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LPSAを応援したい

2013-01-29 23:47:00 | 将棋
公益社団法人日本女子プロ将棋協会(LPSA)が棋戦、第6期「マイナビ女子オープン」準決勝対局において、「所属女流プロ棋士・石橋幸緒四段の対局を断念する」ことを発表した。

第6期マイナビ女子オープン準決勝の対局断念について

棋士の本分である対局を放棄するとは乱暴に過ぎるとか、法的に問題のない次期の契約解除を理由に今期の対局をボイコットするのはどうなのかという議論はあるだろう。一般に与える印象も決して良いものではない。そういう意味で必ずしもこの決断は好手とは言えないと思う。しかしそれでも私はLPSAを応援したい。

発足からこれまで、様々な点でLPSAは日本将棋連盟や(恐らくはその意向を慮った)各棋戦の主催者から不公平な取り扱いを受けてきた。また、LPSAに対する対応の多くがとても不誠実で傍目にはおよそ常軌を逸したもののように見えたものであったことも記憶に新しい。問題のうちのいくつかはLPSAの発表の中でも挙げられている。そういった様々な問題が積もり積もって今回の問題が起こっているという文脈からすれば、心情的にLPSAを応援しないわけにはいかない。あの有名な比喩を引用すれば「どんなに壁が正しくてどんなに卵がまちがっていても、私は卵の側に立ち」たい。

対局を放棄するということの意味は、私たちファンが外から指摘するまでもなく、棋士たち自身が誰よりもよくわかっているはずだ。にもかかわらずその決断をせざる得なかったということの意味をきちんと受け止めたい。何より、一人の若い棋士のために、これまで苦しいなか一生懸命積み上げてきたものをゼロにしてしまう恐れがあるにもかかわらず、このような決断をするにいたった彼女たちの志を諒としたい。

それにしても連盟の対応は不可解というほかない。いささかLPSAには厳しい言い方になるが、現在のLPSAは対局結果という実績においても、ファンを獲得するという人気においても、連盟所属の女流棋士と伍しているとは言い難いように思われる。twitterなどでは、だからこそ差別的な待遇にしてもかまわない(「結果を出してから文句を言え」)という趣旨の意見が見受けられたが、そうであれば何もLPSAに対して差別的な待遇をことさらにする必要はないはずである。公平な環境を整備したうえで、対局とファン獲得という双方の競争の中で自然と淘汰していけばいいのでないだろうか。そうではなく、「いじめ」にしか見えないような対応を事あるごとにとってきたのはなぜなのだろうか。

今回の件はtwitter上でもファンの間でさまざまに語られているが、思いのほかLPSAに対して厳しい意見が多いように感じている。それは独立当時からのさまざまな歴史を知らないファンが多いということなのかもしれないし(それ自体はとてもいいことだ)、あるいはLPSAが独立時に掲げていた理想にはまだ十分に達していないということなのかもしれない。今回の決断の是非はさておくとしても、LPSAはこのことを深く受け止める必要はあるだろう。

もうひとつ驚いたのは「これを機にまたひとつになればいいじゃない」という声も結構多く見受けられたことだ。私はむしろ、将棋に携わる様々な団体がもっと多く出てきて欲しいと思っている。それぞれがそれぞれの方法でファンを獲得し切磋琢磨することが将棋界のすそ野を広げることにつながっていくはずだ。そのためにもLPSAにとって良い形での解決が図られることを願っている。

日本将棋連盟も新体制になったところだ。「谷川専務理事」がやってきたことを考えればそんなに多くを期待するのはおかしいとは思う(ナンバーツーがトップに昇格する人事というのは、普通に考えれば方針が変わらないということと同義だ)。しかし、それでも「人格者」という定評のある谷川九段が日本将棋連盟会長として、将棋界のために良い決断をすることを期待したい。

