照りつける太陽の光は、視界を遮る。
教室は静まり返り、学校には長い静寂が訪れている。
耳に入る音は、セミの声と白球を追いかける野球部の声だけ。
「静かだぜ・・・。」
学校の屋上に寝転んでいる男は、軽く目をつぶっている。
傍らには、薄汚れたバスケットシューズと週刊バスケットボール。
「ふぅーー。」
深いため息をつくと、元気のいい声が聞こえた。
「リョータ!何やってんのよ!こんなところで!!」
「アヤちゃん。」
宮城の声は、どことなく元気がない。
「今日から、練習再開でしょ!?キャプテンとして、しっかりしなさいよね!」
「・・・。安西先生には、ああいわれたけど、俺は引退するつもりだ。」
「リョータ・・・。」
「まさか、あそこまで差があるとは思っていなかった。超えられない壁を感じたよ。」
「何を弱気なことをいっているのよ!No.1ガードを目指すっていったのは、リョータでしょ!!」
「アヤちゃんも見ただろ!?仙道のプレーを・・・。牧や深津とはタイプが違う。」
「リョータは、牧さんや仙道の背中を追いかけるんじゃなくて、自分のPGを目指せばいいでしょ!?
リョータが諦めても、私は諦めないわよ!!この湘北で、全国制覇を目指す!!
もちろん、引退もしないわ!!」
「アヤちゃん・・・。」
「私は、練習に行く。リョータも安西先生から任されているんだから、しっかりしなさい。」
「安西先生・・・か。」
体育館。
『ガラガラガラ・・・。』
勢い良く体育館の扉を開ける彩子。
「ちゅーす!!!」
大きな声で挨拶をする。
「ちゅーす!!!」
「安西先生!遅れて申し訳ありません。これからも宜しくお願いいたします!!」
「ほっほっほ。これからもバックアップのほう、お願いします。」
「彩子さん!!」
「晴子ちゃん、またよろしくね!」
「こちらこそ、頼もしいです!!」
「彩子先輩!!」
部員が声をかけ、彩子を迎える。
「私が戻ってきたからには、ビシバシ行くわよ!!」
「はい!」
部員たちは、嬉しそうに返事をした。
「彩子さん。ところで、リョーちんは?」
と桜木。
「少し遅れてくるみたい・・・。」
「ふっふっふっ。リョーちんもキャプテンというプレッシャーにやられたか!」
「ちゃんと今までキャプテンやってただろ。」
と突っ込む安田。
「ぬっ!オヤジがあんなこと言い出さなければ、この天才桜木がキャプテンだったのに・・・。
なぁ、オヤジ!!」
『タプタプタプ・・・。』
「やめなさい!バカ!!」
『バシ!』
彩子のハリセンが桜木に炸裂。
「ぐぐっ。復帰初日から、はたくとは!!」
(どあほうは、死ななきゃ治らん・・・。)
この日、結局、宮城は体育館に姿を現すことはなかった。
次の日、体育館を訪れたバスケ部員は、衝撃の光景を目の当たりにする。
「今日は、キャプテン来るかな?」
「どうだろう。やっぱ、責任を感じているのかな・・・。」
「ったく。リョーちんもだらしねぇな。」
(これで、俺が正PGか。)
柳は、複雑な表情を浮かべるが、うっすら笑っている。
『ガラガラ・・・。』
体育館の扉を開けると、そこには見慣れた男がモップをかけていた。
「なっ!」
「キャプテン・・・?」
「えぇぇーー!!」
「おぉぉぉーー!!」
「なっなんだその頭は、リョーちん!!!傑作だぞ!!!」
(・・・。キャプテン・・・。)
流川の目も点になるその先には・・・。
『ジョリジョリ・・・。』
頭をさする宮城。
「おせーぞ!おめーらぁ!!」
丸坊主姿となった宮城が、そこにいた。
『ジョリジョリ・・・。』
安田らが、頭をさする。
「なんだよ、どうしたんだよ、リョータ。あはっ!」
『ペシペシ!』
頭を叩く桜木。
「リョーちん!!可愛いぞ!!ギャッハッハッハ!!」
「うるせー!触るな!!けじめなんだよ!!」
顔を赤くして、答える宮城は、少し照れくさそうである。
「あれと一緒・・・。」
桜木を指差す流川。
以前、桜木は、海南戦を自分のせいで敗戦したと思い、頭を丸めた。
同じことを宮城がやっていた。
「なっ・・・。しまった・・・。花道と同等レベル・・・。」
宮城は思いっきり後悔した。
「負けたのはキャプテンのせいじゃないっす。
俺がもっと得点をとらなければならなかったっす・・・。」
「流川・・・。」
「冬こそ、湘北がNo.1だ!」
「うす。」
『ガラガラ・・・。』
安西登場。
宮城は安西の下に走りより、深々と丸めた頭を下げる。
「昨日は無断欠席申し訳ございませんでした。
これからは、キャプテンとしての職務を全うし、必ず全国の頂に登ってみせます!!
