、手渡されるのは、休暇の前、あるいは週末の前の金曜日ときまっています。ですから、不況が深刻な年、レイオフが噂される職場では、皆、ホリデーが待ち遠しいと言うより、むしろホリデーが近づいて来るのが怖く、また週末が来るたびに身の縮む思いをしているのです。そんなときには言わずもがな、息苦しいほどの重圧感がオフィスを満たします。

実際にレイオフがあると、スリップを受けとった人は誰とも言葉を交わさず(スリップを受けとった瞬間から誰とも話してはいけないと言うのが決まり)黙って私物をまとめて職場を去ります。去って行く同僚に言葉もかけられないまま残される者たちの心中も、もちろん複雑で、皆、深く傷つきます。

くるみ割り人形を観るたびに、聞くたびに、今でも必ずこの時のことが思いだされ、そして、あのご家族がコロラドで、健康で幸せでありますように!と願わずにいられません。

Happy Holidays!




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