50のひとり言~「りぷる」から~

言葉の刺激が欲しい方へ。亡き父が書きためた「りぷる」(さざ波)を中心に公開します。きっと日常とは違った世界へ。

妙子は再び出窓に・・・

2014-12-09 22:19:27 | 小説
妙子は再び出窓に張りつく。卓上の粽に手がつけられていないのを不満にして、今朝英次に粽をつくった心持ちの甘さが腹立たしくもある。ふと手がつけられていない理由をうがった、雄吉にその甘さを見透かされているのではなかろうかという考えが湧くと、妙子は当惑を覚えている。家庭の中に宇宙人を住まわしている気になれば、ならなくちゃねと昨夜の寝しなに取り決めた、にもかかわらず子供の日だからと粽をつくっていた、母親の甘えが悔しい。
「会社へ行く」
と英次はダイニング・キッチンから飛び出して行く。
「いってらっしゃい」
妙子は五年前の調子を意識して、そういった。出て行く英次を目で追う時、英次はひどく猫背の外は当時と一向に変わらなかった。そんなはずはないのだ。と妙子に一瞬間思わせるのは、その背中に見慣れるものが見当たらないからだった。床にリュックサックが転がっている。あわてて、
「英次、お待ちなさいっ」
リュックを忘れていますよと妙子は駆け出す。

(つづく)


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