ニューズウィーク日本版 10月1日(金)15時20分配信
ウィキペディアやブログの失速で見えてきた「ソーシャルメディア」の転換点
トニー・ダコプル、アンジェラ・ウー
2009年の春は、インターネットの歴史の一大転換点だったのかもしれない。オンライン百科事典ウィキペディアの勢いに、陰りが見え始めたのだ。
03年に10万件だった記事数が現在は全言語版合計で1600万件を突破するなど、ウィキペディアは急成長を遂げてきた。しかし09年春、創設以来おそらく初めてのことが起きた。記事の執筆・事実確認・更新を無償で行うボランティア編集者の人数が大幅に減少したのだ。
その後も記事の執筆・更新は振るわないままだと、ウィキペディアを運営する非営利団体ウィキメディア財団の広報担当者は認める。状況は「極めて深刻」だという。
原因については、さまざまな仮説が唱えられている。ウィキペディアが百科事典としてほぼ完成したからだという説もある。一部のボランティア編集者のあまりに攻撃的な編集姿勢や、「荒らし」防止のための複雑過ぎるルールのせいで、気軽に参加できなくなったからだという説もある。
このような説は、もっと根本的な人間の性質を見落としている。ほとんどの人間は、「ただ働き」なんてしたくないのだ。
「誰もが情報を発信できる」「大勢のアマチュアが協力すれば世界を変えられる」という理念には、多くの人が魅力を感じる。しかし仕事を終えて疲れて帰宅すれば、インターネットを通じて世界に貢献するよりは、かわいい子猫の動画を見たり、安い航空券を売っている業者を探したりしたい。
その点は、ウィキペディア側もよく心得ている。今後展開していく新しい勧誘キャンペーンでは、オンライン上に人類の知識を集積することの崇高な意義だけを訴えるつもりはない。大学の授業の課題の一環として、学生にウィキペディアの執筆・編集に参加してもらおうと考えている。そのために既に、ジョージ・ワシントン大学やプリンストン大学などの8人の大学教授と合意を交わした。
■ユーザーに広がる倦怠感
一般のユーザーが情報を発信して主体的に関わる「ソーシャルメディア」は世界を変える可能性を秘めている、その変革のプロセスはまだ始まったばかりだ──テクノロジー系のジャーナリストはそう言い続けてきた。
なるほど、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)のフェースブックは、「幽霊会員」を除いても5億人のユーザーがいるという。オンライン写真共有サイトのフリッカーには、約40億枚の写真が投稿されている。動画投稿サイトのYouTubeの勢いもとどまるところを知らない。
見落とせないのは、これらのサービスがユーザーに明確な恩恵を提供していることだ。時間と手間をかける代わりに、友達と手軽に連絡を取り合ったり、オンラインゲームを楽しんだり、赤ん坊の写真を親戚や友人に見せたり、ファッションモデルがステージから転げ落ちる動画を見たりできる。
この条件を満たすものを別にすると、インターネットへのユーザーの主体的な参加を前提とするソーシャルメディアには、このところ元気がなく見えるものが多い。
これまでは、インターネットが比較的新しいテクノロジーで、ユーザーがいわば集団的な熱狂状態にあった。そのおかげで、オンライン百科事典の記事を書くような作業が新鮮で、格好よくて、楽しいものに思えた。
しかし今や、アメリカの全世帯の3分の2がインターネットに接続している時代だ。「共通の善」のために無償で奉仕するという発想はやや色あせて見え、ネット上の活動に参加することが退屈に感じられるようになった。
■書き込むのは10人に1人
そうした倦怠感はさまざまな場面に表れている。アマチュアユーザーが執筆するブログは、「誰でも情報発信できる」というインターネットの民主的な性格を象徴するものとして早い時期に脚光を浴びたが、ここにきて衰退の兆候が表れ始めている。