【関連記事】

朝日:将棋の女流新団体が対局拒否 出場資格巡り連盟に抗議

読売:棋士排除するな…女子プロ将棋協会が契約解除

【追記(1月30日午前)】
LPSAの新人女流棋士の扱いについて日本将棋連盟の研修会を経て女流棋士になるべきだという意見がtwitter上では多いようだ。連盟と別団体であるLPSAが自らの基準に基づいてプロ棋士を養成することは当たり前のことだ。それを外部の団体である連盟がどうこう言うことはおかしいように思う。上記の「最後はひとつになるべき」という意見もそうだが、LPSA以外の当事者やファンの多くも「連盟が将棋の本山」という前提に立っているように思えてならない。LPSAはその一支部程度にしか認識されていないのではないだろうか。そうではなくLPSAは現状でも連盟から独立した別個の団体なのだ。連盟以外に将棋に関する団体が存在するということの意味をきちんと整理しないまま今日に至ってしまった結果なのではないだろうか。これはLPSAの存立にかかわる問題であると同時に、将棋界の今後のかたちがどうあるのがよいのかということとも関わってくるような気がする。そういう意味で(語義的なこととは別に)これはやはり「ストライキ」なのだ。

棋士が対局を放棄することの意味も考えたい。何らかの怠惰が理由で対局ができなかった場合、それは大いに非難されるべきだ。しかし、今回の件は事前に理由を述べて通告しているのであって、単なる「サボり」と同一視されるべきではない。マイナビ女子オープンのサイトを見る限りこの対局は不戦敗の扱いになるようである(ストライキを認めない経営者の対応のようだ)。少なくとも関係者にはきちんと向き合ってもらいたいと思う。

【関連記事追記】

石橋幸緒女流四段記者会見 | 松本博文ブログ

マイナビ女子オープン|里見-石橋戦は石橋女流四段の不戦敗に

【再追記(1月30日深夜)】
その後、追加で流れた情報を見る限り、どうも将棋界は一度、膿を出し切った方がいいのかもしれない。少し危惧していたのだが、前会長個人の問題ではやはりなさそうな気がする。

【関連記事再追記】

女流将棋界で対局ボイコット騒動 プロ資格巡り対立:日本経済新聞

日本女子プロ将棋協会(LPSA)による マイナビ女子オープン対局放棄についての記者会見の模様 | 日本将棋連盟

2013年1月29日のLPSA記者会見動画|LPSA

マイナビ女子オープン準決勝対局、断念の背景と経緯説明|LPSA

【関連記事再々追記】

第6回大和証券杯ネット将棋・女流最強戦『対局再延期のお知らせ』(LPSA)

将棋ファンの皆様へ(日本将棋連盟 女流棋士会会長 関根紀代子 理事 谷川治惠)

第6回大和証券杯ネット将棋・女流最強戦2回戦、 中村真梨花女流二段対石橋幸緒女流四段(LPSA所属)戦の 再延期についての記者会見(日本将棋連盟)

【朝日新聞デジタル】(甲乙閑話)女流問題、今こそ対話を

解説会のお礼と先日の事件について - ちゅう太ブログ

LPSAによる一方的な契約解除通知と、石橋女流四段の マイナビ女子オープン対局放棄についての記者会見(日本将棋連盟)

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2 コメント

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Unknown (通りすがり)
2013-01-30 00:45:43
今回の問題で厳しい声が多いのは「現実」が見えているからだと思いますよ。昨今の不況でマイナー競技や文化事業に対する企業の資金援助は大変厳しいものがあります。また、将棋という文化そのものも厳しい状況に置かれていることを将棋ファンは全員認識しています。

LPSAの立場に近い人はみな同じ事を言います。「ボイコットは良くない、でも…」

…で語られるのは常に空疎な理想論と恨み節のみ。目の前にある「スポンサーを非難した上でのボイコット」という行為に対する認識が、多くの将棋ファンとはかけ離れている、という知見を持つべきですね。

LPSAに厳しい声を上げてる人は今までの経緯を知らないからだ、将棋連盟が何をやってきたか知らないからだ、では質の悪い愚民論と言わざるを得ません。
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Unknown (tsurane)
2013-01-30 12:18:15
コメントありがとうございます。仰ることもわかるのですが、スポンサーがどうかというのはそれこそLPSA自身が心配すればいいことであって、多くの方が仰っているのは楽しみにしていた対局がなくなってしまうことへの不満というか、ファンを第一に考えていないことへの非難のような気がしています。

今回の件で、LPSAに厳しい声をあげるファンが多いということを、LPSA自身が認識した方がよいというのは仰る通りだと思います。
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