＃41 【笑う男】

残り試合時間　58秒

翔陽　76
海南　83





牧のワンマン速攻。

必死に追いかける藤真。



『シュポ！』



牧のレイアップシュートが決まった。

憎いほどに、手堅く、冷静に、あっさり決めた。



「でかしたぞ、牧！」

ベンチの高頭からも声が飛ぶ。


「牧さん、ナイッシュ！」

「ナイスカット！ナイッシュ！！」

海南選手からも声があがる。





「厳しいな・・・。」

腕組みの魚住。


「決まったな。」

と観客席の田岡。


「やはり、最後は牧君・・・。」

記者席の弥生。


「藤真が消えるか。」（勝たせてやりたかったけどな・・・。）

赤木の表情は変わらない。





「海南の勝利は決まった。」

「やはり、藤真は一度も勝てなかったか・・・。」

会場全体が、翔陽の負けを確信した雰囲気になっている。





だが、





『ビュン！』





翔陽のエンドラインから、海南コートに向かって、ボールが放たれた。





「花形！」

パスの出所は、もちろん藤真。

諦めていない藤真からの逆転へ望みをつなぐ花形へのロングパス。





『バシ！』





「！！」



「ふーー、あぶねぇ。」





ボールをキャッチしたのは・・・、





清田だった。


藤真の想いを打ち砕いたのは、海南の1年生。

随所で翔陽の流れを断ち切っていた。





そして、

「神さん！」

いち早く、走り出した神へパス。


前には、牧と藤真。




「海南が追い討ちをかけてきたーー！！」

「この2対1は、不利すぎる！！」




（神！）

神に合図を出す牧。


（ええ、わかりましたよ。）



『バン！』


牧にボールが渡った。





牧と藤真の1on1。


喜びに満ち溢れている牧。


固唾を呑んで、2人の挙動を見守る観客。


藤真の目は、まだ勝機を失っていない。



（小細工はなしだ！）

（来いっ！！！）



『ダムダム』


『キュ！』


『キュッキュ！！』


静まり返った会場には、ボールとコートを蹴るバッシュの音だけがこだましている。



「牧がいったーー！！」

「パワードリブル！！」


牧が強引にリングを奪いにいく。



藤真は身をかがめ、低い姿勢で、牧についていく。


『キュ！』


牧がキラーバックロールで抜きにかかるが、懸命に並走、牧とリングの間に割って入った。


『キュキュ！』


踏み込む両者。


牧はステップを踏んだ。

対する藤真は、跳ぶのではなく、ボールの動きだけを見ている。




そして、




（ここだ！！！）




『バチィーン！』




牧がボールを持った瞬間、藤真が激しくボールを叩いた。




（！！）




（ぬ！！）




牧は手の中でボールが弾み、中途半端にレイアップシュートを放った。




（ちぃ！！）




『ガコッ！』




ボールは、リングにあたり、逆サイドに流れた。




（よし！！）





「外したーー！！」

「藤真が勝ったーーー！！」





だが、リバウンドを奪うために、藤真が振り返るとそこには、神の姿があった。

そして、


『トン！』


そのまま、神がチップインでリングに押し込んだ。




「うまい！！」

「さすが、神！！」




牧に得点を許さなかった藤真ではあったが、神にまでケアすることはできなかった。



「水をさすようで、申し訳なかったです。」

「いや、そんなことはない。勝負は勝負だ！ナイッシュ！」





『ダーン！』





（ん！？）

振り返る牧と神。



藤真は、一度ボールをコートに叩きつけていた。

ゴールを決められた悔しさ、牧を止めた嬉しさ、2つの想いが共存し、藤真の熱い心が吼えた。



藤真は笑った。






残り試合時間　28秒

翔陽　76
海南　87






続く。