ブログ専門検索サイトのテクノラティによれば、プロのブロガーは増えているが、趣味でブログを書く人は減っている。ブログの約95%は、開設されてすぐに更新されなくなるという。民間調査機関ピュー財団の最近の調査によると、アメリカの18~24歳の層で自分を「ブロガー」と位置付けている人の割合は、06年から09年の3年間で半分に減った。
ミニブログサービスのツイッターにユーザーが流れた面もあるだろう。しかし、ツイッターに実際に書き込んでいる人は意外に少ないのかもしれない。09年のハーバード大学の調査によると、ツイッターのすべての書き込みの90%はわずか10%のユーザーの投稿だという。ツイッター利用者のほとんどは、ほかの人の書き込みを読んでいるだけなのだ。
ピュー財団の調査によると、ニュース記事や意見記事を書いて投稿した経験があると答えたインターネット利用者は、10人に1人に満たない。ブログやウェブサイトのコメント欄に書き込んだ経験がある人は、わずか4人に1人だ。
一般ユーザーの無償の活動に頼ってきたウェブサイトは、ユーザーのつなぎ留めに躍起になっている。しかし、ユーザーの争奪戦は激しくなるばかりだ。「資源、つまりユーザーの数は限られているのに、それを活用する場の数は昔に比べてはるかに増えている」と、ミシガン州立大学のクリフ・ランピ助教授(オンライン・コミュニケーション)は言う。
賢明なウェブサイトは、既に対応し始めている。テクノロジー系ニュースサイトのディグは、ユーザーの投票によりトップページの掲載記事を決める方針で人気を集めている。しかし読者は大勢獲得できたものの、記事の投票を行うユーザー数は伸び悩んでいた。そこで年内にサイトを刷新し、サイト上で友達と交流する機能を取り入れることでユーザーを呼び込もうと考えている。
■カギを握るのは「ご褒美」
オンラインショッピングサイトのアマゾンや、店舗の口コミ情報サイトのイエルプ、製品レビューサイトのEピニオンズなど、アマチュアが無報酬で寄せるレビューに依存しているウェブサイトは、レビューアーに何らかの「ご褒美」を与える仕組みを取り入れている。イエルプは、レビューをたくさん投稿したユーザーを招いてパーティーを行っている。
ゴーカーやハフィントン・ポストなど、読者のコメントが売りもののニュースサイトでは、優れたコメントを寄せるユーザーに、星印による評価や特権を与えるなどしている。YouTubeも、カーネギーホールで演奏したりグッゲンハイム美術館に作品を展示したりするチャンスを呼び水にして、投稿を促そうとしている。
効果はある。ゴーカーが星印によるユーザーの評価制度を導入して、「星付き」ユーザーのコメントをサイト上で目立ちやすくしたところ、コメント欄への書き込み量が過去最高を記録した。
とりわけ優れたユーザーにさまざまな特権(ほかのユーザーの書き込みを削除する権利など)を認めているハフィントン・ポストは、どのニュースサイトよりコメント欄への書き込みが活発だと胸を張る。イエルプは、3カ月に100万件のペースで新しいレビューが投稿されていると言う。
「ご褒美」を使ってユーザーの参加を促す仕組みは、今後ますます重要になるだろう。従来インターネットがあまり普及していなかった国や地域にサービスを拡大しようと思えば、なおさらだ。
09年、グーグルはアフリカ東部地域で「キスワヒリ・ウィキペディア・チャレンジ」というプロジェクトを始めた。ウィキペディアにスワヒリ語の記事を増やすために、インターネット接続用のモデムや携帯電話、ノートパソコンなどのプレゼントを用意したのだ。
この活動は成果を挙げた。『クラウドソーシング──みんなのパワーが世界を動かす』の著者ジェフ・ハウが06年に指摘したように、ソーシャルメディアの世界で勝者になる条件は、「十分に報われているとユーザーに感じさせる方程式を確立する」ことのようだ。
やがて星印やプレゼントだけでなく、現金を配る日が来るのかもしれない。それでは投稿が仕事と変わらなくなる気もするが。
*ボランティアがウィキペディアから“ログオフ”!
