50のひとり言~「りぷる」から~

言葉の刺激が欲しい方へ。亡き父が書きためた「りぷる」(さざ波)を中心に公開します。きっと日常とは違った世界へ。

「わかっているよ。・・・

2014-12-19 22:25:47 | 小説
「わかっているよ。仲間は仲よくしなくちゃね」あたかも英次は以前の記憶に頼るように、職場で常に思った記憶を無意識に引き出している、そんな声を投げ与える。が頭の曖昧な事情である英次。本能に条件反射をするばかりのリスに懐き、なじみ、親しむ限り、会社へ行くという思いを日々かたくなに保ち続けることを、その英次の声が表していた。
弁当箱を膝の上に開ける英次は、会社のビルを出た角の食堂で同僚と共にいる気分だった・・・卵焼きが好き、おイモは太るから嫌い。一個の梅干しが英次の念頭にふと妙子を浮かばせる、けれどもすぐに梅干しを茂みの中に捨ててしまった。リスたちを逃げ腰にさせると英次は、叱られたような赤面をつくるのだ。
「怒りっぽいのはよくない」
よくないと見あげているリスたちがいる。神妙な英次だった。嫌われては取り返しがつかなくなる思いがして、「ごめんなさい」もどもどと身を揉むのだった。好悪の感情が異常な反応をしたが、思考が半ば麻痺した英次はそんな場合には、決まって尿意を催していたものであり、気分に支配される尿意と欲情を同時に覚えてしまう、症状が重なってきたので、急ぎ股間を手の平で被っているのだ。それは誰にも信じて貰えない苦痛と、英次にのみ覚える快感の一瞬の訪れだ。眼下の街がゆがむ時、手の平に冷たいものを感じて、それはおさまっている。リスたちには感づかれなかったようだった。

(つづく)


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