空き地の記憶
空き地が小雨に濡れていく。
三十五年前、ここにはクリーニング屋があって、無口な親父が日がな一日Yシャツにアイロンをかけていた。隣りは一階が二十四時間営業のコインランドリー、二階に住人のよく変わる六畳の部屋がふた部屋。道路を挟んだ向かいには、人の良さそうな若奥さんが看板娘の酒屋と交番があった。
クリーニング屋は何時しかシャッターが閉じたきりとなり、コインランドリーは廃業した。酒屋も姿を消してマンションに変わり、交番は過激派に爆破されて閉鎖、小さな公園に変わった
空き地は何年か先、拡張される道路の一部になるらしい。そしてこれらの記憶は行方知れずに、消えてしまうのだろう。
かろうじて保たれた空き地の記憶は、雨濡れて、今日一日分朽ちていく。
2017/11/18
16:00 pm
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