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『せめぎあう地域と軍隊』

2012-06-02 20:31:00 | くびき野
河西英通著『せめぎあう地域と軍隊――「末端」「周縁」軍都・高田の模索』(2010年、岩波書店)


旧陸軍13師団が設置された新潟県高田市(現上越市)を舞台に、地域と軍隊の間のせめぎあいを描き出した一冊。

13師団は日露戦争下の1905年に編成され、戦後の1907年に高田を衛戍地と決定、翌1908年に旧高田城に入場した。長岡外史や秋山好古が師団長を務めたことでも有名である。しかし1925年のいわゆる宇垣軍縮で13師団は廃止される。本書は、以後、連隊所在地として「末端」、「周縁」の「軍都」となった高田から軍隊と地域の関係性を描き出したものといえる。

一読して気付かされるのは、地域と軍隊の間の冷めた関係性である。たとえば高田の街は師団入場の際に歓迎ムード一色に包まれる。また、師団廃止にあたっても強い反対の声をあげている。しかし、それは地域の活性化を求め、「消費者」、「需要者」としての軍隊に期待した故であった。決して、軍隊であるが故のみをもって、歓迎されたわけではないのである。

日中戦争がはじまるなど戦争が激化していく中で、地域には戦争の影が落ちていく。児童の作文などにみられる意識の変化や企業広告(戦勝を祝う乾杯用にという日本酒広告は興味深い)などの変化はそれを物語っている。しかし、地域と軍隊の冷めた関係は戦時体制下にあっても、強固な緊迫感となってはいない。1938年に宿営地の紹介を受けた和田村(現上越市和田区)の村長が照会から3週間近くアクションを起こしていないという指摘(本書179頁)は興味深い。1945年は豪雪にあたり、軍隊に貸し出した「一人曳雪橇」の紛失が明らかになり、地域からの返還請求により現物での返却が行われているというエピソードもある
(本書208頁)。

また地域と軍隊の矛盾という意味でいえば地域住民でもあり兵士でもあった在郷軍人会と将校団の中に出てくる矛盾も面白い。将校団は数が少なすぎ、地域に浸透するには不十分だったこと。また地域の中では軍隊の階級秩序が貫徹されないため、郷村秩序との乖離が生じることなどの指摘も興味深い(本書第3章)。

「戦争を知らない」私たちは、ともすれば軍隊というものは常に歓迎された存在であるように思いがちだが、実際には現代と変わらぬ、地域で生きる人々との関係の中に軍隊は存在していたのだ。

また、「日本三大夜桜」として知られる旧城跡高田公園の「観桜会」も1917年に師団司令部が構内を解放したことに始まること(本書50頁)や、高田の朝市も師団側からの野菜の定期市場設置の要請に基づく(本書43~44頁)という指摘もある。地域と軍隊の関係が今もその優奈形で残っているというのは非常に興味深い。