2009年 11月 23日 1:00 JST
毎月3億2500万人が訪れ、アクセスランキング世界第5位を誇るユーザー参加型オンライン事典Wikipedia.org(ウィキペディア)は、これまでにないほどのボランティア編集者の減少という事態に見舞われている。
これはウィキペディアがインターネット上で普及させてきたアマチュアの地位向上という大衆化の旗印に重大な影響を及ぼす可能性がある。
ウィキペディアのデータを分析する、マドリード(スペイン)のレイ・ファン・カルロス大学の調査グループ、リベロソフト(Libresoft)のプロ ジェクト・マネジャー、フェリペ・オルテガ氏によると、2009年の最初の3カ月で編集者は4万9000人以上減少した。1年前の同じ期間では4900人の減少だったという。
ウィキペディアは世界中の人々がアクセスできる「全人類の知識の結集」を目指し、2001年、非営利団体の 「Wikimedia Foundation」(ウィキメディア財団)によって設立された。誰もが新規記事の執筆や既存の項目の編集を行えるシステムを採用し、大勢のボランティ ア編集者を参加させ、世界規模で利用者数を拡大することに成功した。米国の市場調査会社コムスコアによると、昨年9月からの一年間で、ウィキペディアの訪 問者数は約20%増加している。
訪問者が増加する一方で、ウィキペディアを支えるボランティア編集者が減少している状況に対し、同サイトが今後も拡大し続けることができるのか、 正確性を改善することができるのかという疑問が生じている。ウィキペディアは不正確な情報の表示や、悪意ある投稿者による意図的な虚偽情報の掲載によって、その信頼性が損なわれるという事態にも直面している。
「ウィキペディアを取り巻く環境はますます厳しいものになってきている」とオルテガ氏は指摘する。「オンライン・ボランティアの多くは、特定の記事の内容について、繰り返し議論しなければならないことに疲れ果てている」
ウィキペディアの苦戦は、インターネット時代の最も有望な理念である「クラウドソーシング」の発展にも影を落としている。クラウドソーシングは、大勢のウェブ利用者の知識を集約させる、従来の規則や階層にとらわれない優れた方法として広く紹介されてきた。
だが、ウィキペディアは成熟するにつれて、自由な発言が制限されるようになり、多くのウェブページに規則が明記されるようになった。ゼロックス社 の研究者の調査によると、記事を編集しようとする新規訪問者は、無意識に規則違反を犯す可能性がある者として通知され、編集箇所が削除される、というケースが増えているという。
ウィキペディアの創設者であり、ウィキメディア財団の名誉理事であるジミー・ウェールズ氏は、新規訪問者に対する敵対的な態度は是正できる問題だとした上で、自らの最優先事項は記載内容の正確さを期することだと述べた。そして新しい記事を掲載する前に、上級編集者に承認を得ることを要求している。そうすることで今年1月に発生した、エドワード・ケネディ米上院議員の死を実際よりかなり前に掲載するという蛮行は防げるはずだとしている。
ウィキペディアは、誰にでも編集可能とすることで、中立的なコンセンサスのみを掲載することを目指してきた。だが、広く普及したことで、この中立性が損なわれる結果になっている。落書き、冷やかし、宣伝といったあらゆる荒らし行為のターゲットになってしまったのだ。
南カリフォルニア大学の教授で「ウィキペディア・レボリューション」の著者でもあり、自身もウィキペディアの定期的な投稿者でもあるアンド リュー・リー氏によると、2005年、米国のジャーナリスト、ジョン・シーゲンソーラー氏がジョン・F・ケネディおよびロバート・ケネディの暗殺事件にかかわっていた可能性を示唆する事実と異なる記述が4カ月にわたって放置される事件が発生し、ウィキベディアのオンライン編集者はそれ以降、荒らし行為や疑わしい編集行為に対する取締りを強化するようになったという。
それによって、同サイトはボランティア編集者が新規則を多数設けることを協議しなければならないような階層社会的なものへと変化し、新規訪問者が話題性の高い記事を編集できないようにする機能も導入した。その結果、以前のように新規訪問者が自由に記事を作成できることで人気を博していた時期から大きな転換を迎えることになった。
財団が昨年実施した調査によると、編集者の平均年齢は26.8歳で、87%が男性であるという。
ウィキメディア財団の対外活動責任者であるフランク・シュレンブルグ氏は、新規ボランティア編集者のために基本規則を一箇所に集約する「ブックシェルフ(bookshelf)という取り組みを進め、編集者の減少に歯止めをかけ、増加に持ち込みたい考えだ。
毎年、世界各地のウィキペディアの執筆者や編集者が集まって開催される国際会議Wikimania(ウィキマニア)の議題のトップは、この5年ほど「ウィキペディアは絶滅寸前」だという。
原文: Volunteers Log Off as Wikipedia Ages
*Wikipedia運営団体、「ボランティア編集者激減」の報道に反論!
