お母さんと読む英語の絵本

読み聞かせにぴったりな英語絵本から、米国の子どもたちの世界をご紹介
子どもをバイリンガルに…とお考えのお母さんに

ボクの ユニークな おにいちゃん

2010-12-14 | about 英語の絵本

Tacos Anyone?

アメリカでは、子どもの6-7人にひとり(約13%)はなんらかの発達障害があると言われています。中でも自閉症児は、以前は子供人口の0.6%程度と言われていたのですが、今では1%以上と推計され、その増加が心配されています。これは診断基準と診断精度が上がったために、「診断のつく子どもが増えている」のであって「自閉症そのものが増えているわけではない」という説もありますが、いずれにしても、自閉症と診断される子どもが多くなっていることは確かです。米国厚労省の統計では80人から240人に1人(平均すると110人に1人)が自閉症であると言われています。

カリフォルニア州はアメリカでも自閉症と診断される子どもが多い地域ですが、それだけに特別教育プログラムも工夫されていて、通常の学級に入れるノーマライゼーションの対応が一般的であるのはもとより、個人指導やチューター(家庭教師)の公費派遣などさまざまな支援プログラムが利用できます。自閉症児を育てる日本の友人の苦労を見るたびに、アメリカの支援制度の半分でも日本にあったらなぁ……といつも羨ましく、また残念に思っています。

それでも、発達障害のある子どもを育てていくのは大変なことで、家族の負担は並大抵のことではありません。が、どんなに社会的な支援システムが整っても、やはり家族でなければできないことが圧倒的に多いことも確かです。そんなとき、そんな家族を支える上でもっとも重要なのが周囲の「理解」。それも、大人だけでなく、実は、障害のある子のお友達にあたる幼い子供たちの理解がとても重要。そう考えると、障害のある子どもを描いた絵本がもっとあってもよいでのは・・・と思われます。

さて、今日ご紹介するのは自閉症児と家族の暮らしを描いた絵本「タコス欲しいの、だれ?(Tacos Anyone?)」です。主人公は自閉症のきょうだいのいるトーマス。お話はトーマスの目を通して描かれ、展開しています。

トーマスはマイクが「自閉症」だということは聞かされて知っています。が、まだ幼いトーマスには「自閉症とは何か」ということがよくわかりません。トーマスにわかるのは、マイクが遊び相手として全然アテにならないこと、それから、トーマスにはまったく理解できない行動をすること……。

コミュニケーションの成り立ちにくい幼い兄弟同士の日常のかかわりを、トーマスの視点から淡々と率直に描いています。端的に要点をついた短い文で書かれたマーヴィ・エリスのテキストは非常にわかりやすく、一方、この短いテキストを十分に補ってあまりある具体的な場面と人物に描ききっているのがジェニー・ロウワーのイラストです。表情豊かな主人公たちは可愛いのにリアルで説得力があります。

さて、そんなトーマスがマイクを理解できるように助けてくれるのがプロのセラピストです。この絵本では、家族とプロのセラピストのかかわりも丹念に描かれていて、短い、しかも子ども向けの絵本ながら、自閉症児についての非常に質の高い啓発書になっています。障害のある子どもを主人公にした絵本というのはなかなか見当たりませんから、本書は大変に価値のある一冊だと思います。

以前このブログで、不安神経症の子どものための不安のマネジメントについて書かれた絵本をご紹介しました。合わせてご参考に。(参照:ブログ記事『たまらなく不安になったら‥‥』)

また自閉症児については、2008年に公開された映画「The Black Baloon」もあります。自閉症の兄をもつ弟の視点から描かれた家族の日常生活。兄弟はもう幼児ではなく、2人とも高校生。思春期ただなかのハイティーンの弟の目を通して描いた自閉症の兄との愛情あふれる、でも、どうしてもぎこちない交流。そして、決してきれい事でも、美談でもない日常の暮らし。いずれをも率直にリアルに描いて、世界中の映画祭で絶賛された作品です。こちらも是非。この映画もお薦めです。




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