ご指導のほど、よろしくお願いいたします。」
「この湘北をまとめ上げられるのは、宮城君しかいません。宜しく頼みましたよ。」
「はい!宜しくお願いいたします!!」
『パチパチ・・・。』
部員たちから盛大な拍手が送られた。
「ったく。オヤジがそこまでいうんじゃ仕方ねぇな。
あと数ヶ月、リョーちんにキャプテンを譲ってやるぜ。」
嬉しそうな桜木。
「・・・ほっ。」
(正直、キャプテンに抜かれたら、きついから・・・。)
流川もほっとしていた。
その頃、彩子は屋上にいた。
「あら、今日はリョータいないじゃない。」
『パサパサパサ・・・。』
屋上には、週刊バスケットボールが置きっ放しになっていた。
「まったく・・・。こんなところに置いておいたら、ダメじゃないの。」
週刊バスケットボールを手に取る彩子。
『パサ。』
巻頭カラーのページにめくれた。
そこには・・・。
大きな字でこう書かれていた。
-----------------------------------------------------------------------
全国高等学校総合体育大会バスケットボール競技大会
初優勝 陵南高校(神奈川県代表A)
沢北不在の山王工業を鮮やかに撃破!!
遅れてきた神奈川の未完の大器が、愛知の暑い夏に華開く!!
沢北栄治を超える逸材か!!!
仙道彰(3年)が全国初出場、初優勝、MVP初受賞の快挙を達成!!
優勝決定戦
陵南高校 72 × 山王工業高校 68
-----------------------------------------------------------------------
『パサパサ。』
更に強い風が吹くと、ページがめくれた。
小さな字でこう書かれてあった。
-----------------------------------------------------------------------
山王工業のリベンジが成就する!!
湘北キャプテン宮城リョータ(3年) 精細を欠く痛恨のミス!!
勝負どころのパスミスが、逆転負けを誘発!!
準決勝 第2試合
山王工業高校 82 × 湘北高校 76
-----------------------------------------------------------------------
「せっかく、リョータの名前が載っているんだから、大切にしないとね!!」
彩子は、雑誌を大切に胸に抱え、体育館に足を運んだ。
まもなく、新学期を迎えるある暑い夏の日の出来事であった。
#08 高校 新体制編 終了
#09 湘北 県予選編 に続く。
教室は静まり返り、学校には長い静寂が訪れている。
耳に入る音は、セミの声と白球を追いかける野球部の声だけ。
「静かだぜ・・・。」
学校の屋上に寝転んでいる男は、軽く目をつぶっている。
傍らには、薄汚れたバスケットシューズと週刊バスケットボール。
「ふぅーー。」
深いため息をつくと、元気のいい声が聞こえた。
「リョータ!何やってんのよ!こんなところで!!」
「アヤちゃん。」
宮城の声は、どことなく元気がない。
「今日から、練習再開でしょ!?キャプテンとして、しっかりしなさいよね!」
「・・・。安西先生には、ああいわれたけど、俺は引退するつもりだ。」
「リョータ・・・。」
「まさか、あそこまで差があるとは思っていなかった。超えられない壁を感じたよ。」
「何を弱気なことをいっているのよ!No.1ガードを目指すっていったのは、リョータでしょ!!」
「アヤちゃんも見ただろ!?仙道のプレーを・・・。牧や深津とはタイプが違う。」
「リョータは、牧さんや仙道の背中を追いかけるんじゃなくて、自分のPGを目指せばいいでしょ!?
リョータが諦めても、私は諦めないわよ!!この湘北で、全国制覇を目指す!!