「Wikipediaのボランティア編集者の減少が拡大している」とする報道に対し、Wikimedia Foundationは、ボランティア編集者の数は安定しているとコメントしている。
2009年11月27日 15時31分 更新
「Wikipediaのボランティア編集者が激減している」とする報道に対し、Wikipediaを運営するWikimedia Foundationがコメントを発表した。編集者の数は安定していると反論している。
このコメントは、Wikipediaのボランティア編集者の減少が拡大していると報じたWall Street Journalの記事 を受けてのもの。同紙が引用したスペインの研究者フェリペ・オルテガ氏の調査によると、英語版Wikipediaのボランティア編集者は2009年第1四半期に4万9000人減少した。これに対して前年の同じ時期は4900人の減少だった。
しかしWikimedia Foundationは、同財団の統計では、ボランティア編集者の数は2年半前をピークに減少したが、その後は安定していると主張している。また読者数と記事数は増えているとも語っている。
また同財団は、オルテガ氏の調査手法について幾つかの指摘をしている。同氏の調査では、1回でも投稿した人を編集者としてカウントしており、この方式だとWikipedia全体(すべての言語版)で300万人の編集者がいることになる。同財団は5回以上投稿した人を編集者と定義しており、編集者は全部で100万人弱になるという。
さらにオルテガ氏の調査では、1カ月間の編集者数ではなく、ボランティア編集者がいつ投稿を始め、いつやめたか(ログアウト日を「最後の投稿」と定義)を測定している。Wikimedia Foundationは、この手法では長期的なトレンドを測定するのは難しいと指摘している。
Wikimedia Foundationの統計では、英語版Wikipediaのアクティブ編集者(1カ月に5件以上投稿)は2007年3月に5万4510人とピークに達し、その後およそ25%減少し、この1年は4万人程度で推移している。この間にほかの言語版のWikipediaの多くでは編集者が増えており、「全体では、編集の数はここ数年、高いレベルで安定して推移している」という。
しかし同財団は最後に、Wikipediaの内容を充実させるにはもっと多くの編集者が必要だとし、「今よりも大幅に編集者を増やしたい」と話している。
ウィキペディアやブログの失速で見えてきた「ソーシャルメディア」の転換点
トニー・ダコプル、アンジェラ・ウー
2009年の春は、インターネットの歴史の一大転換点だったのかもしれない。オンライン百科事典ウィキペディアの勢いに、陰りが見え始めたのだ。
03年に10万件だった記事数が現在は全言語版合計で1600万件を突破するなど、ウィキペディアは急成長を遂げてきた。しかし09年春、創設以来おそらく初めてのことが起きた。記事の執筆・事実確認・更新を無償で行うボランティア編集者の人数が大幅に減少したのだ。
その後も記事の執筆・更新は振るわないままだと、ウィキペディアを運営する非営利団体ウィキメディア財団の広報担当者は認める。状況は「極めて深刻」だという。
原因については、さまざまな仮説が唱えられている。ウィキペディアが百科事典としてほぼ完成したからだという説もある。一部のボランティア編集者のあまりに攻撃的な編集姿勢や、「荒らし」防止のための複雑過ぎるルールのせいで、気軽に参加できなくなったからだという説もある。
このような説は、もっと根本的な人間の性質を見落としている。ほとんどの人間は、「ただ働き」なんてしたくないのだ。
「誰もが情報を発信できる」「大勢のアマチュアが協力すれば世界を変えられる」という理念には、多くの人が魅力を感じる。しかし仕事を終えて疲れて帰宅すれば、インターネットを通じて世界に貢献するよりは、かわいい子猫の動画を見たり、安い航空券を売っている業者を探したりしたい。
その点は、ウィキペディア側もよく心得ている。今後展開していく新しい勧誘キャンペーンでは、オンライン上に人類の知識を集積することの崇高な意義だけを訴えるつもりはない。大学の授業の課題の一環として、学生にウィキペディアの執筆・編集に参加してもらおうと考えている。そのために既に、ジョージ・ワシントン大学やプリンストン大学などの8人の大学教授と合意を交わした。
■ユーザーに広がる倦怠感
