忙中閑あり

源氏物語 水彩画 写真、旅 そして時間を追いながらの毎日を書いています。

源氏物語(帚木ー雨夜の品定め19)

2007年03月05日 10時06分35秒 | 源氏物語
19

内裏わたりの旅寝すさまじかるべく、気色ばめる あたりはそぞろ寒くや、
と思ひ たまへられしかば、いかが思へると、気色も見がてら、
雪を打ち払ひつつ、なま人悪ろく爪喰はるれど、さりとも今宵
日ごろの恨みは解けなむ、と思うたまへしに、火ほのかに壁に背け、
萎えたる衣どもの厚肥えたる、大いなる籠にうち掛けて、
引き上ぐべきものの帷子(かたびら)などうち上げて、今宵ばかりやと、
待ちけるさまなり。
さればよと、心おごりするに、正身はなし。さるべき女房どもばかりとまりて、
『親の家に、この夜さりなむ渡りぬる』と答へはべり。

艶なる歌も詠まず、気色ばめる消息もせで、いとひたや籠もりに情け
なかりしかば、あへなき心地して、さがなく許しなかりしも、
我を疎みねと思ふ方の心やありけむと、さしも見たまへざりしことなれど
心やましきままに思ひはべりしに、着るべき物、常よりも心とどめたる
色あひ、しざま いとあらまほしくて、さすがに わが身捨ててむ
後をさへなむ、思ひやり後見たりし。

さりとも、絶えて思ひ放つやうはあらじと思うたまへて、
とかく言ひはべりしを、背きもせずと、尋ねまどはさむとも
隠れ忍びず、かかやかしからず答えつつ、
『ありしながらは、えなむ見過ぐすまじき。あらためてのどかに
思ひならばなむ、あひ見るべき』
など言ひしを、さりともえ思ひ離れじと思ひたまへしかば、
しばし懲らさむの心にて、『しかあらためむ』とも言はず、
いたく綱引きて見せしあひだに、いといたく思ひ嘆きて、
はかなくなりはべりにしかば、戯れにくくなむおぼえはべりし。

ひとへにうち頼みたらむ方は、さばかりにてありぬべくなむ
思ひたまへ出でらるる。
はかなきあだ事をも まことの大事をも、言ひあはせたるに かひなからず、
龍田姫と言はむにもつきなからず、織姫の手にも劣るまじくその方も具して、
うるさくなむはべりし」

とて、いとあはれと思ひ出でたり。中将、

「その織女の裁ち縫ふ方をのどめて、長き契りにぞあえまし。
げに、その龍田姫の錦には、またしくものあらじ。
はかなき花紅葉といふも、をりふしの色あひつきなく、
はかばかしからぬは、露のはえなく消えぬるわざなり。
さあるにより、嘆き世とは定めかねたるぞや」

と言ひはやしたまふ。


宮中に泊まるのも、気乗りがしないし、気取った女の家は何となく
寒くないだろうか、と存じられましたので、どう思っているだろうかと、
様子見がてらに、雪を打ち払いながら、何となく体裁が悪くきまりも
悪く思われるが、いくらなんでも今夜は数日来の恨みも解けるだろうと、
存じましたところ、灯火を薄暗く壁の方に向け、柔らかな衣服の厚いのを、
大きな伏籠にうち掛けて、引き上げておくべき几帳の帷子などは引き上げて
あって、今夜あたりはと、待っていた様子です。
やはりそうであったよと、得意になりましたが、本人が居りません。
しかるべき女房連中だけが残っていて、『親御様の家に、今晩は行きました』
と答えます。
艶やかな和歌も詠まず、思わせぶりな手紙も書き残さず、
もっぱらそっけなく無愛想であったので、拍子抜けした気がして
口やかましく容赦なかったのも、自分を嫌いになってくれ、
と思う気持ちがあったからだろうかと、そのようには
存じられなかったのですが、おもしろくないままそうおもったのですが、
着るべきものがいつもより念を入れた色合いや仕立て方も素晴らしく
やはり離別した後までも、気を配って世話してくれていたのでした。

