つばさ

平和な日々が楽しい

「うまいんだよなあ。困ったことに」

2015年02月14日 | Weblog
照明灯2/14

   トラフグ漁と魯山人

 希代の美食家といわれた北大路魯山人が随筆に残している。「ふぐを恐ろしがって食わぬ者は、『ふぐは食いたし命は惜しし』の古(こ)諺(げん)に引っかかって味覚上とんだ損失をしている」。
 納棺師を描いた映画「おくりびと」で、主人公の師匠に当たる佐々木(山崎努)の好物は、あぶって塩で食べるふぐの白子である。「うまいんだよなあ。困ったことに」。生きるために他の命を食べなければならない切なさが、そこはかとなく漂う。
 横浜市中区の本牧臨海公園を散歩していて、ふぐの碑に出くわした。「古名ふく 福に通ず」と碑文にあり、ぽってりとした腹が何ともユーモラス。調理師の団体、県ふぐ協会が設立20周年を記念して1970年に建てたものという。
 横須賀市の長井漁港などで冬場のトラフグ漁が定着しつつある。稚魚を放流してきた結果、水揚げは毎年3トン前後に上る。県水産技術センター(三浦市)では卵をふ化させ、放流魚を育てる試みも続けられている。
 魯山人は長年の美食生活を通して断言した。ふぐは何物にも替え難い「絶味も絶味」で、安全な料理が確立されているのに食べないのは「非常識でもある」と。しかし、高級食材だけに、なかなか手が出ない。「ふぐは食いたし財布は軽し」が恨めしい。