お母さんと読む英語の絵本

読み聞かせにぴったりな英語絵本から、米国の子どもたちの世界をご紹介
子どもをバイリンガルに…とお考えのお母さんに

親と地域が支える パブリックスクール

2010-12-13 | with バイリンガル育児

シリコンバレーの人気高校、クパチーノ・ハイのゲート

アメリカでは高校までは義務教育で、原則、無償です(参照:ブログ記事『スーパーマンを待ちながら‥‥』)。が、これはあくまでも公立学校(パブリックスクール)の話で、私立(プライベートスクール)にはあてはまりません。日本と同様、アメリカでも、私立校は授業料から教科書・教材、諸活動費まで有償。しかも、日本の"私学助成"に匹敵するような公的補助の制度はなく、私立は完全に独立採算で経営されているので、子どもを私立学校に通わせるには日本の常識では想像しにくい高額のお金がかかります。

具体的に言うと、ここシリコンバレーの私立高校の今年度の授業料(授業料のみ。諸経費/寄付は別)をみると、年間約$25,000(Pinewood School, Los Altos)から$34,000(Menlo School, Menlo Park)。これを日本の私立高校の授業料と比べてみると、たとえば慶応高校は年間74万円ですから、昨今の円高でも$10,000程度。アメリカの私立学校の授業料がいかに高いかがわかります。

比較的所得水準の高いシリコンバレーでも、平均の世帯年収は$75,000ほどなので、私立高校に子どもを通わせれば、授業料だけで世帯年収の半分近くが飛んで行くことになります。もちろん子どもを育てるには、授業料だけでなく、食べさせて着せて教科書や学用品を持たせ、学校では授業料以外に修学旅行など諸活動の経費がかかり、学校外ではスポーツやおけいこ事の経費もかかります。2人以上子どもがいれば全員の教育費を考慮しなければならず、そのうえ高校卒業後にはもっとお金のかかる大学進学が待ち受けているとあっては(大学は入学初年度だけで$40,000から$60,000かかります。参照:ブログ記事『大きな封筒、小さな財布』)、それまでの教育にあまりお金を費やすわけにもいかないというのが現実。ですから、私立高校に子どもを通わせるのは親にとってかなりのチャレンジです。

では私立校にあげない場合、親にできることは?というと「よい学校区に居住して、成績優秀な公立校に入学させる」ことです。

よい学校区を探し出すのはさほど難しいことではありません。『情報公開法』に従い、公立学校の成績は毎年一律の基準で評価され、評価結果は一般に公表されなければならないことになっているからです。また高校までが義務教育にあたるアメリカでは入学には選抜試験がなく、居住地域を決めれば、ほぼ自動的に地区の学校を選ぶことができます。

というわけで、成績の良い学校区には居住希望者が殺到します。すると何が起きるか……というと、その学校区の不動産価格が高騰します(参照:ブログ記事『不動産価値を左右する学校』)。ですから、よい学校区を探すのは簡単なのですが、その学校区に住むとなるとそう簡単にはいきません。でも一般には、子どもを私立に上げるのにかかる金額を考えれば、よい学校区に持ち家を買って授業料分でローンを払う方がよい(子どもは優秀な学校に行き、親は優良物件の不動産が買えて一石二鳥)と考えられています。よい学校区にある家は値下がりしませんので、不動産投資として考えても好都合なのです。

シリコンバレーにもそういう人気の高い学校区がいくつかあります。中でも、とりわけ教育熱心な親が集まっていることで知られているのが、かのアップル社発祥の街『クパティーノ(Cupertino)』です。

ところが昨今は、成績優秀な学校区に住んだからと言ってウカウカしていられなくなってきました。というのも、長びく不況で行政の教育予算がどんどん削減され、教育現場は圧迫される一方だからです。カリフォルニア州もご他聞にもれず、この春、2010年度からの教育予算を大幅削減、教員を大量レイオフして小学校のクラス定員を20人から一挙に30人にふやすと発表して保護者を震撼させました。

さぁ大変です。でも、そこは、優秀な学校に入れるためなら転居もいとわないという筋金入りの教育ママと教育パパたちのこと、「行政ができないと言うなら自分たちで何とかする」まで、とばかり、不満を言う時間も惜しんで、即刻、解決のための行動を起こします。

とはいえ、予算削減対策?教員のレイオフ反対?少人数クラスの維持?いずれにも解決策はひとつしかありません。そう、予算不足を補う自前の資金づくり(Fund Raising)です。

クパティーノ学校区でも『州の予算削減-->教員レイオフ-->クラス大幅増員』計画が発表されるや、親たちが2人、3人と語らって、さっそく草の根の資金作りを開始しました。というのもこの学校区では、2009年度末の5月にPink slip(解雇通告書)を受け取った教員は107人にものぼったのです。これは学校区内の数校の小学校が閉鎖できるほどの人数。まさに小学校の教室の定員が一挙に1.5倍に膨れ上がる……という事実がひしひしと実感されたのです。

親子協力して、地域の人々の理解と協力を得るために資料を作成し(タイトルもズバリ『クパティーノの学校を救済しよう! Save Cupertino Schools』)、子どもたちは空き瓶を抱えて知り合いを回っては1ドル、2ドルと募金を頼み、親たちは校庭や街頭に立って募金活動を展開しました。夜間は、学校やコミュニティセンターなどに住民や地元企業の人々に集まってもらって学校の苦境を訴えるミーティングを精力的に開催し……そして1カ月。正確には25日後、クパティーノ学校区の草の根活動家たちは、合計$2ミリオン(日本円で約2億円)の資金を集めたのです。

クパティーノ学校区の親たちの快挙は全米に報道されました。ABCニュースのインタビューに応えて、活動の発端をつくった母親の一人は「やればできるんですね!(Wow! We did it!)」と驚きと喜びを率直に語り、集まった資金で一旦はレイオフされた仕事に戻ることが決まった教師の一人は「この学校区が、ここに住む人たちが、いかに公立学校を大切にしているかの証です!」と誇らしげに語りました。が、募金活動は、まだ終わっていません。州の教育予算が削減され続ける限り、これまで築いてきた教育の質を維持するために、不足分の資金調達は来年も再来年も続きます。そしてクパティーノの成功がメディアで報道されるや、全米各地でこうした学校救済のための草の根の募金活動が始まっています。

さすが!クパティーノ!

でも、アメリカではいったん公立学校で子どもを育てると決めたからには親にはこの気概が必要です。実際、優秀な公立学校は有名私立高校に比べてもいささかも遜色なく有名大学に続々と進学していますが、その教育の質は、実は学校だけでなく、親が一緒になって担保しているのです。事情はクパティーノ学校区もまったく同様です。

選んでそこに住んでいる親たちにとっては、学校のレベルを維持するのは当然の前提。そのためには学校を支えるための労をいとわないだけでなく、資金作りの寄付だってするのです。

地域住民も、自分の家に学齢の子どもがいなくても、地元の学校に寄付をするにやぶさかではありません。もちろん近所の知り合いの子どもたちが通う学校だからという思いもありますが、もっと実際的には、すでに書いたように学校の評価が学校区の不動産価格荷影響するという事情もあるでしょう。持ち家の資産価値が下がるリスクに比べたら多少の寄付などいとわないというのも、また住民のインセンティブのはずです。





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