忙中閑あり

源氏物語 水彩画 写真、旅 そして時間を追いながらの毎日を書いています。

源氏物語(帚木ー雨夜の品定め7)

2006年11月27日 18時25分42秒 | 源氏物語
受領と言ひて、人の国のことにかかづらひ営みて、
品定まりたる中にも、またきざみきざみありて、
中の品のけしうはあらぬ、選りで出でつべきころなり。
なまなまの上達部よりも非参議の四位どもの、
世のおぼえ口惜しからず、もとの根ざし卑しからぬ、
やすらかに身をもてなし ふるまひたる、いとかはらかなりや。

家の内に足らぬことなど、はたなかめるままに、
省かずまばゆきまでもて かしづける女などの、おとしめがたく
生ひ出づるもあまたあるべし。
宮仕へに出で立ちて、思ひかけぬ幸ひとり出づる例ども多かりし」
など言えば

「すべてに、にぎははしきによるべきななり」 とて、笑ひたまふを、

「異人の言はむように、心得ず仰せらる」と、中将憎む。


受領と言って、地方の政治に掛かり切りにあくせくして、階層の定まったなかでも、

また段階段階があって、中の品で悪くはない者を、選び出すことができる時勢です。

なまじっかの上達部よりも非参議の四位連中で、世間の信望もまんざらでなく、

元々生まれも卑しくない人が、あくせくせずに暮らしているのが、いかにも

さっぱりした感じですよ。

暮らしの中で足りないものなどは、やはりないようなのにまかせて、けちらずに、

眩しいほど大切に世話している娘などが、非難のしようがないほどに、

成長しているものも、たくさんいるでしょう。

宮使えに出て来て、思いかけない幸運を得た例などもたくさんあるものです」

などと言う

「およそ、金持ちによるべきだということだね」 と言ってお笑いになる。

「他の人が言うように、意外なことをおっしゃる」 と言って中将が憎らしがる。


       渋谷 栄一著
     GENNJI-MONOGATARIより


「物忌み」とは陰陽道などで、ある期間(6日間)身を謹んで家に籠もること。
この雨夜の品定めは、源氏が物忌みでいるところに、中将、左馬頭、藤式部丞がこれに付き合って、女の人の品定めをしているが
肝心の源氏の君は居眠りしながら聴いているという情景です。
でも本当に寝てるのではなくて、寝ている振りをしながら
皆の話を聴いているんです。

受領は、今で言えば「知事」位の身分です。
命令であれば何処にでも行かなければならず、弱い立場ですが
それでも地方に行けば、一国の長ですから、貢物なども多くお金を
沢山貯めて豊かな生活をしていたということです。
前にも書いたと思いますが、紫式部のお父さんは受領の身分であったと
いわれています。

当時令政では男子15歳、女子13歳以上は結婚を許されていたそうです。
紫式部は宣孝との結婚が28歳29歳ですから、随分の晩婚です。
女盛りは14,5歳位だそうですよ。
29歳になる迄に紫式部もそれなりに、相応の経験があったと考えます。
今井 源衛著 紫式部の中に略年譜があります、その中で23歳の夏に
ある男性と恋愛関係があったと書かれています(西暦992年)。
又円地文子著「源氏物語私見」、のなかで人妻の「空蝉」を追いかける、
迫力ある表現は自らの経験があっての事だろうと言っています。


受領の中に結構素敵な人が多いですよと左馬頭に言わせる、
紫式部って可愛いですね、
自分の事を、それとなく「褒めて」ますもの。

でも源氏の君
「結局はお金持ちでなければいけないということか」と醒めた事を
言います。
きっとお金ではない本当のものがある筈だと思っているんですね。
17歳の青年の潔癖さ、恋愛に対するロマン、女性に対する夢が滲み出ています。

「誰の口真似ですかね、柄にもないことをおっしゃる」と中将が言います。

なお左馬頭は続けます。


源氏物語(帚木ー雨夜の品定め6)

2006年11月21日 21時33分55秒 | 源氏物語
なり上がれども、もとより さるべき筋ならぬは、
世人(よひと)の思へることも、さは言へど、なほことなり。
また、元は やむごとなき筋なれど、
世に経る(ふる)たつき少なく、時世(ときよ)にうつろひて、
おぼえ衰へぬれば、心は心として こと足らず、
悪ろびたることども 出でくるわざ なめれば、
とりどりにことわりて、中の品(なかのしな)にぞ置くべき。


馬頭曰く
なり上がりましても、もともと相応しい家柄でない者は、世間の人の

心証もやはり格別です。

又元は高貴のお家柄でも世間を渡る手ずるが少なければ、

時勢に押し流されて声望も地に落ちてしまうでしょう。

気位だけ高くて思うようにならず、体裁の悪い事などが生じます。

それぞれに分別して中の品に置くのが適当でしょう。


       渋谷 栄一著
        GENNJIーMONOGATARIより



左の馬頭も御物忌みのお伽をしようとやってきました。
源氏の質問に答えて居ます。
「低い身分から出世しても、もともとちゃんとした家柄でない者は、
矢張り世間のひとの見る目は違いますよ。
又、元は高貴な方でも零落してしまえば、心は高くても
暮らしが伴わないでしょう不体裁な事が出てきますから、
両方を考えますと中の品ではないでしょうか。

なーんて、もっともらしく言います。
確かに元は高貴な人で、今は着る物もなく薄汚れた物を着て
古風一点張りに暮らしている、お姫様も居ましたよ。
今は亡き常陸の宮のお姫様です。
源氏が愛した???唯一赤い鼻が垂れ落ちそうな
長い鼻のお姫様「末摘花」なんかがそうです。
こんなお姫様でも源氏は決して見捨てないのですよ。
ちゃんと生活が成り足るように面倒を見ます。
そこが 偉いところですね。

黒ゴマと健康(お勉強でーす)

2006年11月20日 16時53分47秒 | いろいろ
黒ゴマ」は、昔から不老長寿や若返りの秘薬として使われてきました。
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今日のお勉強は「帚木7」で全て復習してみました。







母のこと

2006年11月13日 12時10分18秒 | 母のこと

10月の中ごろケアーセンターにいた母が熱を出してしまった。
センターから電話が入り、付属病院の外来に連れて行く話しだった、
この一週間位から元気ないなぁと思っていた。
急遽病院に急いだが、案じたほど悪くはなかったが。
微熱が続いていたと言う。
普段から水、お茶、ジュースなどあまり摂らないので、又脱水状態かと
思ったが、肺炎を起こしていると言う。
そう言えば、寒がりで皆さん夏姿でも母は寒いと言ってセーターを着用
していた。風を引いていたのかと、、、、思った。
即!入院と言われた手続きをし、保証金(30,000円)を払って点滴が始まった。
ベットは個室しかないと言う、勿論OKする。

と同時にケアーセンターの方はその日の内に退所しなければならなかった。
4ヶ月暮らした部屋に置いてある衣服を整理して持ち帰った。
病院を退院した後、再入所可能なのか?心配だった。

熱が下がる事を切に願った。

嚥下ミスによる肺炎であった。
高齢者に良く有る病気だと言う

先生曰く「皆長生きする様になったからね、良く有るんだよ」と。

お陰さまで20日ばかりで退院し、
ケアーセンターにも戻れて(再入所の手続きが必要)、
又老健の生活が始まった。
こも個室しかなかった。
個室でも良いからもう少しきめ細かに
対応して貰えないだろうかと思う。
車椅子に座り一日食堂に置かれて、足が浮腫んでパンパンになって
いた事が続いた、
そんなことがない様に願っている。

バランスよく老いたいものとつくづくと思う。
アンチエイジングと言われているが、身体を創る細胞は
確実に老いていると思うが、日ごろの鍛錬で,
見た目等ある一部は若くあっても,臓器の全てを若く保つ事は、
まだ先のように思う