そうは言っても、すっかり愛想をつかすようなことはあるまいと存じまして
いろいろと言ってみましたが、別れるでもなく、探し出させようと行方を
晦ますのでもなく、きまり悪くないように返事をしいし、ただ、
『以前のような心のままでは、とても我慢ができません。
改心して落ち着くならば、また一緒に暮らしましょう』などと言いましたが、
そうは言っても思い切れまいと存じましたので、少し懲らしめようという
気持ちから『そのように改めよう』とも言わず、ひどく強情を張って見せて
いたところ、とてもひどく思い嘆いて、亡くなってしまいました。
冗談もほどほどにと存じられました。

一途に生涯頼みとするような女性としては、あの程度で確かに良いと
思い出さずにいられません。
ちょっとした風流事でも、

渋谷 栄一著
  GENNJI=MONOGATARIより

御所で宿直するのも侘しいし さりとて 気取った女の処では
ゆっくりと打ち解けて温まる事も出来ないだろうと思いましてね
まあ、こんな雪の中を行けば数日来のギクシャクした気持ちも和んで
くれるだろうと、思いまして出掛けていきました。
(こんな雪の降る中、自分の所に来てくれて嬉しい、自分は愛されている)
と思われると判断したんですね、
行ってみますと寝室の灯りなども、壁に向けて薄暗くしてあり
衣服には柔らかな綿が入っていて、伏し籠に掛けられて暖められていました、
几帳の帷子も上げられて、今夜あたりは来てくれるのではないかと
待っていてくれた様子でした。
やはりそうであったかと、得意になりましたが、
本人が居ないのですよ。
居合わせた女房に聞いてみると『今夜は親御さまの処に行きました。』
と言うのですね。
気の利いた和歌も詠まず、もったいぶった手紙もなくて、無愛想には
拍子抜けしましたよ。
これまで私に、やかましく容赦しなかったのは、私を嫌いになってくれ
と思う気持ちが、あのやきもちだったのかなぁと思ったりしました。
でも着物なんかは何時もより念を入れた出来栄えで
とても素晴らしいのですよ。
喧嘩別れした後も私のことを気に掛けてくれて、暖かい綿の入った
着物を作ってくれたり、世話をやいてくれて、嬉しかったんですよ。

まあ、私にすっかり愛想をつかすことも無いだろうと思って、
その後もよりを戻したくていろいろと言ってみましたが、
別れるでもなく、隠れて姿を見せないわけでもなく、
『以前のような心のままでは我慢で得来ません、改心して
落ち着くなら又一緒に暮らしましょう』なんて言うもんですからね
又少し懲らしめてやろうと思いましてね
『そのように改めよう』とも言わず強情を張ってしまいましたら、
ひどく嘆き悲しんでとうとう亡くなってしまいました。
過ぎた冗談はやめなければいけないと思いましたよ。

生涯を共にするには、あの程度の女が良かったと思い
今でも思い出します。
風流事でも生活上のことでも、相談すれば、それなりの返事を
返してくれました。
染物の技術素晴らしく、龍田姫といっても良いくらいでしたよ、
又着物を縫う腕前も大したもので織姫のような素晴らしい
技術を持っていました。

と言って、しみじみと思い出していた。

中将が

その織姫の話は別としても、長い夫婦でいたかったねぇ。
私もあやかりたいものです、
龍田姫の染物の腕前はさぞ素晴らしかったことだろうね、
この人は大変はっきりした性格の人とだった様だね。
だから「嫉妬」深い性格もはっきりしていて、折り合いを
付けられなかったんだね。
妻を選ぶことは本当に大変なことだね。


秋の紅葉を染め出す程の染物上手を龍田姫
織物上手な人を織姫と書いています。
伏し籠は衣服にお香を炊きこめるときに使う大きな

これを伏せて中に火を置き篭の上に綿の入った
素敵な色合いの文様の入った着物を掛けて、何時来るのか
分からない人の為に暖めていたんですね。
なんて優しい龍田姫なんでしょうね
それなのに、左馬の頭は、なお自分を改めようとせず
我を通して、龍田姫をならくの底に叩き落としてしまいました
龍田姫は悲しみ、落胆してとうとう亡くなってしまいました。
「嫉妬深い女」のお話はこれで終わりです。

次は「浮気な女の物語」ですよ。
左馬の頭は経験豊富ですね。
身分が低いのでチャンスが多いのです。
身分が高くなると、出歩くにもお供連れで、自由には
出来ませんからね。