一般のユーザーが情報を発信して主体的に関わる「ソーシャルメディア」は世界を変える可能性を秘めている、その変革のプロセスはまだ始まったばかりだ──テクノロジー系のジャーナリストはそう言い続けてきた。
なるほど、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)のフェースブックは、「幽霊会員」を除いても5億人のユーザーがいるという。オンライン写真共有サイトのフリッカーには、約40億枚の写真が投稿されている。動画投稿サイトのYouTubeの勢いもとどまるところを知らない。
見落とせないのは、これらのサービスがユーザーに明確な恩恵を提供していることだ。時間と手間をかける代わりに、友達と手軽に連絡を取り合ったり、オンラインゲームを楽しんだり、赤ん坊の写真を親戚や友人に見せたり、ファッションモデルがステージから転げ落ちる動画を見たりできる。
この条件を満たすものを別にすると、インターネットへのユーザーの主体的な参加を前提とするソーシャルメディアには、このところ元気がなく見えるものが多い。
これまでは、インターネットが比較的新しいテクノロジーで、ユーザーがいわば集団的な熱狂状態にあった。そのおかげで、オンライン百科事典の記事を書くような作業が新鮮で、格好よくて、楽しいものに思えた。
しかし今や、アメリカの全世帯の3分の2がインターネットに接続している時代だ。「共通の善」のために無償で奉仕するという発想はやや色あせて見え、ネット上の活動に参加することが退屈に感じられるようになった。
■書き込むのは10人に1人
そうした倦怠感はさまざまな場面に表れている。アマチュアユーザーが執筆するブログは、「誰でも情報発信できる」というインターネットの民主的な性格を象徴するものとして早い時期に脚光を浴びたが、ここにきて衰退の兆候が表れ始めている。
ブログ専門検索サイトのテクノラティによれば、プロのブロガーは増えているが、趣味でブログを書く人は減っている。ブログの約95%は、開設されてすぐに更新されなくなるという。民間調査機関ピュー財団の最近の調査によると、アメリカの18~24歳の層で自分を「ブロガー」と位置付けている人の割合は、06年から09年の3年間で半分に減った。
ミニブログサービスのツイッターにユーザーが流れた面もあるだろう。しかし、ツイッターに実際に書き込んでいる人は意外に少ないのかもしれない。09年のハーバード大学の調査によると、ツイッターのすべての書き込みの90%はわずか10%のユーザーの投稿だという。ツイッター利用者のほとんどは、ほかの人の書き込みを読んでいるだけなのだ。
ピュー財団の調査によると、ニュース記事や意見記事を書いて投稿した経験があると答えたインターネット利用者は、10人に1人に満たない。ブログやウェブサイトのコメント欄に書き込んだ経験がある人は、わずか4人に1人だ。
一般ユーザーの無償の活動に頼ってきたウェブサイトは、ユーザーのつなぎ留めに躍起になっている。しかし、ユーザーの争奪戦は激しくなるばかりだ。「資源、つまりユーザーの数は限られているのに、それを活用する場の数は昔に比べてはるかに増えている」と、ミシガン州立大学のクリフ・ランピ助教授(オンライン・コミュニケーション)は言う。
賢明なウェブサイトは、既に対応し始めている。テクノロジー系ニュースサイトのディグは、ユーザーの投票によりトップページの掲載記事を決める方針で人気を集めている。しかし読者は大勢獲得できたものの、記事の投票を行うユーザー数は伸び悩んでいた。そこで年内にサイトを刷新し、サイト上で友達と交流する機能を取り入れることでユーザーを呼び込もうと考えている。
■カギを握るのは「ご褒美」
オンラインショッピングサイトのアマゾンや、店舗の口コミ情報サイトのイエルプ、製品レビューサイトのEピニオンズなど、アマチュアが無報酬で寄せるレビューに依存しているウェブサイトは、レビューアーに何らかの「ご褒美」を与える仕組みを取り入れている。イエルプは、レビューをたくさん投稿したユーザーを招いてパーティーを行っている。
ゴーカーやハフィントン・ポストなど、読者のコメントが売りもののニュースサイトでは、優れたコメントを寄せるユーザーに、星印による評価や特権を与えるなどしている。YouTubeも、カーネギーホールで演奏したりグッゲンハイム美術館に作品を展示したりするチャンスを呼び水にして、投稿を促そうとしている。