もちろん、引退もしないわ!!」
「アヤちゃん・・・。」
「私は、練習に行く。リョータも安西先生から任されているんだから、しっかりしなさい。」
「安西先生・・・か。」
体育館。
『ガラガラガラ・・・。』
勢い良く体育館の扉を開ける彩子。
「ちゅーす!!!」
大きな声で挨拶をする。
「ちゅーす!!!」
「安西先生!遅れて申し訳ありません。これからも宜しくお願いいたします!!」
「ほっほっほ。これからもバックアップのほう、お願いします。」
「彩子さん!!」
「晴子ちゃん、またよろしくね!」
「こちらこそ、頼もしいです!!」
「彩子先輩!!」
部員が声をかけ、彩子を迎える。
「私が戻ってきたからには、ビシバシ行くわよ!!」
「はい!」
部員たちは、嬉しそうに返事をした。
「彩子さん。ところで、リョーちんは?」
と桜木。
「少し遅れてくるみたい・・・。」
「ふっふっふっ。リョーちんもキャプテンというプレッシャーにやられたか!」
「ちゃんと今までキャプテンやってただろ。」
と突っ込む安田。
「ぬっ!オヤジがあんなこと言い出さなければ、この天才桜木がキャプテンだったのに・・・。
なぁ、オヤジ!!」
『タプタプタプ・・・。』
「やめなさい!バカ!!」
『バシ!』
彩子のハリセンが桜木に炸裂。
「ぐぐっ。復帰初日から、はたくとは!!」
(どあほうは、死ななきゃ治らん・・・。)
この日、結局、宮城は体育館に姿を現すことはなかった。
次の日、体育館を訪れたバスケ部員は、衝撃の光景を目の当たりにする。
「今日は、キャプテン来るかな?」
「どうだろう。やっぱ、責任を感じているのかな・・・。」
「ったく。リョーちんもだらしねぇな。」
(これで、俺が正PGか。)
柳は、複雑な表情を浮かべるが、うっすら笑っている。
『ガラガラ・・・。』
体育館の扉を開けると、そこには見慣れた男がモップをかけていた。
「なっ!」
「キャプテン・・・?」
「えぇぇーー!!」
「おぉぉぉーー!!」
「なっなんだその頭は、リョーちん!!!傑作だぞ!!!」
(・・・。キャプテン・・・。)
流川の目も点になるその先には・・・。
『ジョリジョリ・・・。』
頭をさする宮城。
「おせーぞ!おめーらぁ!!」
丸坊主姿となった宮城が、そこにいた。
『ジョリジョリ・・・。』
安田らが、頭をさする。
「なんだよ、どうしたんだよ、リョータ。あはっ!」
『ペシペシ!』
頭を叩く桜木。
「リョーちん!!可愛いぞ!!ギャッハッハッハ!!」
「うるせー!触るな!!けじめなんだよ!!」
顔を赤くして、答える宮城は、少し照れくさそうである。
「あれと一緒・・・。」
桜木を指差す流川。
以前、桜木は、海南戦を自分のせいで敗戦したと思い、頭を丸めた。
同じことを宮城がやっていた。
「なっ・・・。しまった・・・。花道と同等レベル・・・。」
宮城は思いっきり後悔した。
「負けたのはキャプテンのせいじゃないっす。
俺がもっと得点をとらなければならなかったっす・・・。」
「流川・・・。」
「冬こそ、湘北がNo.1だ!」
「うす。」
『ガラガラ・・・。』
安西登場。
宮城は安西の下に走りより、深々と丸めた頭を下げる。
「昨日は無断欠席申し訳ございませんでした。
これからは、キャプテンとしての職務を全うし、必ず全国の頂に登ってみせます!!
ご指導のほど、よろしくお願いいたします。」
「この湘北をまとめ上げられるのは、宮城君しかいません。宜しく頼みましたよ。」
「はい!宜しくお願いいたします!!」
『パチパチ・・・。』
部員たちから盛大な拍手が送られた。
「ったく。オヤジがそこまでいうんじゃ仕方ねぇな。
あと数ヶ月、リョーちんにキャプテンを譲ってやるぜ。」
嬉しそうな桜木。
「・・・ほっ。」
(正直、キャプテンに抜かれたら、きついから・・・。)
流川もほっとしていた。
その頃、彩子は屋上にいた。
「あら、今日はリョータいないじゃない。」
『パサパサパサ・・・。』
屋上には、週刊バスケットボールが置きっ放しになっていた。
「まったく・・・。こんなところに置いておいたら、ダメじゃないの。」
週刊バスケットボールを手に取る彩子。
『パサ。』
巻頭カラーのページにめくれた。
そこには・・・。
大きな字でこう書かれていた。
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全国高等学校総合体育大会バスケットボール競技大会
初優勝 陵南高校(神奈川県代表A)
沢北不在の山王工業を鮮やかに撃破!!
遅れてきた神奈川の未完の大器が、愛知の暑い夏に華開く!!
沢北栄治を超える逸材か!!!
仙道彰(3年)が全国初出場、初優勝、MVP初受賞の快挙を達成!!
優勝決定戦
陵南高校 72 × 山王工業高校 68
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『パサパサ。』
更に強い風が吹くと、ページがめくれた。
小さな字でこう書かれてあった。
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山王工業のリベンジが成就する!!
湘北キャプテン宮城リョータ(3年) 精細を欠く痛恨のミス!!
勝負どころのパスミスが、逆転負けを誘発!!
準決勝 第2試合
山王工業高校 82 × 湘北高校 76
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「せっかく、リョータの名前が載っているんだから、大切にしないとね!!」
彩子は、雑誌を大切に胸に抱え、体育館に足を運んだ。
まもなく、新学期を迎えるある暑い夏の日の出来事であった。
#08 高校 新体制編 終了
#09 湘北 県予選編 に続く。