50のひとり言~「りぷる」から~

言葉の刺激が欲しい方へ。亡き父が書きためた「りぷる」(さざ波)を中心に公開します。きっと日常とは違った世界へ。

英次は市中の公園にきて・・・

2014-12-18 21:17:18 | 小説
英次は市中の公園にきて、空腹をもっぱら覚えながらベンチに腰かけている。欲望は食欲が占めたところでリュックを股間の地に、やおら据えると、城址の高みから消防署や市庁などを見晴らす。昼休みの小さな人影の賑わいを路上に見おろすことで、何となく会社へきている気分らしくなった。現に英次の背後を過ぎる誰かには、リュックが見えず英次に昼休み時のサラリーマンを疑わないのだった。ある中傷や軽蔑の視線はそこでは避けられた。
リンゴ、バナナ、お弁当とリュックの中を探る時、英次は遠足に似る気分へと移ると、二つの気分が肉体に記憶されていたものの現れ。といえば似非サラリーマンの英次なのだ。眼下、すぐ近くの茂みにリスが走り寄って、英次に親しみ始めた。日々ここを訪れたので、リスが会社の同僚になり、そこが英次の会社であった。何となく英次は会社へきていて、二個のうちのリンゴを一個足もとに転がしてやるのも、その同僚との親睦を大事にしたいのだからである。リスが一、二.三と顔見知りの数だけが今日も集まり、英次にはかわいさから眺めるのではなくて親しい間柄として、互いに見つめあって、英次がリスに、
「あげる」
と一かじりしたリンゴをそっと添えてやっている。するとリスは抱えきれない好意を、両手を差し出して受ける具合にちょこちょこ寄りつく。尻尾がふさふさして、ネズミじゃない私はリスだから礼儀を知るというのだろう。頭を何度も英次の方にふる。

(つづく)


最新の画像もっと見る

コメントを投稿