母の場合同じ年齢の人より肌等美しいけれど、
飲み込む力は歳相応なのだ。
弟に先立たれた母は,なだらかに老いず
崖から落ちる様にして老いて行く。
見守るしか出来ない自分が歯がゆい。

ケアーセンターから美しい夕日が見えた
母は手を合わせていた、何を願ったの?おかあさん。
             おかあさん

源氏物語(帚木ー雨夜の品定め5)

2006年11月11日 22時28分58秒 | 源氏物語
「いと、さばかりならむ あたりには、誰かはすかされ寄り はべらむ。取るかたなく 口惜しき際と、
(いう)なりと おぼゆばかり すぐれたるとは、数等しくこそ はべらめ。
人の品高く生まれぬれば、人にもて かしずかれて、隠るること多く、
自然にそのけはひ こよなかるべし。中の品になむ、人の心々、おのがじしの
立てたる おもむきも見えて、分かるべきこと かたがた多いおかるべき。
下のきざみといふ際になれば、ことに耳たたずかし」

とて、いと隈(くま)なげなる気色なるも、ゆかしくて、

「その品々(しなじな)や、いかに。いずれを三つの品に置きてか分くべき。
元の品高く生まれながら、身は沈み、位みじかくて人げなき。また直人の上達部
などまでなり上がり、我は顔にて 家の内を飾り、人に劣らじと思へる。
そのけぢめおば、いかが分くべき」

と問ひたまふほどに、左馬頭、藤式部丞、御物忌みに籠もらむとて参れり。
世の好き者にて物よく言ひとほれるを、中将待ちとりて、この品々を
わきまへ定め争う。いと聞きにくきこと多かり。


さぁそれほどのような所には、誰が騙されて寄りつきましょうか

何の取り柄もなくつまらない身分の者と、素晴らしいと思われるほどに

優れたものとは、同じくらいございましょう。家柄が高く生まれると、家人に大切

育てられて、人目に付かないことも多く、自然とその様子が格別でしょう。

中流の女性にこそ、それぞれの気質やめいめいの考え方や趣向も見えて、

区別されることがそれぞれに多いでしょう。下層の女という身分になると、

格別関心もありませんね」

と言って何でも知っている様子であるのも、興味が惹かれて、

「その身分身分ち言うのは、どう考えたらよいのか。どれを三つの階級に

分け置くことができるのか。元の階層が高い生まれでありながら、今の身の上

は落ちぶれ、位が低くて人並みでない人、また一方で普通の人で上達部などまで

出生して、得意顔して邸の内を飾り、人に負けまいと思っている人。

その区別は、どのように付けたらよいのだろうか」

とお尋ねになっているところに、左馬頭、藤式部丞が御物忌に籠もろうとして

参上した。当代の好色者で弁舌が達者なので、中将は待ち構えてこれらの

品々の区別の議論を戦わす。

まことに聞きにくい話が多かった。

             渋谷 栄一著
             GENNJI=MONOGATARIより


源氏の君は頭の中将に聞きます。
「何一つ才能のない人っているのかなぁ?」と
頭の中将
 そんな人の所にはわざわざ騙されて寄り付かないですよ。
 まったく取り柄のない人と、素晴らしいなぁとおもわれるひとは
 どちらも、少ないでしょう。
 身分の高い人は、かしづく女房達も教養があり、いろいろと教えますから
 自然と優秀な人になるし欠点はかくされますからねぇ。
 中流の女にこそ、気質とか 目標などあり、趣向も見えて、個性的ですよ。
 下層の女は格別関心はありませんよ」
 
 と言って、何でも知っている様子に源氏の君は興味をもった。

 「その品々ってどの家を上、中、下と分けるの?
  例えば 高い生まれでも今は落ちぶれて位が低くて人並みでない人、
  普通の人で上達部などに出世して、得意顔して邸を飾り、
  人に負けまいと思っている人。
  その区別はどう付けたらいいのかな」

