冬の夜話
風の中に、聴こえてくるのは
張り裂ける、慟哭の声だった
吹雪の中、雪女がまたひとり
恋人を、殺めてしまったのだ
雪女は、哀しいおんなだった
ただ、愛したい、だけなのに
愛し合いたいそれだけなのに
腕の中で男を凍らせてしまう
愛しい男の名を呼んでは哭き
哭いては愛しい男の名を呼び
寂しい、寂しいと悶え狂って
夜通し雪野原を、さ迷うのだ
郷の外れの六道辻で哭き疲れ
寝ている顔は、あどけなくて
若い者は放って置けなくなり
優しい、と女も惚れてしまう
雪女は、滑らかに真白な肌を
惜しげもなしに恋人にさらし
男は寒さを忘れて抱き締める
もっともっと冷たいはずだが
そして夜更けには凍りついて
そのことに雪女が、気付いて
ああ、同じ事の繰り返し、だ
男の名を呼んでは、寂しいと
それで? と新妻は先を急く
それでそれでと擦り寄るから
あまやかな、火照った身体を
さっきの続き、と抱き寄せる
今夜は、激しい雪の夜だから
何処の家でも、こんな具合に
肌身で温めあって、夜を凌ぐ
それがこの郷の、しきたりだ
熱い、熱いよ、としがみつく
新妻の肌も、熱く吸い付いて
皆が皆そんなふうに熱いから
だから雪女は、郷には入れぬ
噺の続きはまたいつかの晩に
その約束が守られた例はない
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written:2017/11/21〜22
elaborated:2017/11/22
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