効果はある。ゴーカーが星印によるユーザーの評価制度を導入して、「星付き」ユーザーのコメントをサイト上で目立ちやすくしたところ、コメント欄への書き込み量が過去最高を記録した。
とりわけ優れたユーザーにさまざまな特権(ほかのユーザーの書き込みを削除する権利など)を認めているハフィントン・ポストは、どのニュースサイトよりコメント欄への書き込みが活発だと胸を張る。イエルプは、3カ月に100万件のペースで新しいレビューが投稿されていると言う。
「ご褒美」を使ってユーザーの参加を促す仕組みは、今後ますます重要になるだろう。従来インターネットがあまり普及していなかった国や地域にサービスを拡大しようと思えば、なおさらだ。
09年、グーグルはアフリカ東部地域で「キスワヒリ・ウィキペディア・チャレンジ」というプロジェクトを始めた。ウィキペディアにスワヒリ語の記事を増やすために、インターネット接続用のモデムや携帯電話、ノートパソコンなどのプレゼントを用意したのだ。
この活動は成果を挙げた。『クラウドソーシング──みんなのパワーが世界を動かす』の著者ジェフ・ハウが06年に指摘したように、ソーシャルメディアの世界で勝者になる条件は、「十分に報われているとユーザーに感じさせる方程式を確立する」ことのようだ。
やがて星印やプレゼントだけでなく、現金を配る日が来るのかもしれない。それでは投稿が仕事と変わらなくなる気もするが。
*ボランティアがウィキペディアから“ログオフ”!
2009年 11月 23日 1:00 JST
毎月3億2500万人が訪れ、アクセスランキング世界第5位を誇るユーザー参加型オンライン事典Wikipedia.org(ウィキペディア)は、これまでにないほどのボランティア編集者の減少という事態に見舞われている。
これはウィキペディアがインターネット上で普及させてきたアマチュアの地位向上という大衆化の旗印に重大な影響を及ぼす可能性がある。
ウィキペディアのデータを分析する、マドリード(スペイン)のレイ・ファン・カルロス大学の調査グループ、リベロソフト(Libresoft)のプロ ジェクト・マネジャー、フェリペ・オルテガ氏によると、2009年の最初の3カ月で編集者は4万9000人以上減少した。1年前の同じ期間では4900人の減少だったという。
ウィキペディアは世界中の人々がアクセスできる「全人類の知識の結集」を目指し、2001年、非営利団体の 「Wikimedia Foundation」(ウィキメディア財団)によって設立された。誰もが新規記事の執筆や既存の項目の編集を行えるシステムを採用し、大勢のボランティ ア編集者を参加させ、世界規模で利用者数を拡大することに成功した。米国の市場調査会社コムスコアによると、昨年9月からの一年間で、ウィキペディアの訪 問者数は約20%増加している。
訪問者が増加する一方で、ウィキペディアを支えるボランティア編集者が減少している状況に対し、同サイトが今後も拡大し続けることができるのか、 正確性を改善することができるのかという疑問が生じている。ウィキペディアは不正確な情報の表示や、悪意ある投稿者による意図的な虚偽情報の掲載によって、その信頼性が損なわれるという事態にも直面している。
「ウィキペディアを取り巻く環境はますます厳しいものになってきている」とオルテガ氏は指摘する。「オンライン・ボランティアの多くは、特定の記事の内容について、繰り返し議論しなければならないことに疲れ果てている」
ウィキペディアの苦戦は、インターネット時代の最も有望な理念である「クラウドソーシング」の発展にも影を落としている。クラウドソーシングは、大勢のウェブ利用者の知識を集約させる、従来の規則や階層にとらわれない優れた方法として広く紹介されてきた。
だが、ウィキペディアは成熟するにつれて、自由な発言が制限されるようになり、多くのウェブページに規則が明記されるようになった。ゼロックス社 の研究者の調査によると、記事を編集しようとする新規訪問者は、無意識に規則違反を犯す可能性がある者として通知され、編集箇所が削除される、というケースが増えているという。
ウィキペディアの創設者であり、ウィキメディア財団の名誉理事であるジミー・ウェールズ氏は、新規訪問者に対する敵対的な態度は是正できる問題だとした上で、自らの最優先事項は記載内容の正確さを期することだと述べた。そして新しい記事を掲載する前に、上級編集者に承認を得ることを要求している。そうすることで今年1月に発生した、エドワード・ケネディ米上院議員の死を実際よりかなり前に掲載するという蛮行は防げるはずだとしている。
