＃38 【牧を超えろ】

残り試合時間　5分。

翔陽　61
海南　72




牧のファウル。

サイドから翔陽ボールで試合が再開する。



長谷川から藤真へ、藤真からハイポの花形へボールが入る。



（フェイダウェイ！）



シュートを警戒し、高砂が間合いをつめる。

ローポでは、高野がボールを受け取るチャンスをうかがっている。



『キュ！』


藤真がワンフェイクを入れ、花形の元へ走りこんだ。


（ハンドオフか！？）


牧が並走。

パスを入れさせないディフェンス。



だが、藤真は牧の体を押しやるようにステップアウト。

花形からパスを受け、クイックリリースで、フェイダウェイ気味にジャンプシュートを放つ。



「入れ！」


『シュパ！』


リングに触れることなくシュートを決めた。


難しいシュートを気合でねじ込む藤真。



（牧にだって負けてない！今年こそ勝つ！！）




翔陽　63
海南　72




海南のオフェンス。


『ダムダム！』


牧が藤真を抜きにかかる。


『キュ！』


『ダム！』




「キラークロスオーバー！！」




（！！！）



完璧についていく藤真。

攻め倦む牧。



だが。



『ガシ！』



（！！）



神のスクリーン。



「よし！」

藤真を抜いた牧。



「一志！」

牧には、長谷川がスイッチカバーにいく。



神は、藤真を背中で押さえながら、開いた。


『バン！』


牧からその神へパスが供給される。



鮮やかな、ピック＆ロールプレー。

海南の2枚看板が、翔陽の夢を打ち砕く。



だが。



『バシ！』


（ん！！）



藤真が背後から、神のドリブルをカットした。



「前！！」

叫ぶ藤真。

と同時に、走り出している。



「藤真！！」

ルーズボールを拾った永野がオーバーハンドで海南ゴールに向かって投げる。



（させん！！）

牧が猛スピードで追いかける。



『バシ！』


ワンバウンドしたボールを藤真がキャッチ、そのままダイレクトに左45°からレイアップシュートでゴールを狙った。



『ダン！』


牧も後ろからブロックに跳ぶ。




『ゴクッ。』

木暮がつばを飲んだ。


（この1本は流れを大きく変える！）

赤木は微動だにしない。




1歩め、2歩めと大きく前へステップする藤真。



予想以上のステップの大きさに牧は目測を誤った。



牧のユニホームが、藤真の背中を掠る。



『ピィーーー！！』



ファウルを告げる笛がなった。



（何！？ファウル？？）



藤真は2歩めのステップで、リングの下を通過、着地間際にバックシュートを放った。

いや、バックシュートというよりは、後方に高く放り投げただけであった。



『ゴン！』



前方に顔から倒れこむ藤真。



リングを見つめる牧。



ボールの行方を見守る観客。



高く舞い上がったボールは、



『ストッ！』



真上から真下に向かってリングを通過した。



「バスケットカウント！！」

審判の2本指が下ろされた。



実際、藤真の体に触れたのはユニホームのみ。

だが、審判の角度からは、接触したかのように見えていた。



藤真にワンスローが与えられた。




「わーー！藤真のバスカン！！！」

「あの体勢から決めやがったーー！！」

「っていうか、牧、触ってなくない？？」

「藤真、平気か？すげー音してたけど。」




「さすが、藤真さんや。牧さんにも劣っておらへん。アンビリーバブルなお人や・・・。」

と藤真を一直線に見つめる彦一。



会場が、牧のファウルに対して、藤真の安否に対して、ザワついている。



「白＃4、プッシング！カウントワンスロー！！」

審判は、オフィシャルに牧のファウルを告げた。



「今のは、どう見たって触ってないだろう！！」

「やめろ！テクニカルを獲られるぞ！」

騒ぐ清田をたしなめる牧は、小さく右手を上げた。



（勝負には、少なからず運も必要なんだ・・・。）



藤真は、ゆっくりと起き上がる。

左目の上が赤く腫れていたが、他に怪我をしているところはない。


「大丈夫か？」

コートにいる翔陽選手が駆け寄る。


「問題ない。少し痛いけどな。」

笑う藤真を見て、ほっとする花形ら。


「ナイッシュ！ワンスロー入れていこう！」



藤真は少し考え、花形、高野の肩を叩き、軽く微笑んだ。



「・・・。いや、ここはリバウンド勝負だ！お前らを信じている！！」


「・・・。不思議だよ。お前がいうと不可能が可能に思えてくるぜ。」

「あぁ、やってやる！！」



藤真がフリースローレーンに立った。


（牧を超えてやる！海南を倒してやる！！）


ボールを強く握り締めた。




翔陽　65
海南　72







続く。