とお尋ねの所に左馬頭、藤式部丞が物忌みのお伽をしようとやってきました。
いずれも当代の好色者で弁舌が達者なので、頭の中将は待ち構えて、これらの
品々の区別の議論を戦わすことになりました。
まったく聞きにくいお話でした。

紫式部は受領の娘でまぁ言って見れば、生まれは中の品なんですね
中の品は目標を持って生きているとか、個性があるとか、いろんな気質があって
面白い人が多いとか言ってます。
自分の事もチラッと言ってるように私は思いますよ。

源氏が「身分って」何だろう?と疑問を持って議論の種を蒔きますね。
左馬頭、藤式部丞が自分の経験を話し始めます。

     


源氏物語(帚木ー雨夜の品定め4)

2006年11月10日 14時52分33秒 | 源氏物語
「御覧じ所あらむこそ、難たくはべらめ」
など聞こえたまふ ついでに
「女の、これは しもと難(なん)つくまじきは、難(かたく)くもあるかなと、やうやうなむ 見たまへ知る。
ただ うはべばかりの 情けに、手走り書き、をりふしの答へ心得て、うちしなどばかりは、
随分によろしきも多かりとみたまふれど、そも まことに その方をとり出む選びに かならず
漏るまじきは、いと難しや。
わが心得たることばかりを、おのがじし心をやりて、人をば落としめなど、かたはらいたきこと多かり。

親など立ち添ひもて あがめて、生ひ先 籠(こも)れる窓の内なるほどは、ただ 片かどを
聞き伝へて、心を動かすこともあめり。
容貌を かしくうちおほどき、若やかにて紛るる(まぎるる)ことなきほど、はかなきすさびをも、
ひとまねに心を入るることもあるに、おのづから一つゆゑづけてし 出づることもあり。

見る人、後れたる方をば言ひ隠し、さてありぬべき方をば つくろひて、まねびだすに、
《それ、しかあれじ》とそらにいかがは推し(おし)はかり思ひくたさむ。
まことかと 見もてゆくに、見劣りせぬやうは、なくなむあるべき」