ウィキペディアは、誰にでも編集可能とすることで、中立的なコンセンサスのみを掲載することを目指してきた。だが、広く普及したことで、この中立性が損なわれる結果になっている。落書き、冷やかし、宣伝といったあらゆる荒らし行為のターゲットになってしまったのだ。
南カリフォルニア大学の教授で「ウィキペディア・レボリューション」の著者でもあり、自身もウィキペディアの定期的な投稿者でもあるアンド リュー・リー氏によると、2005年、米国のジャーナリスト、ジョン・シーゲンソーラー氏がジョン・F・ケネディおよびロバート・ケネディの暗殺事件にかかわっていた可能性を示唆する事実と異なる記述が4カ月にわたって放置される事件が発生し、ウィキベディアのオンライン編集者はそれ以降、荒らし行為や疑わしい編集行為に対する取締りを強化するようになったという。
それによって、同サイトはボランティア編集者が新規則を多数設けることを協議しなければならないような階層社会的なものへと変化し、新規訪問者が話題性の高い記事を編集できないようにする機能も導入した。その結果、以前のように新規訪問者が自由に記事を作成できることで人気を博していた時期から大きな転換を迎えることになった。
財団が昨年実施した調査によると、編集者の平均年齢は26.8歳で、87%が男性であるという。
ウィキメディア財団の対外活動責任者であるフランク・シュレンブルグ氏は、新規ボランティア編集者のために基本規則を一箇所に集約する「ブックシェルフ(bookshelf)という取り組みを進め、編集者の減少に歯止めをかけ、増加に持ち込みたい考えだ。
毎年、世界各地のウィキペディアの執筆者や編集者が集まって開催される国際会議Wikimania(ウィキマニア)の議題のトップは、この5年ほど「ウィキペディアは絶滅寸前」だという。
原文: Volunteers Log Off as Wikipedia Ages
*Wikipedia運営団体、「ボランティア編集者激減」の報道に反論!
「Wikipediaのボランティア編集者の減少が拡大している」とする報道に対し、Wikimedia Foundationは、ボランティア編集者の数は安定しているとコメントしている。
2009年11月27日 15時31分 更新
「Wikipediaのボランティア編集者が激減している」とする報道に対し、Wikipediaを運営するWikimedia Foundationがコメントを発表した。編集者の数は安定していると反論している。
このコメントは、Wikipediaのボランティア編集者の減少が拡大していると報じたWall Street Journalの記事 を受けてのもの。同紙が引用したスペインの研究者フェリペ・オルテガ氏の調査によると、英語版Wikipediaのボランティア編集者は2009年第1四半期に4万9000人減少した。これに対して前年の同じ時期は4900人の減少だった。
しかしWikimedia Foundationは、同財団の統計では、ボランティア編集者の数は2年半前をピークに減少したが、その後は安定していると主張している。また読者数と記事数は増えているとも語っている。
また同財団は、オルテガ氏の調査手法について幾つかの指摘をしている。同氏の調査では、1回でも投稿した人を編集者としてカウントしており、この方式だとWikipedia全体(すべての言語版)で300万人の編集者がいることになる。同財団は5回以上投稿した人を編集者と定義しており、編集者は全部で100万人弱になるという。
さらにオルテガ氏の調査では、1カ月間の編集者数ではなく、ボランティア編集者がいつ投稿を始め、いつやめたか(ログアウト日を「最後の投稿」と定義)を測定している。Wikimedia Foundationは、この手法では長期的なトレンドを測定するのは難しいと指摘している。
Wikimedia Foundationの統計では、英語版Wikipediaのアクティブ編集者(1カ月に5件以上投稿)は2007年3月に5万4510人とピークに達し、その後およそ25%減少し、この1年は4万人程度で推移している。この間にほかの言語版のWikipediaの多くでは編集者が増えており、「全体では、編集の数はここ数年、高いレベルで安定して推移している」という。
しかし同財団は最後に、Wikipediaの内容を充実させるにはもっと多くの編集者が必要だとし、「今よりも大幅に編集者を増やしたい」と話している。