ラヂオデパートと私

ロックバンド“ラヂオデパート”におけるギタリストとしての津原泰水、その幾何学的な幻視と空耳。

絃低派

2006-12-10 16:40:47 | ギター
 然るべきメイキャップを施し然るべき衣装を着れば、キッスのポール・スタンレー並みに男臭くて胸毛も濃いという噂があるとの噂のある僕だが、この風説には根も葉も無い。胸毛は無いし絃高も低いときている。
 左手で触れば音が出るという状態で、絃高という言葉を使うのもおこがましい。絃低である。気合の入った絃低派である竹内信次氏も、僕のリッケンバッカーには驚いていた。生音ではびゃんびゃんとバズが出る。なに、アンプからの音がちゃんとしていればいいのだ。
 一絃が十二フレット上で一ミリ以内、が基準だ。それ以上高くなると弾く気が失せる。

 昔は太めの絃を張り、その代わり左手に負担がかからないよう絃高を低くしていた。コントラバス時代に腱鞘炎をやっている。その再発がいちばん怖い。竹内さんが絃低派なのも同じ理由による。あと僕は熱中症になりやすい体質で、ライヴ中によく手足が痙攣する。中指が動かない、なんてことがよくある。そういう状況で最後まで演奏しきるためには、色んな省略コードを身につけておく事と、どの指でもストレス無く弾ける絃の状態が不可欠なのだ。

 むかし太い絃を張っていたのは、そのほうが切れにくいという間抜けな錯覚ゆえだ。粘りの無い金属は、たとえ直径が十メートルあったって無理な力には弱い。細くても粘りのある絃なら切れない。例によって我々が国産品だからという理由で小莫迦にしがちなヤマハの絃は、実は粘りがあるので切れにくい。ただし錆びやすいように思う。
 当然ながら、錆びて表面がぼろぼろの絃は切れやすい。Finger-easeのような錆止め効果のある潤滑剤を塗っておけば、錆びにくいから切れにくい。これは効果絶大なので、あらゆるギタリストに試していただきたい。
 無理な力は主にペグ穴、ナット、ブリッジでかかる。これらを目の細かい鑢で滑らかにしておけば切れにくい。ペグ穴以外は音程に関わるので、プロに任せたほうが良いけれど。
 無理な力は絃をヒットした瞬間に生じる。それが上手く逃げてくれるような粘りのあるピックを使い、手首を柔らかくしていれば切れにくい。

 細い弦はテンション(張り)が弱い。すなわちネックへのストレスが少なく、サスティンも長い。しかしフレット間に盛大にめり込むので、力んで弾くと簡単に音程が上がってしまう。
 ぶっとい絃を無理やり鳴らした時の迫力というのは確かにあって、そのコンプレッション感にも欠ける。ただし民俗楽器を彷彿させる、別種のダイナミズムが細い絃にはある。
 細い絃でしかも絃低だとスライドを弾きにくい。抵抗が無いのでバーがフレットに当たってしまう。気をつかって浮かせて弾いていると、バーが絃から離れて音が途切れる。だから僕はスパニッシュギター(普通のギター)でのスライドはやらない。必要な時はそれ専用のギターを使う。

 太朗のベースは絃高が高い。直してやろうかと云うと、今のままが弾き易いからやめてくれと云う。でもギターは絃低のほうがいいと云う。
 僕はベースもべたべたに下げている。ベースでは太朗と同様、こもり気味の音色を好むので、フラットワウンドの絃を張り、トーンコントロールも絞っているから、バズは気にならない。
 まともなアコースティックギターは現状、Taylorくらいしか持っていないが、これは最初から恐ろしく絃低である。しかもバズが気にならない。どういう魔法を使っているのか、僕ごときには想像がつかない。

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