とうめきたる気色も 恥づかしげなれば、いとなべてはあらねど、
われ思し合はすることやあらむ、うちほほ笑みて、

「その、片かどもなき人は、あらむや」とのたまへば


「ご覧になる値打ちのあるものは、ほとんどないでしょう」と申し上げなさる。

そのついでに

「女性で、これならば良しと難点を指摘しようのない人は、めったにいないものだ

なぁと、だんだんと分かって参りました。ただ表面だけの風情で手紙をさらさらと
  
走り書きしたり、時節に相応した返答を心得ていて、身分相応にまあ良いと思う者

は多く拝見しますが、それも本当にその方面の優れた人を選びだそうとすると

絶対に選に外れないという者は本当にめったにいないものですね。

自分の得意なことばかりを、それぞれ得意になって、他人を貶((おとし)めたりなどして、

見ていられないことが多いです。


親などが側で大切にかわいがって、将来性のある箱入娘時代は、ちょっとの

才能の一端を聞き伝えて、関心を寄せることもあるようです。

容貌が魅力的でおっとりしていて、若々しく家事にかまけることのないうちは

ちょっとした芸事にも、人まねに一生懸命に稽古することもあるので、

自然とと一芸をもっともらしくできることもあります。

世話をする人は、劣った方面は隠して言わず、まぁまぁと言った方面を

とりつくろって、それらしく言うので

《それは、そうではあるまい》と見ないでどうして推量で貶めることが

できましょう。本物かと思って付き合って行くうちに、がっかりしないというの

は、きっとないでしょう。

と言って、嘆息している様子も気遅れするようなので、全部が全部というのではな

いが、ご自身でもなるほどと、お思いになることがあるのであろうか、ちょっと

笑を浮かべて

「その、一つの才能もない人というのは、いるものだろうか」

とおっしゃる。

            渋谷 栄一著
            GENNJI=MONOGATARIより



源氏〓「あなたこそ沢山お持ちでしょう、あなたの恋文を見せてくれるなら、自分もこの厨子を
      思い切って開けてお見せしましょう」
頭の中将〓「私などお見せするような物等ありませんよ」
そのついでに頭の中将曰く
頭の中将〓「女性で難点のない人はめったに居ないものだとこの頃分かりました。
      ただ表面だけの手紙をさらさら書く人、季節に相応しい返事をよこす
      人、身分相応な人はおりますがね。
      でも本当に優れているのか分かりませんよ
      これが得意だと言っても、その程度は分かりませんね。
      箱入り娘のうちはおっとりとしていて、若々しくて他人がやるからと
      自分も一生懸命に練習をして一芸が出来たとしても、お世話する人
      は良い所を過大に言いますからねぇ、劣ったところは、隠しますね
      (それはちがうでしょう)と思っても実際を知らないので当てずっぽうで悪くは言えませんし
      本当かと思って付き合えば、がっかりすることがありますよ。」
と言ってため息と付きます。

中将の話の中で全部ではないが、源氏の君も思い当たる事があるらしく、
にやりとして、

「今の話しのように一つも才能がない人というのは、いるものだろうか?」
とおっしゃる。  

17歳位の少年がこんな話をするわけですよ。小生意気なと思いますね、
女性の品定めして自分はどうなのよ。って言いたいですねぇ。
まぁ、お話の中でのことだから、こらえますがね。ウフフ、、、。

源氏も何かに寄りかかりながら、白いお召し物でやわらかな物の上に直衣だけ
気楽に召して、紐など結ばずにいると書かれて居ます。
しどけない姿を想像しませんか?
女性の様だとも書かれていますよ。
きっと綺麗だったのでしょうね、
葵の上の(源氏の正妻)兄である頭の中将も、美しい人で何時もこの源氏の君と張り合う仲です、
ライバルなんですが、でも仲良しです。
後で出てくる紅葉賀の中で二人が素晴らしい舞を舞います。
居合わせた人たちが息を呑むシーンが出てきますよ、
その時源氏は意中の人つまり父親の側室の藤壺に、
踊りを捧げる様な気持ちで舞うんですよ。
お楽しみにね。
まだ暫くこの女性の品定めが続きます。    
 

    いつもお読みくださり有難うございます
                           u-ko  

こども自然公園(大池)

2006年11月08日 22時48分37秒 | 水彩画

こども自然公園には
田んぼがあります。前回行った時には「案山子」が5体くらいお米の見張りをしていました。
この田んぼは、近くの小学生が作っているそうです。
お米は全部「もち米」で12月になると、全校生徒で「餅つき大会」開き
自分たちで作ったお米で、自分たちが搗いたお餅を 頂くそうです。
勿論、近くの農家の方々の協力と、父兄のお力添えがある事でしょうが。
世の中、学校問題が多いのに、素敵な行事を持っていていいなぁと思い、丹精込めて作ったであろう、お米を描いてみました。




源氏物語(帚木ー雨夜の品定め3)

