アノニマス(Anonymous)
中東・北アフリカ騒乱で体制側を追い込んだ、覆面ハッカー集団「アノニマス」の正体!
反政府運動を阻止しようと、エジプト政府が国内でのツイッターやフェイスブックへのアクセスを遮断した1月26日、国境なきハッカー集団のアノニマス(Anonymous、「匿名」という意味)は、エジプト政府への攻撃準備を始めていた。
ツイッターなどは数日後に復旧したものの、エジプト政府と内務省、通信・情報技術省のサイトはDDoS攻撃(標的サイトに大量のデータを送信し機能を停止させる「分散型サービス拒否攻撃」)にさらされて利用不可能な状態に陥った。アノニマスは、「われわれは、言論の自由を脅かす検閲行為には容赦しない」とサイトに宣言を残した。
アノニマスの名前が広く知られるようになったのは、昨年、同集団がウィキリークスを後方支援するために行った「オペレーション・ペイバック」によってである。
昨秋、アメリカ国務省の外交公電を多数暴露したウィキリークスとの関わりを断つために、マスターカード、ビザ、ペイパル、アマゾンなどがウィキリークスの寄付金集めやサーバ利用のサービスを中止した。その処置に怒ったアノニマスは、復讐のためにやはりこれらのサイトにDDoS攻撃を仕掛け、いくつかのサイトをダウンさせた。これは、謎の集団アノニマスの組織力と行動力を示す出来事となった。
では、アノニマスとは何者なのか。じつは、もともとは4chanという英語圏の掲示板サイトのメンバーが中心となって組織化されたといわれている。4chanは、日本の2チャンネルを模倣してつくられたサイトで、マンガ、アニメといったスレッドでメンバーがおしゃべりしているような場所だ。
アノニマスも最初は愉快犯的なハッカー行為を行う集まりだったが、オペレーション・ペイバックあたりからメキメキと使命感を帯び始めた。
インターネットの自由を脅かす組織や、人権を擁護しない国家や組織に対してサイバー攻撃をする。ハッカーとしての知能を最大限に利用して、これまでにない方法で戦う「正義の味方」という立ち位置だ。
一説によると、アノニマスの典型的なメンバーは18歳から24歳の「ニキビ面の青少年たち」だという。1月末にオペレーション・ペイバックに絡んで5人がイギリスで逮捕されたが、それぞれ15歳、16歳、19歳、20歳、26歳の男性だった。アノニマスのメンバーは、公の場に登場する際には髭をはやした妙な仮面をかぶって正体がわからないようにするのが特徴だ。その写真を見ると、女性も少なからず含まれてるようだ。
アノニマスはゆるくつながった集団で、総勢は1000人強といわれる。組織構造としては、友達のつながりのような水平的なものだが、最近はメンバーの関心ごとによってある程度の指令系統のようなものも見られるという。
オペレーション・ペイバックやエジプト関連の攻撃を除くと、チュニジアやジンバブエ、イランの反政府運動への支援、教徒に暴行を加えたとされる新興宗教への攻撃、アメリカ映画協会およびレコード協会への攻撃などが、アノニマスによるものとされている。
最近では、「アノニマスのトップメンバーの正体を知っている」とし、これをFBIに売る予定と発表したセキュリティ会社HBゲーリー・フェデラルのサイトが攻撃を受け、同社の社内メール66000件が暴露された。セキュリティ会社としての面目丸つぶれというところだ。同社のCEOはその後、アノニマスの正体を発表することになっていた会議への参加を取りやめている。
アノニマスの攻撃は、参加するメンバーがソフトウェアをダウンロードすることで簡単に行えるようになっている。ダウンロードされたソフトウェアは、指令システムに接続され、特定サイトに対して一斉にアクセスを行いサイトをパンクさせるという仕組みだ。ただし、攻撃元がわからないようにするためには、自身のIPアドレスを隠す方策も必要で、中にはそんな知識のないままに攻撃に加わっている参加者もいるという。
組織的な観点から見ると、アノニマスはまさに現代的なグループだ。正式な体制や構造はなく、ボランタリーなメンバーがその都度目的によって組織化される。
DDoSのソフトウェアがダウンロードされたのは何万回にも上り、中心メンバーと周辺メンバー、その他の随時参加者というコミットメントの強弱も存在する。インターネットによって結ばれた国境を越えた専門集団のあり方として、興味深いものであることは確かだ。ただし、アノニマスを騙った他のサイト攻撃も見受けられるようになり、真正を証明することが困難という弱点も抱えている。
さて、アノニマスの行為は罪か。
アメリカでもすでに40件の関係者の家宅捜索が行われているという。イギリスの5人のメンバーの弁護を担当する弁護士は、「アノニマスの行動は、座り込みと同様の害のないもの」という主張を貫く予定だという。