暴力団関係者の献金問題がくすぶる中
前原誠司外相は3月6日夜、政治資金規正法が禁止している外国人から政治献金を受けていた問題の責任を取り辞任する意向を、記者会見で明かした。その直前に菅直人首相と首相公邸で会談、「国政を停滞させるわけにはいかない」と辞意を伝えたという。
この献金問題は、京都市内にある前原氏の政治団体の報告書に、05年以降、同市内に住む在日外国人の女性から毎年5万円ずつ、計20万円の献金を受けたことが記載されていることから発覚した。
それにしても、3月4日、この問題を参議院予算委員会で追及された前原外相の国会答弁はちょっとおかしかった。政治資金規正法違反の罰則を受けるかどうかは、献金を受けた経緯や、前原氏にその認識があったかどうかが、焦点になる。もう少し粘る気があるのであれば、今事実関係を調査中であるなどとと言い張って余計なことをいわないものだ。
ところが、しょっぱなから、前原外相は、献金した女性が中学2年からの知り合いの「焼肉屋のおばちゃん」で、在日であることも知っていたと答弁したのである。前原外相の声はうわずり、とても冷静な対応ではなかった。
たしかに西田参議院議員の追求は厳しかったが、ここまで国会で言っては、とても単なる事務処理ミスとはいいがたいだろう。
政治資金規正法第二十二条の五「何人も、外国人、外国法人又はその主たる構成員が外国人若しくは外国法人である団体その他の組織から、政治活動に関する寄附を受けてはならない」の故意違反は、公民権停止までありえると責められると、前原外相は「まずは全体像を把握してから」などと防戦一方だった。
その後、国会が終わってから、福田康夫元首相が北朝鮮系の企業から献金を受けていたと前原外相は反論した。しかし、福田元首相は相手が北朝鮮系企業とは認識していなかったことから、前原外相の場合と事情はかなり違う。
「暴力団関係者の献金追及」への幕引きを図った
とはいえ、前原氏自身がその座にしがみつくるもりならば、もっと粘ることができたはずだ。前原外相自身は「焼き肉屋のおばちゃん」からの献金が辞任の理由だと説明しているが、これほどあっさりと辞任を決めたホンネは何か。
菅政権から好意的にみれば、同じ日に野田財務相、蓮舫行政刷新相とともに指摘された脱税企業からの献金への波及を防いだとみれる。その関係者は暴力団関係者という。3閣僚が政治とカネの問題で責められば、菅政権全体への大きなダメージになる。また前原氏はこの暴力団関係者との関係を探られたくないため、早々に幕引きにかかったという見方もある。
しかし、それ以上に前原外相のホンネは、菅政権と心中する気はなく、早々と逃げ出したかったということではないか。
菅政権は、反小沢という一点だけで結束しているもののの、政権維持だけが目的化し、その内情は脆弱だ。予算案が参議院に回り、連日野党の攻撃を受け、それがテレビなどで報道されると、政権支持率は釣瓶落しに下がっていく。統一地方選を控えて、地方組織が浮き足立って、民主党内から崩壊しだしている。
前原外相献金問題でも、すぐに民主党内の非主流派から外相辞任という声が出てきた。
さらに、前原氏は「ポスト菅一番手」ともいわれてきたが、ここにきて党内実力者の仙谷由人前官房長官の意向は、前原外相ではなく野田財務相だといわれている。だから、脱税企業からの献金で野田財務相に貸しを作りつつ、自らやめた方が菅政権の泥船から脱出できて得策だという判断があっても不思議ではない。ポスト菅は野田財務相にゆずり、その次を狙うという計算もあるのではないか。
いずれにせよ、執行部も崩壊し始めているだ。
透明なパネルを使って藤井氏の署名を照合
国会はどうなるのか。参議院での野党自民党は論客揃いで威勢がいい。4日、世耕弘成参議院議員は、細川律夫厚労相に対して年金の「運用3号」問題を追求し、細川厚労相はダウン寸前だった。山本一太参議院議員の前原外相に対する竹島の「不法占拠」かどうかの質問も鋭かった。
また森雅子氏は、小沢一郎元代表が党首時代に自由党の2002年の組織活動費約15億円が当時幹事長だった藤井氏あてに支出され、使途不明になったとされる問題について、透明なパネルを使い、藤井氏が自身のものと認めた別の書類の署名とその領収書の署名を重ね合わせてみせた。その結果、これまでは「署名は自分が書いたかどうか分からない」と曖昧にしていた藤井氏に、「私が書いたものではない」と断言させた。
前原外相の次は、細川厚労大臣か藤井副長官か。ドミノ倒しが起きれば、そのまま政権崩壊に向かうことになる。
西田議員は、4日の質問の最後に、デフレ脱却のための集中審議を要求した。菅政権は政治とカネの問題でボロボロになっいるのに加え、政策面での行き詰まりもでてきた。デフレ問題では民主党内では執行部と非主流派で意見がバラバラなのである。
菅首相は6日の会談で、前原外相に「絶対に守るから」と考えなすように迫ったが、結局、最後は逃げられてしまった。会談直後の会見で、菅首相は涙目になりながら、前原外相の進退にはふれなかった。
外相辞任は、こうした状況を見越した前原氏の泥船脱出。閣僚が逃げ出すようになれば政権崩壊は早い。