2006年11月06日 00時15分31秒 | 源氏物語
つれづれと降りくらして、しめやかなる 宵の雨に、殿上にもをさをさ 人少なに、
御宿直所も 例よりは のどやかなる 心地するに、大殿油 近くて書どもなど 見たまふ。
近きお厨子なる色々の 紙なる文どもを 引き出でて 中将わりなく ゆかしがれば、
  「さりぬべき、すこしは見せむ。かたはなるべきもこそ」
と許したまはねば、
  「そのうちとけて かたはらいたしと 思されむ こそゆかしけれ。
   おしなべたる おほかたのは、数ならねど、程々につけて、
   書き交はしつつも 見はべりなむ。おのがじし、恨めしき折々
   待ち顔ならむ 夕暮れなどのこそ、見所はあらめ」
と怨ずれば(えんずれば)、やむごとなく せちに隠し たまふべきなどは、
かやうに おほざうなる 御厨子などに うち置き散らしたまふべくも あらず、
深くとり置きたまふべかめれば、二の町の心安きなるべし。
片端つづ見るに、
   「かくさまざまなる物どもこそ はべりけれ」
とて、心あてに
   「それか、かれか」
など問ふなかに、言い当つるもあり、もて離れたることをも 思ひよせて
疑ふも、をかしと思せど、言少なにて とかく紛らはしつつ、とり隠したまひつ。
   「そこにこそ多く集へたまふらめ。すこし見ばや。さてなむ、
    この厨子も心よく開くべき」
とのたまえば



つれづれと降る雨の日も暮れて、しめやかなる夜の雨に、殿上の間も人少で

ご宿直所もいつもよりはのんびりとした気分なので、大殿油を近くに寄せて

漢籍をご覧になる。

近くの厨子にあるさまざまな色彩の紙に書かれた手紙類を取り出して、

中将がひどく見たがるので、

   「差し支えのないのを、少しは見せよう。
    不体裁なものがあっていけないから」

とお許しにならないので、

   「その気を許していて人に見られたら困ると思われなさ文こそ
    興味があります。普通のありふれたのは、つまらない
    わたしでも、身分相応に、お互いにやりとりしては見ておりましょう。
    それぞれが、恨めしく思っている折々や、心待ち顔でいるような
    夕暮れなどの文が、見る価値がありましょう」

と恨み言をいうので、高貴な方からの絶対に

お隠しにならねばならない文などは、このようになおざりな御厨子などに

ちょっと置いて散らかしていらっしゃるはずはなく、奥深く別にしまって

置かれるにちがいないようだからこれらは二流の気安いものであろう。

少しずつ見て行くと、

    「こんなにも、いろいろな手紙類がございますなぁ」

と言って当て推量に

    「これはあの人か、あれはこの人か」

などと尋ねる中で、言い当てるものもあり、外れているのを勝手に想像して

疑るのも、面白いとお思いになるが、言葉少なに答えて

何か言い紛らわしては、取ってお隠しになった。

   「そなたこそ、たくさんお有りだろう。少し見たいね。そうしたら、この
    厨子も気持ちよく開けよう」

とおっしゃると、


所在無く降るあめの一日がくれて、侍臣の詰所も人が少なく源氏のお部屋も静かでした。
大殿油の火を寄せて(火を取り分けて、手元を明るくして)書物など見ていると
いつもの様に「頭の中将」がきて、近くの厨子にあるさまざまな彩色の手紙を
取り出して、ひどく見たがるので
  「差し障りのないものなら少しは見せてあげるよ、
   なかには 見苦しいものもあるからね」
となかなか許さない源氏です。
   「気を許してうちとけた方の文で見られたら困るとお思いになる
    文こそ見たいですね。
    普通にありふれたものなら、私みたいにつまらない者でも分相応に
    やりとりできますから。
    例えば女性達が男性を恨めしく思っているのとか、
    男性の訪れを心待ちしているのとか、見る価値があります」
と恨めしく言うので 仕方なく出してお見せする、でも
高貴な身分の方々からの、大切な物はこんな手近な厨子に、
置いてあるわけは無くこれらは 二流の気安いものだったのです。
    「よくまぁー いろいろなものがありますねぇ」と言いながら
当てずっぽうにこれはあの人から?とか、これはこの人から?
なんて勝手に決め付けて当たっているのもあり、外れているのもあり
源氏は面白く聴いています。
そして何とか言い紛らわして隠してしまいます。

  「あなたこそ沢山おもちでしょう、すこし見せていただきたいなぁ
   そうした後ならこの厨子も潔く開けますよ」
とおっしゃる。