うみねこ 生命は自発的である

生命は自発的に行動し、その結果帰還してきたフィードバック情報を処理している。情報はこの方法によってしか収集できない。

覚え書き

2005-09-21 05:56:21 | Weblog
 以前、他所で腕の自重というものは腕を持ちあげて初めて感じることができることであり、赤ん坊は腕を持ちあげてみないことには腕の自重を知ることはできない、ということを話題にした。ここでJeff Hawkinsの"On Intelligence"(邦題:考える脳・考えるコンピュータ)からの引用で「予測」という話が出たが、赤ん坊は腕を持ちあげてみる前はその行為の結果に関する情報を持っていないので、予測などできるはずがない、というのが私の主張だった。

 この段階で「予測」を持ち出すのはまったく筋違いだと私には思える。予測が可能になるのは、一度腕を持ちあげて自重なりなんらかのフィードバック情報を得た後なのだ。つまり、情報を何も持ち合わせていない状況でなんらかの行動をし、その結果フィードバック情報を得るということが知識を得るということであり、それ以降、腕を持ちあげた場合に何が起こるかを予測することが可能になる、ということである。

 この、情報を何も持ち合わせていない状況でなんらかの行動ができるということが自発的であるということであり、生物にはそれが可能だが、コンピュータにはそれは不可能である。なぜならプログラムという情報ですら、人間が与えてやらないことにはコンピュータは何もできないのであるから。つまり、コンピュータはそもそも知識を得ることも、知能を持つこともできない、というのが私の主張である(以前、生物は遺伝情報によってプログラムされている、という人がいたが、腕を持ちあげると腕の自重が知れるということまで遺伝的にプログラムされているわけがない。腕を持ちあげると腕の自重が知れるということは、あくまで生後に腕を持ちあげてみて初めて知ることのできる情報なのだ。遺伝的にプログラムされていることは身体の構造や、感覚器、筋肉などの作動器と結合した神経連絡構造だけである)。コンピュータはそもそも情報を何も持ち合わせていない状況でなんらかの行動をして知識を得ることができず、従って知能を持てないのであるから、3歳児程度の会話、イヌ程度の知能を持つことすらコンピュータには不可能である。

 では、生物はなぜ自発的に行動できるのかというと、化学反応性というこの世界に備わった性質のおかげでさまざまな化学物質が天然に合成され、細胞膜という化学物質も合成され、その細胞膜の袋の中でそれらの化学物質が酵素化学反応回路(代謝回路)を形成し、さらに複雑な化学物質を合成し続けた結果、鞭毛などの作動器を獲得し、その作動器を化学反応性のもたらす作用によって駆動することで自発的に行動できるのである。と同時に、センサーとしての受容体蛋白も獲得し、それによって自発的に行動したことによるフィードバック情報を得ることができるようになった。

 であれば、この自発的に行動できる性質をさまざまな化学物質を用いて模倣して
みようというのが自然な考え方であろう。最初の生命形態としての細胞が形成されるまでに数億年を要したと推定されているが、我々はすでに細胞の成分構造や機能についての知識を大量に蓄えており、あとはこれらの既知の細胞成分を混合してやればよいのでそんなに時間のかかることではなかろう。まだ成功していないにしても。あるいは、地球上の生命では媒体は水だが、何も水にこだわる必要はないし、ナノマシンとしての酵素も何も蛋白質にこだわる必要もないだろう。たとえば分子モーターというナノマシンがあるが、これを作動器として利用してもよい。センサーとしての受容体蛋白も、要するに刺激としての化学物質と接触するとなんらかの信号を発するものであれさえすればよいので、意外と簡単にできるのではなかろうか。最初の実験としては、作動器が作動した結果、細胞膜表面に付着した受容体センサーがなんらかの性状変化を示せば、これがフィードバック情報を得たものと解釈する実験が考えられる。

 これは決して人工生命を作る試みではなく、あくまで知能を持つ存在を創り出す試みなのである。私は作動器が作動した結果をフィードバック情報として取得できるシステムが知能を持つシステムであると考える。

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 ニューロンは常時、ナトリウムイオンを細胞外に汲み出し、カリウムイオンを
細胞内に取り込むことで分極を維持しているが、発火(インパルス)では一時的にナトリウムイオンが細胞内に大量に流れ込む(脱分極)わけで、それを元の分極状態に戻すために細胞膜ではナトリウムイオンの汲み出しとカリウムイオンの取り込みが大急ぎで行われ、その間細胞は次のインパルスが来ても応答できない(不応期)。しかし、発火に貢献しなかったニューロンでは分極は多少は揺らいでも脱分極まで至らないのでナトリウム・カリウムのイオン収支はさほど変化しないと思われる。

 ニューロンにとって重要なことは、イオン収支より軸索末端での神経伝達物質の放出の方であり、これこそが出力として真の意味がある。もちろんインパルスが来た時に伝達物質が大量に放出されるが、放出された伝達物質は再度、放出した
ニューロンに取り込まれることもある(モノアミン作動性神経系などの系統学的起源の古い神経系)が、多くはシナプス間隙で酵素によって分解される(系統学的に新しいコリン作動性神経系など)ので、細胞は伝達物質を合成しなければならない。合成が間に合わなくなった時を枯渇と呼ばれ、この時はたとえインパルスが来ても伝達物質を放出できないので、次のニューロンに信号を伝えることができない。

 いずれにしても生体内では情報は電気的(またはイオン)メカニズムに依ってではなく、神経伝達物質という化学物質を介して伝達されている、ということが重要である。実際は化学物質によって情報は伝達されるのに、ニューラルネットワークの理論では電気的な情報伝達で説明されている。この辺りに乖離がありそうである。さらに、伝達物質はインパルスの有無に関わらず、常時少量が放出されていることも示唆されている。

 ニューラルネットワークの理論では話を簡単にするために化学物質による情報伝達は電気的な情報伝達に読み替えられているが、実際は違うのだ、ということも念頭においておく必要がある。

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