V=4/3πr³

詩と物語を紡ぎます

冬の夜話

2017-11-22 01:20:00 | poem


     冬の夜話



風の中に、聴こえてくるのは
張り裂ける、慟哭の声だった
吹雪の中、雪女がまたひとり
恋人を、殺めてしまったのだ



雪女は、哀しいおんなだった
ただ、愛したい、だけなのに
愛し合いたいそれだけなのに
腕の中で男を凍らせてしまう

愛しい男の名を呼んでは哭き
哭いては愛しい男の名を呼び
寂しい、寂しいと悶え狂って
夜通し雪野原を、さ迷うのだ

郷の外れの六道辻で哭き疲れ
寝ている顔は、あどけなくて
若い者は放って置けなくなり
優しい、と女も惚れてしまう

雪女は、滑らかに真白な肌を
惜しげもなしに恋人にさらし
男は寒さを忘れて抱き締める
もっともっと冷たいはずだが

そして夜更けには凍りついて
そのことに雪女が、気付いて
ああ、同じ事の繰り返し、だ
男の名を呼んでは、寂しいと



それで? と新妻は先を急く
それでそれでと擦り寄るから
あまやかな、火照った身体を
さっきの続き、と抱き寄せる

今夜は、激しい雪の夜だから
何処の家でも、こんな具合に
肌身で温めあって、夜を凌ぐ
それがこの郷の、しきたりだ

熱い、熱いよ、としがみつく
新妻の肌も、熱く吸い付いて
皆が皆そんなふうに熱いから
だから雪女は、郷には入れぬ



噺の続きはまたいつかの晩に
その約束が守られた例はない


**

written:2017/11/21〜22
elaborated:2017/11/22

**
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日向ぼっこ

2017-11-21 14:20:00 | daily tsukasa


   日向ぼっこ

ご機嫌よう。【日向ぼっこ】ですか?

ご機嫌よう。ええ、風がちょっと冷たいけれど、まずまずの【日向ぼっこ】日和ですよ。明日は雨だし、しばらくすっきり晴れないらしいから、冬毛をしっかり干して、日光を貯めておかないとね。

ぼくも【もふもふ】冬毛が欲しいです。

うーん、似合わないんじゃないかな、はっきり言って【不気味】かと。

……(にゃー)
……(にゃー)


2017/11/21
10:20 am

**
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

旅びと

2017-11-20 22:14:56 | daily tsukasa


   旅びと

東の空に 東の雲
西の空に 西の雲

昨日の空に 昨日の雲
今日の空に 今日の雲

天頂の空を 流れる旅びと
明日の空は 明日も知らず


2017/11/20
12:45 pm
**
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

地蔵菩薩

2017-11-19 14:38:00 | daily tsukasa


   地蔵菩薩

久しぶりに逢ったお地蔵さまは毛糸帽をかぶっていた。手編みだろうか。

花とお供えがあがっているのも、赤いよだれかけの真言も変わりなくて、ほっとする。

おん かかか びさんまえい そわか。
心の中で九回、唱える。
お地蔵さまが微笑った、気がした。


2017/11/19
12:45 pm
**
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

空き地の記憶

2017-11-18 16:29:00 | daily tsukasa


   空き地の記憶

空き地が小雨に濡れていく。

三十五年前、ここにはクリーニング屋があって、無口な親父が日がな一日Yシャツにアイロンをかけていた。隣りは一階が二十四時間営業のコインランドリー、二階に住人のよく変わる六畳の部屋がふた部屋。道路を挟んだ向かいには、人の良さそうな若奥さんが看板娘の酒屋と交番があった。

クリーニング屋は何時しかシャッターが閉じたきりとなり、コインランドリーは廃業した。酒屋も姿を消してマンションに変わり、交番は過激派に爆破されて閉鎖、小さな公園に変わった

空き地は何年か先、拡張される道路の一部になるらしい。そしてこれらの記憶は行方知れずに、消えてしまうのだろう。

かろうじて保たれた空き地の記憶は、雨濡れて、今日一日分朽ちていく。


2017/11/18
16:00 pm
**
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする